39.争奪戦

 二体に分裂したドラゴンスライムのうち一体は英、もう一体はミカゲ、佐正の方に向かって来る。


「……!」


(……速くなってる!?)


 ドラゴンスライムは小さくなった分、スピードが増していた。


 接近してきたスライムは翼をつる状に変形させ、振り回すように攻撃を仕掛けてくる。


 ミカゲは回避と刀による切断で、その攻撃を凌ぐ。


「束砂、大丈夫!?」


「大丈夫っすよ」


 隣りでは束砂も無傷で避け切っていた。


「なんかよくわかんないんすけど、身体が軽いんですよね……ミカゲさんが近くにいるせいか……?」


(……なんでや)


「よし、いきますよ……! 和温を覚醒させた時におにぎりが覚えた新スキル……! 包み水ウォーター・カバー!」


 おにぎりが大きな水泡となり、ドラゴンスライムを包み込む。


「小さくなってちょうど収まりがよくなっちゃいましたね」


 ドラゴンは内部でもがいているが、外に出ることができない。


「ミカゲさん、やっちゃってください!」


「りょ、了解……!」


 ミカゲはおにぎりの外側からドラゴンスライムに和温を突き刺す。

 そして……


和温わおん……! 超低温……!」


 急速に冷やす。


 ドラゴンスライムは暴れるが、おにぎりに包まれ、脱出することができない。


 次第にドラゴンスライムの動きが鈍くなり、ついには氷漬けになる。

 おにぎりと共に……


 内部のドラゴンスライムの部分が消滅し、冷凍おにぎりだけが残る。


「つ、束砂、これ大丈夫なんだよな?」


「大丈夫っすよ、ゾンビなので」


 束砂は二カっと微笑む。


「よければ後で、温め解凍してもらっていいですか?」


「あ、うん……」


「とりあえず今は英さんに合流……」


 ピギィイイイイイイ


「「!?」」


 断末魔と共に、燃え尽きるドラゴンスライムの姿があった。


「……その必要はなさそうっすね」


「あぁ……」


 ◇


 ドラゴンスライムを撃破した三人は開かれた通路を進む。


 そしてその先には、これまでにない荘厳な雰囲気の大きな扉があった。


「これは……」


「宝物の間だな……」


(これが……)


『名無し:宝物の間きたーーー!』

『名無し:この扉のでかさからして割としっかりしたやつっぽいな』


 配信では見たことがあったが、実物を見るのは初めてであった。


「トレジャーボックスが複数あるといいんだがな……」


 英がぽつりとつぶやく。


 そうして三人は扉を開け、中に入る。


(……)


 扉の中はドーム状の空間で、神秘的なオーラに包まれていた。


 空間の奥側には、トレジャーボックスが一つ。


(……一つか)


「……ご丁寧なことに」


 英はそんなことを呟く。


「トレジャーボックスは一つか」


(……!)


 横を見る。揺の声であった。

 後方にはミラもいるようだ。


「で、どうする? このトレジャーボックス?」


 揺がビースツに問いかける。


「中身を売却して、取り分を分け合うということもできなくはないが……」


「そうですね、ですが、それは野暮ってものです」


「だな」


 面白くないからだ。


「ならば、奪い合い……か……」


「……そうですね。ちょうどここは決闘フィールドみたいです」


(さっき、"ご丁寧なこと"にと言ってたのはそのためか……)


 決闘フィールドとは、攻略者同士が宝物で戦闘しても互いに殺害することがないフィールドである。

 攻撃が直撃すれば、戦闘不能になる。ちなみに結構痛い。

 ダンジョン内部で自然発生していることもあるが、米国ダンジョン内のとある種族がもたらした専用の宝物"領域石"で比較的簡単に発生させることができるようになっている。

 このフィールドのおかげで攻略者同士の決闘が盛んに行われている。

 1対1を積極的に行うミカゲも大変お世話になっている代物だ。


「ふむ、気概は認めよう……しかし、3対2、流石にこちらが有利過ぎるか」


「……」


 揺の発言を英は否定しない。


「なら、どうだ? 代表者一名ずつによるガチンコ一本勝負で決めるというのは?」


「……」


 英は即答しない。

 それでも不利であると考えてのことであった。


 なにせ自身のA級がかすむと賞した仁科 揺がいるのだから。


 だが、それでも……


「いいでしょう。受けましょう」


 その勝負を受けぬほど、腰抜けでもない。


「では、そちらの代表を決めてくれ。こちらの代表は蒼谷ミカゲだ」


「……!」


(え……!?)


「ゆらめんじゃないんすか?」


「この部屋に辿り着いたのは君達が一歩早かった。そういう意味で、私には資格がないと考える」


「なるほど……であれば、こちらは選択肢がないっすね。元より、そのつもりだったが……」


(……)


 ミカゲは息を呑む。


『名無し:レベル3vs焔剣の英……!』

『名無し:厳しいと思うけど、純粋にこれは楽しみだ!』


『名無し:奏多くんと蒼谷……兄の方か……』

『名無し:正直、仁科揺じゃなくてよかった』

『名無し:楽勝っしょ』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る