第37話 謎の家系図

 屋敷へ着くともう昼だった。昼食を取り、豊さんと昭恵さんとともに客間へ戻った。


「豊さん、弥太郎さんは蔵で何かを探していたんですか?」

「はい、そうだと思います。僕は蔵の中で、父と進次郎が何をしているのかずっと見てました。明らかに、何か特定のものを探してるようでした。でも結局、見つからなかったようです」

「そうですか。これを見てもらえますか。神社の社務所の宝物殿で権藤さんが見つけたんです。この箱だけ、他のよりも新しいので気になったそうです」

 係長は権藤さんから預かった箱を豊さんに渡した。

「何だろう」

 豊さんは箱から古びた書類をいくつも出して机の上に広げ始めた。

「我々は、社務所でちらっと見たんですが、達筆な文字だから、読めなくて……」

 係長は少し恥ずかしそうに話した。

「村田さん、僕も読めません……」

 豊さんは書類を広げながら首を傾げていた。すると、ある一枚の書類が机に置かれた時、私たちの目はそれに釘付けになった。

「……これは……」

「え、家系図……」

 猫田家の家系図だった。“猫殺無情左衛門ねこごろしむじょうざえもん” から菊一さんまで直系で、菊一さんととめさん夫妻以降の詳細な系譜が書かれてあった。

「おう、作成日があるな。19XX年2月22日作成か。30年くらい前か」

「……いや、これは……」

 豊さんは唖然としていた。昔の人が書いた文字のため、何と書いてあるのかはっきりと読めなかったが、それにしても見てすぐに違和感を持つ箇所があったからだ。私たちもただじっと見ていた。それから豊さんは、別の書類を机に置いた。

「おう、これ……」

「……母さん、これ、どういうこと……」

「……私も、こんなこと聞いたことないわ……」

 豊さんと昭恵さんは二つの書類を見つめて、言葉が見つからないようだった。私たちも予想外の内容にただ見ている他なかった。

「あ、母さん、これ、大次郎さんの住所だ」

「本当ね。私も初めて見たわ」

 二人の会話に、係長はハッと何かを思い出して、上着の内ポケットをがさがさと探った。

「そうだ、これ、忘れてた。豊さん、郵便局の方から、これを渡しておいてほしいって言われてて、忘れてました。小包の控えです」

 係長はしわくちゃになった紙を渡した。

「えー、今さらー」

「係長、もう何日も前のやつですよね……」

「おう、忘れてたんだよ」

 係長は私と京子に嫌味ったらしく言った。

「村田さん、これって、大次郎さん宛に送ったってことですね、宇都宮さんが……」

「何かしらね。どうして宇都宮さんが、大次郎さん宅の住所を知ってたのかしら?」

「ん?」

 係長だけでなく、私たちも疑問に思った。

「父が、三ヶ月前に、大次郎さんの家に行く時に、初めて祖母から大次郎さんの家の住所を聞いたんです。その時まで、父も母も、僕も、住所を知りませんでした。年賀状のやり取りすらしていませんでしたから。でも、これ、宇都宮さんが差し出した日付が、父が行った日よりも二週間くらい前になってます」

「うちが荷物とか何かを送る時は、猫田の名前で送ります。使用人の方のお名前を出すことはありません」

 豊さんと昭恵さんが不思議に思って話すことを、私たちも同じく不思議に思って聞いてきた。

「おう、宇都宮さんが大次郎さんの家の住所を知っていた……それで、何かを個人的に送った……」

「怪しいですねー」

「係長、絶対に何か裏がありますね」

 私は、想定外なことにより捜査が進展しているのを感じた。

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