37.揺なら

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【ボス選択肢】

 ドラゴン or スライム

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(……どっちだ……?)


 ミカゲは思考する。


 一般論で考えれば、ドラゴンの方が強敵。

 しかし、スライムも決して弱いわけではない。

 なんらかの特殊能力を持っている可能性も否定できない。


 例えばドラゴン側が弱いタイプのドラゴンで、スライム側が上位のスライムなんてことも考えられる。

 選択肢の情報がこれだけであれば、普通に同じくらいの強さということも十分、有り得る。

 というか、それが最も中立的な考え方と言える。

 となると、あとは相性で考えるべき。

 同じくらいの強さと考えた時に、スライム側には特殊な能力を具備している可能性が高い。

 その特殊能力が"物理攻撃無効"などで手が付けられなくなるのが、一番リスキーか……

 となると、順当に選ぶならば、ドラゴン……


 いや、しかし問題は……

 揺はどちらを選ぶか……


(揺さんと離れたくない……もう一人にはなりたくないんや……)


 そんな弱音を抱きながら、ミカゲは揺が言いそうなことを想像してみる。


 "科学者たるもの不思議物質のスライムに好奇心を抱くのは必然。スライム一択だな"


(これだ……! ファイナルアンサー……!)


 ==========

【結果】

 仁科 揺……ドラゴン

 蒼谷 ミカゲ……スライム

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「っっっ……!?」


 ミカゲは膝から崩れ落ちる。


「あれ? また違ったかー。おかしいな……」


 揺は首を傾げている。


「ど、どうして揺さん……あなたなら"科学者たるもの不思議物質のスライムに好奇心を抱くのは必然。スライム一択だな"とか言って、スライムにすると……」


『名無し:言いそう笑』

『名無し:微妙に揺の物まねしてるの似てなさ過ぎて笑える』


「君……ちょっと私のこと馬鹿にしてないか?」


 揺は怪訝そうな顔をする。


「滅相もありません。尊敬しております」


「お、おぅ……ありがと……」


 ミカゲのマジレスに、揺は少しだけたじたじとしている。


「いや、まぁ、確かに……君の私予想は大きく間違ってはいないのだが……」


「それじゃあなぜ!?」


「…………き、君が選びそうな方を選んだだけなのだが……」


 揺は少しだけ目を逸らすように言う。


(……!?)


 当たっていた。


 ◇


 揺と離れてしまい、ミカゲはとぼとぼと歩く。


(いや、しかし……今までの流れからすると、他三名の誰かと合流できるかも……)


 そんな風に考えていると……


「お、蒼谷さん再び」

「ミカゲさん、お久しぶりっす」

「にゃー」


(……!)


 そこには佐正&おにぎりと英がいた。

 ドローンはいないようだ。


「ミカゲさん、ドラゴンorスライムでスライム選んだ感じですか?」


「そうそう!」


「ってことは向こうが揺さんとミラさんかな」


「ほっ、ゆらめんがいるなら一安心だ……」


 英は割と本気でほっとした表情を見せる。


「ってか、聞きたかったんですけど! 英さん」


「え、なに……?」


 ミカゲが何か思い出したように急に強めに来たので、英は少しだけたじろぐ。


「なんで……なんで努力じゃなくて、才能選んだんですか!?」


「えっ!?」


 ミカゲはドローンがいないこともあり、先程、疑問に思っていたが、聞けなかったことを思いきって聞いてみる。


「べ、別に……ミラがそっちを選ぶと思っただけだよ……」


「えぇ……? それなら英さんが努力を選んで、ミラさんがそれを予想して努力を選ぶのが順当なのでは……」


「ミラは自分が選びたい方を選ぶ奴だから……」


「なるほど……」


(いやまぁ、確かに結果的にはそうなってたけど、なんか引っ掛かるなぁ……)


 ドラゴンかスライムなら、なんらかの譲れない拘りがないのであれば、極論、どっちだっていい。

 だけど、絶対に譲れない選択肢もあるはずだ。


「それにしても、なんか競合のはずが、結局、めっちゃ協力しちゃってますね」


 佐正がそんなことを言う。


「まぁ、コラボみたいな感じでえるならそれはそれで、いいっちゃいいんじゃない? 攻略者たるものリスナーを喜ばせるのが第一なわけだしな」


「そうっすね。あ、リスナー奪っちゃったらすみませんね」


「お、言うねー、つかさっち。だが、うちのリスナーはそんな野暮じゃねえからな」


 と……


「にゃー」


 おにぎりが一鳴きし、脚を止め、前方を見つめている。


「お……猫ちゃんが鳴いたということは、そろそろかな……ボスとやら」


「はい……」


「まぁ、コラボといっても競合は競合……好きにやれよ」


「そうですね」


 そうして三人と一匹は歩みを進める。


 ……


「はは……これ、どういうこと?」


 英は目の前のモンスターを見て、空笑いする。


 進んだ先には、ドラゴンがいたのである。


「俺ら選んだのスライムだよな?」


「そうですね……」


「ってか、向こうにドローン二台あってもしょうがないし、今更だが、うちのドローンこっちに切り替えさせてもらうか。俺達の勇姿を誰も観ていないというのも寂しかろう」


 英はそういうと圧縮巾着からドローンを取り出す。


「えーと、強制切り替えっと……」


(……そんなこともできるドローンがあるのか。流石は大手事務所チームだ……)


『名無し:お? 切り替わった?』

『名無し:こっちも気になってたから有り難い』

『名無し:なんだ、男組かよ。向こう観よう』


 などという様々な意見がありつつも、ドローンがモンスターの危険度を報せてくれる。


【モンスター ドラゴンスライム 危険度Ⅰ】

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