第30話 進展?
京子を落ち着かせるために、客間へ戻った。
「あー、小春ー、怖がり疲れたわー」
「少し休んでから、お風呂に行きましょ」
「ダメよー、そんな気力ないわー」
朝起きた時は、水道管が復旧したことを喜んでいたのに、京子はすでに疲れ果てていた。
「あー、しし丸ー」
しし丸は実際にはいなかった。京子は妄想を見ているかのように空気を抱きしめてニヤニヤしていたのだ。
「おう、気持ち悪いな」
係長は自分のことを棚に上げて言った。昼食の時間になると、京子はすぐに復活して元気になった。
昼食時、青田さんも赤羽さんも元気を取り戻していた。全員一緒に仕出し弁当を食べた。
「さてと、京子、お風呂行きましょ」
「そうねー、私はシャワーだけだけどー」
「俺は湯船に浸かろうかな」
係長は私と京子に普通に自然について来るようだった。
「海山さーん、ここに変質者がいますよー」
「おう、冗談だろ、叫ぶなよ、みっともない」
係長はペットボトルのお茶を飲みながらしょんぼりと畳に座って柱にもたれた。私と京子は浴場へ向かった。
入浴を終えて、私と京子が客間へ戻ったら、豊さんが係長と話をしていた。
「おう、長いな。なんで女の風呂はこんなに長いんだよ」
「たったのー、2時間くらいですー」
「十分長いんだよ」
係長はすぐ側にいるしし丸を警戒しながら言った。しし丸は係長に対して威嚇するようなポーズを取って、京子の方へ寄ってきた。
「しし丸ー、お風呂入ったのわかるのねー。臭いおっさんは嫌よねー」
京子はしし丸を抱き上げた。しし丸は嬉しそうに京子に体をなすりつけていた。
「……おう、猫の嗅覚って、どれくらいすごいんだ? 犬よりは劣るよな?」
「そうですね。犬のほうが優れていたはずです。係長、どうかしましたか」
「それでも人間よりは、はるかに優れていますよ」
豊さんが言った。
「おう、ララさんの部屋の押入れの件だがよ……」
「それがどうしたんですかー?」
「おう、磯田がギャーギャー騒ぎ出したからよ、てっきり心霊現象か何かかと思っちまった。でも、何かの匂いのせいで、しし丸がララさんの部屋に入っていったのかもな」
「でもー、何もなかったんですよねー」
「おう、何もなかった。だが、元々何かが置かれていたのかもしれんな」
「何かがですか?」
「おう、例えば、匂いのするもの、血の付いた包丁とかな」
係長が言うと、私も京子もハッとした。
「係長、海山刑事に血液反応が出るか調べてもらいましょう」
「おう」
私たちは屋敷の庭で海山刑事を見つけ、事情を説明し、弥二郎さん一家が使用していた客間の押し入れを鑑識係に調べてもらった。すると、すぐに反応が出た。ごく少量であるが、血液反応が出たのだ。
「村田さん、出ましたね」
「ただ、猫の血かもしれないし、弥二郎さんが押し入れの中で手を擦りむいただけなのかもしれんしな」
「まあ、署で詳しい調査の結果を待ちましょう」
みんな、捜査が進展すると期待しているようだった。
「そうだ、村田さん。権藤さんと竹葉さんを、昨晩、参考人から外しました。それで、駐在所はまだ使用できませんので、お二人の住む場所をどうしようかと思ってるんです。実は昨日の夜も大南署に泊まってもらってるんです。どうしましょう?」
「ああ、そうだな」
係長はそんな話を振られても困るという感じだった。
「うちに来てもらえればと思いますが……ただ、父が許可しないと思います。ですが、竹葉さんだけなら、大丈夫な気がします」
豊さんが申し出た。
「そうだな、とりあえず、屋敷に呼んでもらいましょうか」
その時、係長に電話がかかってきた。
「はい、村田です。あ、課長。はい、はい、え、早いですね。……。……。……。……。はい、わかりました。では」
係長は一点を見つめながら真剣な表情で電話を切った。
「係長、課長は何と……」
「クビですかー」
「違う! 弥太郎さんのDNA検査の結果が出た」
「え! もうですか。早いですね」
「おう、科学捜査研究所に無理言って、四六時中検査装置を回してもらってたそうだ」
「それで、結果は?」
「おう、弥太郎さんは、本人で間違いない。採取した粘膜と、ブラシの髪の毛の遺伝子は、99.9%以上一致していた。それと、弥二郎さんも、弥太郎さんと兄弟で間違いないそうだ」
私たちは、特に豊さんは、想像していたとはいえ、驚きを隠せないようだった。
「そうですか、父は偽者ではなく、本人なのですね……」
「私ももしかしたら偽者かもしれないと思っていたのですが、スッキリしました。では、一旦署に戻りますので。また後で」
海山刑事は鑑識係とともに大南署へと帰っていった。
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