第13話 新しい家系図
私たちは結局夕食を取らずに、三日目の朝を迎えることとなった。
「係長ー、お腹空きましたー」
「おう、しし丸のキャットフードでももらってこいよ」
係長はお湯を沸かしてインスタントコーヒーを入れていた。私は空腹で目が回りそうだった。そこへ使用人の青田さんがやってきた。
「皆様、真に申し訳ありませんが、朝食は仕出し屋さんに頼みました。到着するまで、もうしばらくお待ちくださいませ」
「あなたのような美人がお願いするなら、いくらでも待ちますよ」
係長はハードボイルドっぽく言った。しかし、青田さんは、ノーリアクションでそそくさと去っていった。
「係長ー、セクハラ相談窓口に通報する気力もないのでー、黙ってて下さーい」
京子は目が死んでいた。
青田さんが、朝食の用意ができたと知らせに来たので、私たちは食堂へ行った。すでに大南署の警官たちが来ていて、鑑識係がそこら辺の柱や戸などを調べていた。
「皆様、朝食は隣町の仕出し屋片岡さんに用意していただきました。どうぞお召し上がり下さいませ」
宇都宮さんがペットボトルのお茶を配りながら言った。
「今日は和食かー」
京子は嬉しそうによだれを垂らしていた。昨日の今日でその場はピリピリとした緊張感が漂っていた。食事が終わると、その場で大南署の刑事が聞き取りを始めた。弥二郎さんの死因は、毒殺と判明したそうだ。約三時間ほどしてから、私たちはようやく開放されたが、料理担当の四名の使用人たちが個別に事情聴取されることになった。私たちは客間へ戻ることにした。
豊さんと昭恵さんが私たちについてきた。
「村田さん、やはり、夫の弥太郎の様子が変なんです」
「村田さん、例えば、何者かが財産相続目当てで、父に成り代わっていることはありえませんか?」
豊さんは尋ねた。
「うーん、家族のことですから、ちょっとした癖とか、そういうことで本人かどうかを判断するのですが。今回の場合は、すでにお話をお聞きしたように、ご家族でもあまりにも変だと思われるということで、うーん」
「係長、弥太郎さんにDNA検査を受けてもらえないでしょうか」
「おう香崎、それには弥太郎さんの許可が必要だ。本人が許可しないと無理だろ」
「係長ー、私たち県警の人間がー、事件に巻き込まれてるのでー、係長の権限でー、DNA検査を強制できませんかー」
「おう、それは俺じゃなくて、課長の権限だな」
「でも京子、それも難しいかもよ。弥二郎さんの事件とは直接関係なさそうだし」
「そうねー」
私たちは豊さんと昭恵さんの不信感を取り除いてあげたかったので、頭を悩ませていた。
「おう、じゃ、一応、トライしてみるか」
係長はインスタントコーヒーを飲みながらすごく軽く言った。ちょうどそこへ、猿渡さんがやってきた。
「昭恵さん、豊さん、家系図を新しく作成しましたのでお持ちしました」
猿渡さんは私たちにも家系図を渡した。豊さんは受け取って早速広げた。
「村田、弥二郎さんの件、毒殺だったんだな」
「そうですね、先輩」
「無差別だったとしたら、恐ろしいな。お前、そのコーヒー、大丈夫か?」
「え、どういうことですか?」
「毒を入れられてたらどうするんだよ?」
「先輩、大丈夫ですよ。俺は、一族の人間じゃないので」
「そうだが、用心して未開封のペットボトルのだけにしとけよ」
そう言われて、係長は持っているマグカップの中を心配そうに見つめていた。
「あれ? 猿渡先生。小次郎さんの年齢、間違ってないでしょうか?」
「あ、合ってますよ。小次郎さんは、昨日が誕生日だったので、一つ年を取ったんです」
「あ、そうですか」
猿渡さんは豊さんと昭恵さんに礼をしてから去っていった。
菊一(故)
‖―――――― 一太郎(96)
とめ(故) | ‖―――――― 弥太郎(67)
| 正代(95) | ‖――――― 豊(34)
| | 昭恵(65)
| |
| ―― 弥二郎(66)
| ‖――――― ララ(26)
| マリア(51)
|
――― 大次郎(93)
‖―――――― 小次郎(67)
照子(95) ‖――――― 進次郎(33)
フネ(67)
「あ、弥二郎さん、年齢が書かれてありますね」
「おう、パスポートで確認したんだな。やっぱり次男だったか。まあ、どの道、相続はできなかったんだな、弥太郎さんに何かが起きない限りは……あっ、これは失礼しました」
係長は口走ってしまったことを、豊さんと昭恵さんに詫た。
「係長。無差別殺人だったんでしょうか? 狙われて毒殺されたと考えるのが妥当ではないでしょうか……あ、でもそれだとしたら、理由が不明ですね」
「おう、そうだよな、うーん……」
私たちは奇妙なことに頭を悩ませていた。
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