36.プチプチ

(幕間)英 奏多

 練習が休みの日はチャンスだと思っていた。


 その間に自分だけが練習すれば自分だけが上手くなれる。

 例え辛くとも、それで皆より一歩リードできるなら、それは嬉しいことだ。

 英 奏多はそうやって努力を積み重ねていくことを厭わない男であった。


 朝は誰よりも早く来て、夜は誰よりも遅くまで練習する。

 休みに休むのは勿体ないと一人、素振りをする。

 英 奏にとって、365日、毎日が練習日だった。

 世界中の誰よりも長く練習すれば世界中の誰よりも上手くなれる。

 才能あるものが努力を惜しまない。

 実際、英 奏多は攻略者アカデミーでもトップの成績を収めていた。


 努力する天才、その典型が英 奏多であった。


 ◇


 現在――

 不思議なダンジョン――


 ==========

【選択肢】

 努力 or 才能

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 ミミロック鳥の先の部屋にて第三の選択肢が待ち受けていた。


(努力か才能か……? 報われるのに必要なのはどっちかってことか……)


 ミカゲは少し悩みつつも答えを出す。


 ◇


(なんでや……また一人になってしまった……)


 ミカゲはまたしてもマイノリティになってしまい、一人きりになる。


 ミカゲはとぼとぼと歩く。


(流石に少し寂しいな……)


 と……


「お、ミカゲじゃん」


「っ……!?」


 後方から耳当たりのいい声が聞こえてくる。


 ミカゲの目に涙が浮かぶ。


「ゆ、ゆらめさぁあああああん」


「うわ、どうした!?」


「はっ……!」


 ミカゲは揺に抱き着きそうになるが、一歩手前で正気に戻る。


「っ……」


 揺も少しびっくりしたのか言葉を失っている。


『名無し:危うく俺がレベル3をしばくところだった』

『名無し:よっぽど寂しかったのね、ミカゲくん』


 揺にはドローンが付いてきていた。


(……危なかったな。正気に戻ってよかった)


 ミカゲはあのまま抱き着いていた後のことを想像し、ほっとする。


(ん……? しかし揺さんと合流したってことは、揺さんはひょっとして俺と同じ選択肢を選んでくれたのかな……)


「おい、ミカゲ」


「はい……!?」


「これまで私はあまりそういう機会がなかったのだが、攻略者は男女関係なく抱擁するのはよくあることだ……」


「そ、そうですね……」


「だが、それはを獲得したときだ」


「……!」


「その時は……えーと……どんと……こい……?」


 言葉の趣旨の割に、いつもより少し歯切れの悪い揺さんであった。


「はい……」


 ……


「ん……? なんかあるな……」


 と二人の前に、大量の何やらつぶつぶしたものが出現した。


(こ、これは……!)


「まるでぷちぷち……だな……」


 梱包材の気泡緩衝材……ぷちぷち。

 荷物などをお届けする際に、その荷物が破損しないようにショックを和らげる目的で使用される粒上の気泡をポリエチレンフィルムに持たせたシート"ぷちぷち"である。


『名無し:これ潰すのついやっちゃうんだよな』

『名無し:たたんで雑巾絞るみたいにやるのさいこーにすき』

『名無し:レベル3、潰すのとか好きそう』


(……どんなイメージだよ…………好きだけど……)


「ん……? なんかあるぞ」


 大量のぷちぷち付近に看板のようなものがある。


 ==========

【お題】

 全て潰せ

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「……なんと地味なお題……うーん、先には進めないようですね」


 奥にある扉は閉まっていた。


「ふん、そんなもの……」


 揺がそう言うと、ぷちぷちの上空に鉄板が出現し、それを自由落下させる。


「……!」


 しかし……ぷちぷちは無傷……!


『名無し:流石、ぷちぷちだ……脅威の耐久力』

『名無し:いや、明らかに魔的な防御でしょ』


「な、なんということだ……ど、どうすれば……!?」


 揺は結構、動揺する。


 プチ……


「……!?」


「揺さん、これ指で潰せば潰れますよ?」


「な、何だと……!?」


『名無し:これは……』

『名無し:指でしか潰せない奴……!』


「っ!?」


 揺はがーんという効果音が聞こえてきそうな顔をする。


「こ、この量を全部……!?」


『名無し:こりゃ大変だ』

『名無し:ひと眠りするかな』


 プチプチプチ……


「……!」


 ミカゲは黙々とプチプチを潰しだす。


「ミカゲ……まさかこれ本当に全部、潰す気か……?」


「え、そうですけど……」


「なんて非合理的なんだ……」


「でも、努力ってそういうものですよね?」


「……!」


 揺は少しぐぬぬという顔をする。


「……まぁ、合理的に努力すべきと思うがな……君は意外とそういうタイプだろ? パンも食べないし……」


 プチプチ……


 そんなことを言いながら、揺もプチプチし始める。


 ◇


 三時間後――


「あった! あったぞ!」


「ほ、本当ですか!?」


「ほら、これ……まだぷっくりしてる」


「これですこれ! 間違いありません!」


 一時間前……全て潰したはずなのに、何も変化が起きず、無数のプチプチの中から潰し漏れを探すという苦行を行っていた。

 その一つを今……


 プチ……


「終わった……終わったよな?」


 プチプチが全て消失し、前方の扉が開く。


「終わったぁあああああああ」


「ちょ……! ゆ、揺さん……」


「っ……!」


 揺はプチプチを潰し切ったことが、あまり嬉しかったのかミカゲに抱き付いていた。


『名無し:偉大なる勝利の喜び……!』

『名無し:ちょっとむかつくが揺にとってはそれ程までに苦行だったのでしょう……全てを許そう』

『捨て身:許さぬ』


(ひっ……)


 そうして二人は見事、この地味な難関を乗り越えた。


 ……


 そして、扉の先……


 ==========

【ボス選択肢】

 ドラゴン or スライム

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