第33話 マスコミ
七日目の朝を迎えた。
いつも通り、仕出し弁当を朝食に食べた。毎度のごとく、弥太郎さんと進次郎さんコンビは嫌そうにすぐに退室していった。
海山刑事がやってきたので、屋敷の池の捜索を見に行った。
「村田さん、今日で池の捜索は三日目です」
「凶器が見つかればいいんだが」
「そうだ、押し入れの血液ですが、A型だと判明しました。ちなみに、大次郎さんとマリアさんがA型です」
「んー、それだけでは何とも言えないな」
「海山さん、マリアさんの死因は判明したんでしょうか?」
私は尋ねた。
「あ、はい。顔面と頭部を殴られたことによる外傷性ショックです。何か平らな物で殴られたようですね」
「平らな物?」
「ええ。ごつごつしてない平べったい物だそうです」
「おう、何だろな」
「うーん、バケツ、とか……」
私たちは考えたが、特定の物に絞り込めなかった。庭では池以外でもまだ鑑識係が作業をしていた。私たちは見て回りながら、屋敷の裏の方まで来た。すると、弥太郎さんと進次郎さんが蔵の鍵を開けて、中へ入っていこうとしているのに出くわした。
「おう、怪しいな」
「係長、どうします?」
「おう、止める権利はないしな……豊さんに知らせるか」
私たちは屋敷へ戻り、豊さんにそのことを伝えた。豊さんは昭恵さんを伴って蔵へと向かった。
「父さん、何が気になってるんだ?」
豊さんは蔵の中へと入って声をかけたが、弥太郎さんは無視していた。
「おい、部外者は入ってくるなよ」
代わりに私たちにそう言った。私たちは客間へと戻ることにした。
屋敷に入るとすぐに、海山刑事が話しかけてきた。
「村田さん、厨房の刃物からは血液反応は出ませんでしたが、代わりに、これ。平らですよね」
海山刑事はビニール袋に入ったフライパンを手に持って言った。
「それと、これもです」
同じくビニールに入れられた金属製の風呂桶だった。
「とりあえず、私は署へ戻りますね。では」
海山刑事は手押しの台車にたくさん物を乗せて屋敷から出て行った。
すぐに昼食の時間になった。仕出し弁当は好物の焼肉だったが、不快な雰囲気の中で食べる食事は味気なかった。
食後、私たちは重大なことに気づいてしまった。権藤さんのことだ。権藤さんは食べるものも飲むものもないことに、私たちは気づいてしまった。
「おう、朝飯も昼飯も持っていこう」
私たちと豊さんはすぐに “
猫髪村の入り口には何台もの車が停まっていた。カメラを持ってうろうろしたり、ビデオカメラを村の方へ向けたりしている人たちがいた。明らかにマスコミ関係者だと思われた。私たちは彼らからマイクを向けられたが、無視して神社まで走った。
神社へ続く階段の前に来ると、警察の立入禁止の黄色いテープが植え込みと電柱の間に貼ってあった。
私たちは急いで階段を上って社務所へ行った。
「権藤さん、遅くなってすみません。飯を持ってくるの忘れてました」
「全然問題ないです」
係長が謝ったが、権藤さんは平然としていた。よく見ると、権藤さんは缶コーヒーを傍らに置いていた。
「えっ! 権藤さん、それ!」
係長は目を輝かせて興奮した。
「ん、ああ、コーヒーですか。刑事さん、コーヒー好きでしたね」
権藤さんは机の下からダンボール箱を引きずり出して、中から缶コーヒーを取り出して係長に渡した。
「うわおっ、缶コーヒーだぁっ」
係長は少年のように目を輝かせて喜んだ。
「あの、権藤さん、なぜここに缶コーヒーが?」
私は尋ねた。
「昨年の “
「そうだ、昨年は権藤さんに準備を手伝ってもらいましたね」
豊さんが言った。権藤さんは仕出し弁当を受け取って机の上に面倒くさそうに放り投げた。
「そうだ、豊さん、宝物殿を見とったら、比較的最近に誰かが物を置き換えたりしとるみたいでした」
「え? 誰がここに入るんだろう……祖父くらいしか……」
「まあ、時間があるんで、私が整理整頓しときます」
「権藤さん、コーヒー、もう一ついいですか?」
係長は貧乏臭そうに言った。権藤さんは四つほど缶コーヒーを係長に渡した。係長は上着のポケットに入れて、ウキウキ気分だった。
私たちは屋敷へ戻った。
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