40.焔剣

 決闘開始は15分後――


「奏多、大丈夫?」


 ミラが奏多に声を掛ける。


「ん? 何がだ……?」


「え……あの人って蒼谷さんの……」


「そいつはそいつ……あいつはあいつだ……」


「そうだね……」


 ◇


「ミカゲさん、がんばです!」


「ありがとう……」


 ミカゲは佐正の呼びかけに応じる。


「ミカゲ、何か必要か?」


 揺がミカゲに声を掛ける。


「そうですね……できれば奏多さんの映像アーカイヴ、一本だけでも……ありますかね?」


「ないわけないだろ?」


 揺はそんなことを言いながら、空間ディスプレイを操作し始める。


「ん? 弟くんとのもあるみたいだが?」


「できれば奏多さんの勝ち試合がいいです」


「ちょ……!」


「あと、なるべく最近ので……」


「了解……ほれ、これでいいか?」


「ありがとうございます」


 ミカゲはディスプレイに集中する。


 ◇


「それじゃあ、改めて……1対1、一本勝負。ハンデなし。どちらかの戦闘不能で決着だ」


 揺が宝物の間の中央で向かい合う二人の間に立ち、確認するように言う。


「「了解です」」


「よろしく」

「はい、よろしくお願いします」


 二人は握手をして、お互いに3メートルほど下がる。


『名無し:うぉ……なんかドキドキしてきた……』

『名無し:ミカゲさん、がんばれー』

『名無し:勝てるぞ……!』

『名無し:ミカゲ、レベル3の意地を見せてくれ』


「……はい、ありがとうございます」


 ミカゲは静かにコメントに返事する。


「では、3カウントで開始だ」


 揺がそう言うと、揺の頭上に3の文字が出現する。


 そして、2……1……


「っ……!」


 開始早々、物凄い速度で英が距離を詰めてくる。


(速い……!)


 剣と刀がぶつかり合い、つばぜり合いとなる。


『名無し:うぉおおお! いきなり熱い展開だ』

『名無し:いいぞー!』


(熱いって、確かに熱い……物理的に!)


 英の剣は炎を纏っている。


「っ……!」


 ミカゲは後ろに逃れる。


「……よく避けたな」


 英の剣から炎が吹き出されたのだ。


 ミカゲはそれをなんとか回避した。


 2回の英の戦闘を直接見たことと映像アーカイヴで確認した範囲内であるが、英さんの焔剣フレイムブレイドは、刀身に沿って炎が放出される。従って、特に刀身の延長線上は注意する必要があった。


「だが、これで終わりじゃねえよ……!」


「っ……」


 英は追い打ちをかける。


 激しい剣戟けんげきとなる。


 右横からの薙ぎ払い、左下からのすくい上げ、中央叩きおろし……というように連撃を加え、ミカゲはなんとか刀で防ぐ。


(……っ……弾く余裕がない)


 そして……


「っ……!」


 連撃に混ぜて、英は決め球である"突き"を放つ。


「ぐあぁ……!」


 刀身はなんとか避けた。

 しかし、剣先から放たれる炎がミカゲの脇腹をかすめる。


「っ……!」


 更に英は追い打ちをかけてくる。


「……っと……ナイスパリィ……」


 ミカゲはなんとか剣を弾いて、英は幾分、ノックバックする。


『名無し:あぶねえぇええ』

『名無し:土壇場でうまくパリィ決めたな』


「……」


(くそ……結構、痛え……)


 ミカゲはポーカーフェイスに努めるが、先程の攻撃のダメージは小さくなかった。


「しかしレベル3か……信じられねえよ」


「……?」


 英は迫撃を一度止め、呟くように言う。


「確かにすごい……凄まじい努力をしたのだろう……」


(……)


「だが、俺には勝てない」


「……!」


「先刻の質問だがな……俺も努力それだと思っていた時期があった。

 だが……そうじゃなかった」


(どういう……?)


「そう……気づかせられたのは貴方の弟だ」


「っ!?」


努力それが必ず報われると信じていた俺に現実を教えてくれた」


 英はどこか冷たい目でミカゲを見つめて言う。


「勝負においてそこに到る努力過程は関係ない……勝つのは強い奴だ……!」


 そう言うと、再び英は猛然と距離を詰める。


「っっ……!」


 凄まじい猛攻ラッシュにミカゲは防戦一方だ。


 そして、強い振り降ろしを受け、ミカゲは後ろにノックバックさせられ、膝をつく。


『名無し:うわぁああああ』

『名無し:やっぱり厳しいか』

『名無し:迫撃来なくてセーフ……』


 が、英は更なる迫撃はしなかった。


 いや、できなかった。


「……」


 左脇腹に斬撃を受けていたのだ。


「英さん……」


 今度はミカゲが言葉を発する。


「アサヒにさ……」


「……?」


「アサヒに1回負けたくらいで達観してんなよ……」


「え……?」


「こちとら子供の頃から何回、弟にボコられたと思ってんだよっ!」


「っ……!?」


 ミカゲのよくわからない論理いかりに英は一瞬、たじろぐ。


 ミカゲは地面を蹴る。


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