第39話 謎解き

 私たちは、応接間へ一番乗りした。少ししてから、青田さんがやってきた。

「あの、青田さん、ホワイトボードみたいなのって、ありますか?」

「ええ、ございます。お待ち下さいませ」

 係長が尋ねると、青田さんは取りにいった。それから弁護士二人が部屋に入ってきた。

「村田、何が始まるんだ?」

「先輩、謎解き開始です」

「んまあ、わくわくするざますわ!」

 テンションが両極端な弁護士は下座に座った。豊さんと昭恵さんが正代さんを連れてきた。弥太郎さんは進次郎さんとともに上座に座るなり、ふてぶてしく電子タバコを吸い始めた。竹葉さんと恵子さん親子もやってきた。豊さんは恵子さんの手を握って隣に座った。海山刑事がララさんと一緒に入ってきた。

 青田さんと赤羽さんがホワイトボードを応接間に運び入れた。係長は畳が傷つかないように慎重に見えやすい位置に自分でセッティングしていた。

 しばらくして、権藤さんがやってきた。

「私が呼びました」

 係長は、弥太郎さんが怒りをあらわにしようとした瞬間に言い放った。権藤さんは私の隣に腰を下ろしてあぐらをかいた。最後に、宇都宮さんが入室して、全員が揃った。

 みんな、何が始まるのかと若干緊張しているように見えた。係長は、ホワイトボードに家系図を書いていた。猿渡さんがみんなに渡して回った家系図をそっくり書き写していた。

「えー、皆さん、県警の村田です。今から、皆さんの前で、一連の殺人事件の謎解きをしたいと思います」

 係長が言った途端、その場に動揺が走るのを感じ取れた。係長は下座に置いたホワイトボードの前に立ち、マーカーペンを手に持ちながら演説を始めた。

「今回の連続殺人事件は、大きく二つに分けることができます。弥二郎さんとマリアさんの事件。それと、大次郎さんと照子さんの事件です。この二つの事件は全く性格が違います。一つは遺産相続に端を発した事件、そしてもう一つは復讐によって引き起こされた事件です」

 係長はみんなを見回しながら言った。ただ、側に座っている京子の膝の上に乗っかっているしし丸を若干気にしてはいたが。

「断っておきますが、私が話すことには推論が含まれますので、正確ではない部分があります。じゃ、時系列でお話しましょうか。まずは弥二郎さんの事件についてです。遺言状が公開されたすぐ後に、一太郎さんの息子である弥二郎さんが現れました。戌井弁護士と猿渡弁護士が作成した家系図には、このように、“弥二郎” と書かれてありました」

 係長はホワイトボードをペンで指しながら言った。

「この時点では、まだ年齢が不明でしたが、名前に “二” という漢字が入っている弥二郎さんは、普通に考えると、弥太郎さんの弟です。そのように誰もが思ったはずです。ブラジルから来た癖のある日本語を話す弥二郎さんは、日本国籍がなく、年長者でもない。だから、相続する資格はないと、皆さん、そう思われたんじゃないでしょうか」

 係長はマーカーペンで弥二郎さんの名前を小突きながら話した。

「なぜ、弥二郎さんは殺されたのか。ひょっとしたら、弥二郎さんは日本国籍を保有しているかもしれないし、年長者かもしれないという可能性があった。だから、犯人は遺産相続を確実にするために弥二郎さんを殺した、ということが考えられます。しかし、屋敷内で殺人が起こると、犯人はかなり絞られてしまいます。なので、弥二郎さん殺害は、かなりリスクの高いことだったと私は思います。そんなリスクをわざわざ犯すのだろうかと、私は疑問に思いました」

 係長は冷静に話し続けた。

「犯人はおそらく、弥二郎さんが年長者かもしれないことを、知ってしまったのだと思います」

 係長が言うと、猿渡さんは視線を落として何かを考えているようだった。

「先輩、戌井さんと議論がヒートアップした時、そういう話をしていませんでしたか?」

 猿渡さんは、大きく息を吸い込んで、うんうんと頷いた。係長の方を向いて、戌井さんも頷いた。

「やっぱりそうですか。その時、その話を部屋の外で立ち聞きしていた人物がいました。その人物が、スープに毒を入れて、弥二郎さんを殺害したのです」

 みんな、ざわざわし始めた。

「その人物は、宇都宮さん、あなたです」

 みんな、瞬時に宇都宮さんに顔を向けた。

「……いや、村田さん、何をおっしゃるのかと思えば、私が弥二郎さんを殺したと? そんなこと、推論で話されては困りますわ。警察の捜査で、誰が毒を入れたのか、未だに証拠が見つかってませんよね。海山さん、そうですよね?」

「え、まあ、はい……」

 宇都宮さんに訊かれて、海山刑事は苦しそうな返答をした。海山刑事は助けを求めるような顔で係長を見たが、係長は宇都宮さんをじっと見ていた。宇都宮さんはばつが悪そうに係長から目を逸らした。



菊一(故)

 ‖―――――― 一太郎(96)

とめ(故)  |    ‖―――――― 弥太郎(67)

     |    正代(95)  |   ‖――――― 豊(34)

     |         |   昭恵(65)

     |         |

     |         ―― 弥二郎(66)

     |             ‖――――― ララ(26)

     |            マリア(51)

     |

     ――― 大次郎(93)

          ‖―――――― 小次郎(67)

          照子(95)      ‖――――― 進次郎(33)

                   フネ(67)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る