第38話 写真

 想定外の連続に一喜一憂していると、高木先輩から連絡が入った。

「おう、高木か。……。そうなのか……。おう、おう……。そうか……。わかった」

「係長、どうでしたか?」

「おう、入院中の小次郎さんを確認できた。呼吸器不全で意識不明の状態が三ヶ月続いてるみたいだ」

「三ヶ月もですか……」

「まあ、そんなに長く……主人が大次郎さん宅に行く前からでしょうか……」

 豊さんと昭恵さんは悲痛な顔をした。

「それと、写真を送信するってよ。小次郎さんの中学時代のと、フネさんの昔のやつと」

 係長は自分のスマホの画面を見ながら言った。すぐに送信されてきたようだった。

「おう、中学時代の写真か。んー、古すぎるな。お前らにも送信するわ」

 そう言われて私は自分のスマホ画面を見た。

「おう、どうだ香崎、二段目の左端が小次郎さんなんだが」

 赤丸で囲まれた人物を見たが、さすがに昔すぎて小次郎さんの現在の姿を想像できなかった。すぐに別の写真も送信されてきた。

「おう、フネさんが東京で流しの歌手をしていた時の写真だ」

 昭和の写真が表示されたスマホの画面を、角度を変えたりしながら、係長は見ていた。

「おう? これ……」

「係長、どうかしましたか? いかにも流しの歌手っていう感じですね」

「昭和のー、歌謡歌手ですねー」

 係長は何か考え事をしながら、スマホを操作していた。それから電話をかけた。

「おう、高木、今俺が送信した写真だが、小次郎さんの同級生の人に見せてくれないか。おう、頼む」

 係長は電話を切って、すごく真剣な表情で深く何かを考えていた。京子がしし丸を抱っこしながら、きゃっきゃと喜んでいたが、そんなことは眼中になく、係長はすごく真剣だった。しばらくして、高木先輩から連絡がきた。

「おう、高木。おう、おう……。おう……。おう、マジか! おう、おう、わかった。それで、容態は? おう、おう……。そうか、わかった」

 係長は静かに電話を切った。ちょうどそこへ、海山刑事がやってきた。

「村田さん。あ、これは豊さんとお母さんも。あの、村田さん、ちょっと、いいでしょうか」

 海山刑事は捜査情報を伝えに来たようだった。

「……あ、海山さん、ここで話してもらっても構いませんよ」

 係長はいつになく真剣に言った。

「あ、そうですか。マリアさん殺害の凶器が判明しました」

 私は驚いた。豊さんと昭恵さんもだった。

「前に、この屋敷から押収したやつですよね」

 係長はわかっていたかのように言った。

「はい、そうです」

 海山刑事は驚き気味に言った。係長は腕を組んで、目を閉じて考え始めた。まるで瞑想しているかのように静かに。私と京子は、今まで見たことない係長の行動に少し戸惑っていた。豊さんは机の上に広げた紙をじっと見ていた。

 数分してから、係長は深く息を吐いて、目を開けた。

「おう、今回の連続殺人事件、解けたぞ」

 係長は机の上の古びた紙に目をやりながら、低い声で言った。

「え!? 係長!?」

 私は思わず声を上げた。

「海山さん、屋敷にいる全員を、応接間に集めてくれませんか。あ、権藤さんも」

「はい、わかりました」

 海山刑事は興奮気味に部屋から飛び出していった。

「豊さん、昭恵さん、正代さんを応接間までお願いします」

 二人は興奮気味に無言で頷いた。

「おう、香崎、磯田、行くぞ」

 係長は机に置かれた紙を箱に戻して、応接間へ向かった。

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