第20話 相続手続き完了
しばらくすると、赤羽さんが呼びに来た。相続手続きがあるということで、応接間へ案内された。
応接間にはすでに正代さん、弥太郎さん、昭恵さん、豊さん、ララさん、進次郎さん、それと、戌井さんと猿渡さんがいた。弥太郎さんはニヤッとしながら電子タバコを吸っていた。私たちは二日前と同じく豊さんの隣に座った。しし丸は京子の膝の上に飛び乗ってあくびをした。
「おう、大次郎さんがいないと、静かに事が進むんじゃないか」
「だと思います」
弁護士二人がカバンからいろいろと書類を取り出し、部屋の真ん中に置かれた台の上に広げた。
「では、“
戌井さんはハキハキとしゃべった。
「それでは、弥太郎さん、こちらの書類にご署名とご捺印をお願いします。一族の方には立会人となっていただきますので、よろしくお願いします」
弥太郎さんは不敵な笑みを浮かべながら台の前へ座り、手続きを始めた。20分くらい経っただろうか、両弁護士が、全ての書類が完成したことを確認した。
「以上で、相続の手続きは終わりました」
「これで、俺が21代目の猫田家の当主だ」
弥太郎さんはふてぶてしく笑っていた。戌井さんと猿渡さんはカバンに書類を詰めて自分たちの客間へと戻っていった。入れ替わりに、青田さんと赤羽さんが入ってきた。
「皆様、昼食の用意ができておりますので、食堂までお越しくださいませ」
青田さんと赤羽さんは部屋に置かれた台を持ち上げて片付け始めた。そして、権藤さんがふらっと応接間に入ってきた。
「弥太郎さん、私はクビですか?」
「ああ、昨日言ったように、お前はクビだ。すぐにこの家から出て行け」
弥太郎さんは冷たく言い放った。
「父さん! 考え直してくれ!」
「そうですよ、あなた。権藤さんは長い間うちに尽くしてくれたんです。それを、今になってクビだなんて、あんまりです」
豊さんと昭恵さんが弥太郎さんに詰め寄った。しかし、弥太郎さんはふてくされた表情で考えを変えるような気配はなかった。権藤さんは無言のまま部屋から去っていった。私たちは食堂へ向かった。
食堂の前で、駐在の竹葉さんが海山刑事と話をしていた。
「どうしたんですか?」
係長が尋ねた。
「あ、村田さん、私が昨日の晩に乗ってきた自転車がなくなってるんです」
竹葉さんが言った。
「自転車?」
「はい、神社の坂の手前に停めておいたのですが、さっき、駐在所に戻ろうと取りに行ったら、ないんですよ」
「鍵はかけてましたか?」
「いえ、鍵なんか元々ついてないです。この小さな村じゃ、自転車に鍵なんてかけませんよ」
「そうなんですか。いや、でも私は知りません」
係長は驚きつつ返答した。
「でしたら、ご一緒にお昼も取っていって下さい。自転車をお探しになるのは、その後でも」
昭恵さんが言うと、竹葉さんはどうしようかと考え始めた。廊下の奥から権藤さんが大きな風呂敷包みを背負ってやってきた。
「昭恵さん、豊さん、長い間、お世話になりました」
「権藤さん、こんなことになって、本当に申し訳ありません……」
「権藤さん、父を説得してみます。だから、村の人の所にいさせてもらうとかできませんか」
昭恵さんと豊さんは悲痛な表情でいた。
「え、権藤さん、どちらへ?」
竹葉さんは驚いた。
「駐在さん、お世話になりました。もうここにはおられんようになりました」
「え!? あ、それは急に……」
竹葉さんは驚きながら昭恵さんや豊さんを見て、権藤さんがクビになったことを悟った。
「あー、事件のことでお話を伺うこともあるかと思いますので、ここを去られるのは困りますね」
海山刑事が困った顔をしていた。
「……あ、そうだ、もし良ければ、駐在所に来ませんか。妻を亡くしてから、私一人で住んでますし、部屋が余ってるんです」
竹葉さんは昭和のおっちゃんのような良い人だった。
「……あ、じゃあ、そうします……よろしくお願いします……」
権藤さんは深く頭を下げた。
「じゃあ、早速、駐在所まで行きます。お先に」
権藤さんはみんなに頭を下げて玄関から出て行った。そしてすぐに、入れ替わりに猫髪屋敷にふらつきながら入ってきたのは、全身猫の着ぐるみを身につけた人物だった。
「誰だ?」
海山刑事は近づいて、その人物の着ぐるみの頭部を外した。すると、中から顔を出したのはマリアさんだったのだ。
「お! マリアさん!」
海山刑事だけでなく、私たちも驚いた。
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