第28話 捜査会議?
すぐに夕方になった。水道工事業者は夜通しで水道管の修理をしてくれるそうで、すでに櫓を組んで工事用のライトがたくさん取り付けられていた。
「村田さん、殺人事件が起きたってことは、テレビ局とかが取材に来るんですかね?」
「ああ、どうなんだろな」
「海山さん、絶対に来ると思いますよ。連続殺人ですから」
「だな。弥二郎さんの件は事故という可能性もあったが、四人も犠牲者が出たからな。だが、さすがにこんな田舎じゃ……」
「そうですね、係長、私もそう思います。本集落の方たちも迂闊にマスコミに情報を漏らしたりしなさそうですからね」
「私、殺人事件の捜査をしたのも今回が初めてで、マスコミが来たらどう対処したらいいのかと心配だったんです」
「大丈夫ですよー、海山さんー、大南署の署長がー、取材を受けてくれますよー」
「だよな、署長の仕事だ。だから大丈夫ですよ、海山さん」
「ええ、ありがとうございます。では、署へ戻ります」
海山刑事は励まされて少し元気になったようだった。
私たちは客間でくつろいでいた。係長はコーヒーを飲めなくてフラストレーションが溜まっているようだった。
「おう、コーヒーを飲みたいが飲めない。この俺の欲求不満は、ナンパすることでしか解消できない!」
「はーい、警官失格でーす」
「うるさい! 俺の欲求不満を受け止められるのか! 磯田!」
そう言われて、京子は立ち上がり、腰を落として空手の型を取った。フーッ、と小さく息を吐いて、京子は強力な突きを係長の腹にお見舞いした。
「トルネード正拳突きー!」
「……うぐぁっ、ごふっ……」
係長は肩から畳の上に崩れ落ちた。そして声も出せないくらい苦しそうにもがいていた。私はやりすぎだと思った。係長を介抱しようかと迷っていたら、恵子さんが夕食の準備ができたことを知らせに来た。
「あ、あの、どうされたんでしょうか?」
「え、いや、何でもないですよ。ところで、恵子さん、具合は良くなったんですか?」
「はい、お陰様で。青田さんと赤羽さんの分も私が頑張らなければいけませんので」
「さすがー、えらいー」
私と京子は、立ち上がれない係長を放置して食堂へ向かった。
青田さんも赤羽さんも席について、全員で仕出し弁当を食べ始めた。途中から係長が遅れてやってきた。屋敷の外で水道管工事のやかましい音がして、夜間工事用ライトの明かりが空に反射して食堂内もほんのりと明るくなっていたが、それらを除けば、いつもどおりの夕食の時間だった。
係長は少し遅れてから客間へ戻ってきた。
「おう、俺の到着を待たずに、晩飯が始まってた……」
「係長のことなんかー、待ちませんよー」
係長はヘコんでいた。
「おう、お前らが先に食堂に行ってから少しして、俺が部屋から出たらよ、宇都宮さんがなんか廊下でキョロキョロしてて怪しかったんだよ。俺を見て、びっくりしてたんだけどな」
「そういえば、宇都宮さんは、係長が来る少し前に食堂に来ましたね」
「メイドさんなんだからー、用事があったんですよー」
「ま、そうかもな」
「ところで、係長、犯人ですが、一体誰なのでしょうか」
「おう、そうだな。家系図を見せてくれ」
係長は畳の上に胡座をかいて考え始めた。
菊一(故)
‖―――――― 一太郎(96)(故)
とめ(故) | ‖―――――― 弥太郎(67)
| 正代(95) | ‖――――― 豊(34)
| | 昭恵(65)
| |
| ―― 弥二郎(66)(故)
| ‖――――― ララ(26)
| マリア(51)(故)
|
――― 大次郎(93)(故)
‖―――――― 小次郎(67)
照子(95)(故) ‖――――― 進次郎(33)
フネ(67)
「大次郎さん夫妻が殺されたが、遺産相続はもう完了しているし、仮に弥太郎さんが死んでも、大次郎さんの子孫に遺産が渡ることはもうない。ということは、進次郎さんはシロか」
「係長、弥太郎さんがもし亡くなった場合、遺産を相続できるのは、妻の昭恵さんと息子の豊さんですよね」
「おう、そうなるな。だが、豊さんが相続を放棄した場合、まずは、正代さんに相続権が移る。そして、正代さんが相続を放棄すると、次に弥二郎さんに相続権が移動するが、弥二郎さんは亡くなっているので、娘のララさんが相続権を得ることになる」
「えー、それってー、もしかしてー」
私は考えたくもなかったが、どうしても考えてしまった。おそらく京子も同じだった。
「そうね、京子。ララさんね。今の所、最もクロである可能性が高いかも」
京子は難しい顔をした。
「おう、ララさんが犯人だとしたら、共犯がいるかもしれんな。大次郎さんと照子さん殺害に使われた凶器がまだ発見されてない以上、何とも言えないがな。厨房の包丁をララさんに渡すことができた人物が怪しいな。つまり使用人の誰かだ」
「確かにそうですね」
「メイドさんがー、犯人ってこともー、ありえますよねー」
「そうね、京子」
「おう、メイドたちが犯人だとして、動機はあるのか?」
「そうですね。例えば、猫田一族を乗っ取ろうとしているとか……」
「おう、それならありえるかもな。メイドの誰かなら弥二郎さんのスープに毒を入れることができたし、包丁も持ち出せたからな。ただ、大次郎さんと照子さんを殺すことができたのは、恵子さんだけになるな。恵子さん以外は “
「係長、もしそうだとしたら、マリアさんをどうやって……」
「うーん、そうだな。恵子さん単独では無理だな。だとすると、共犯がいることになる」
「もしかして、豊さん……」
私が言うと、その場の緊張度が増した気がした。
「駐在の竹葉さんと権藤さん、それに宇都宮さんという線も全くなくはないしな」
「でも係長、竹葉さんと権藤さんは、大南署に留置されているので、マリアさんを殺すことはできませんね」
「おう、そうだな。やっぱり、単独犯ではなくて、複数犯かな」
「係長、もしかしたら、そもそも、遺産相続と一連の殺人は無関係ということもありえますよね」
「おう、かもな」
私たちは真剣に推理合戦を、いや、捜査会議を行っていた。そこへ、係長に電話連絡がきた。
「はい。おう、高木か。……。……。おう、じゃあよろしく頼むぞ」
「何だったんですかー」
「おう、高木がA県に着いたってよ。明日から地元警察の力を借りて聞き込みをしてくれる」
私たちは少し捜査に希望が見えてきた気がした。
工事の音がうるさかったが、夜通しで頑張ってくれている作業員に感謝しながら眠りについた。
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