41.激闘
自分が
少なくとも同世代では――
2年前――
英 奏多、20歳。蒼谷アサヒ、17歳。
二人はA級昇格試験で対決することとなる。
"蒼谷アサヒ……17歳、レベル10? 面白そうじゃねえの? 攻略者ってのはレベルで競うものじゃないだろ?"
口ではそう言った。
"大丈夫……俺は誰よりも努力してきたはずだ。必ず勝てる。これは自分自身との戦いだ"
そんな風に自分に言い聞かせた。
結果……惨敗。
『名無し:英 奏多、期待してたけど大したことないな』
『名無し:華々しい負けっぷり笑』
『名無し:頑張ってたけど……それが逆に辛い……』
『名無し:奏多くんのファンやめます』
蒼谷アサヒは倒れる英を冷酷な目で見下ろして、その後、笑顔で握手を求めてきたことは今でも英の脳裏に残っている。
◇
「だぁああああ! ちくしょう!!」
「……」
倒れるミカゲを真剣な目で見下ろすアサヒがいた。
8年ほど前――
蒼谷ミカゲ、16歳。蒼谷アサヒ、11歳。
といっても、日常的な出来事であり、特定の時期の出来事ではないのだが。
「もっかいだ、もっかい!」
「えぇ!? まだやるの? もう何回目?」
「7回だ、7回!」
「9回でしょ」
「そうかもしれない」
「そうだよ」
アサヒは少し苦笑いするように言う。
「ミカ兄さぁ、そんなに弟に何回も負けて嫌にならないの?」
「嫌だから、やるんだろうが!」
「……確かにね」
アサヒはくすくすと笑う。
◇
現在――
「っっ……」
状況は一変していた。
ミカゲが英を攻め立てる。
右上からの振り降ろし、そのまま左の薙ぎ払い、そして突きというように連撃を繰り出す。
だが、多少、劣勢になろうとも英もしっかり対応している。
しかし、頭の中に、一つの疑念があった。
なぜ、一撃を受けていたのか。
視えなかった。
しかし、その後も連撃を繰り返すミカゲについて、英は一つのことに気付く。
右上の振り降ろしから始まるコンビネーションがワンパターンだ……
来た……
右上からの振り降ろし
左の薙ぎ払い
そして……
突きだろ……?
英は剣で受けるのではなく、回避を選択する。
カウンターにつなげるために。
突きを外したミカゲには攻撃後の硬直による大きな隙が……
生まれるはずだった。
が、しかし、ミカゲはそれをまるで予期していたかのように突きの勢いを利用して英に背中を見せるように回転している。
身体に隠れて、ミカゲの手元が視えない。
いや……刀はどこだ……!?
「っっっ……!! うぉおおおおお!」
もはや迷っても意味はない。英も本能的に剣を振り降ろす。
二人は交差する。
ミカゲはすぐに英の方に向き直る。
左腕はもう動かない。
英の焔剣を諸に受けた。
英は立ち尽くし、ミカゲを見つめる。
が、しかし、膝から落ちる。
そして、白いタオルが投げ込まれる。
次の瞬間、ミカゲの身体はずっしりと重くなる。
「……!」
「ミカゲ! よくやった! これは偉大なる勝利だ!!」
「ミカゲさん、すげええっす! 尊敬っす!」
揺と佐正が抱き着いて来ていたのだ。
『名無し:すげぇえええええええええ!』
『名無し:まさかとは思ったけど、まじでA級に勝っちまった』
『名無し:ってか、何がどうなってるんだ? 刀が消えたような……』
初見殺しと言えば否定はできないだろう。
それでも勝ちは勝ちだ。
==========
【刀:
Lv0
攻撃:AA
防御:B
魔力:A
魔耐:B
敏捷:S
効果:透過度変化
==========
不可視の刀。
ミカゲはこれを決め球として使った。
あえて、普段は視えるようして、その刀の能力を悟らせなかった。
◇
「奏多……大丈夫?」
ミラの声は心配そうに震えていた。
「あぁ……」
負けた……
B級に……
また蒼谷に……
そんな言葉が英の脳裏を駆け巡る。
そして……
『名無し:負けちゃったね』
『名無し:B級に負けた』
『名無し:また蒼谷か』
『名無し:奏多くんのファンやめます』
大きな声が聞こえたようで……
「っ……」
英の中で何かが折れそうになる。
「奏多……!!」
「っ……!」
「奏多……! ちゃんとコメントを見て……!」
『名無し:次勝てばよくね?』
『名無し:そもそも応援してるのは強いからってだけじゃない。誰よりも頑張り屋だから』
『名無し:それな』
『名無し:蒼谷兄、いい動きだったなぁ。敵ながらあっぱれだ』
『名無し:B級はどう見ても詐欺でしょ笑』
『名無し:大丈夫、これからもずっと応援してるよ』
「……」
「奏多……! 負けることができるのは戦ったヒトだけだよ……!」
「っ……!」
「不戦勝を重ねただけのヒトには言わせておけばいいんだ……! うちは戦った貴方を心から尊敬します」
「ミ゛ラ゛!!」
「っ……! はい!?」
「つぎはがつ……! かなら゛ずだ……!」
奏多は左腕で目を隠し、右手で剣を持ちあげて言う。
「その意気だ……!」
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