35.ビースツ

「というわけで、しばらくは墨田ドスコイズのアース・ドラゴン、蒼谷ミカゲさんとご一緒しまーす」


『名無し:誰だこいつ』

『名無し:知ってる。最近、少し話題になってるレベル3の人じゃん』

『名無し:あー、蒼谷アサヒの弟でしょ』


(……兄です)


 英とミラのパーティは"ビースツ"というらしい。

 ビースツも配信を行っており、そのコメントが聞こえてくる。

 コメントを拾うイヤホンは近くに自分のパーティのドローンがない場合、別のパーティのドローンのコメントを拾いに行く。

 もちろんそのパーティが他の人がコメントをどの程度、拾えるかは設定可能だ。

 というわけで、先ほど、英がミカゲにもコメントが拾える設定に変えてくれたのである。


『名無し:はよシーカーズ来いよ』

『名無し:シーカーズの敵は皆敵』


(……流石にアウェイだな)


「はは、皆さん、歓迎ムードだな。それじゃあ蒼谷さん、行きましょうか」


「はい……」


(別にいいんだけど、揺さんはゆらめんで束砂はつかさっち……なぜに俺だけ蒼谷さん……?)


 ミカゲはそんなことを思いつつもビースツの二人と洞窟を進んでいく。


 ……


「ねぇねぇ、ミカゲ~」


「あ、はい?」


 道すがら、ミラがミカゲに声をかける。


「あの、ギガントアイロンゴーレムとの戦いとか観たけどさ~」


「はい……」


(観られてたのか……ちょっと恥ずかしい……いや、攻略者たるもの喜ばなければか……)


「でさ、どうやってあの四回目の攻撃がフェイントだってわかったの?」


「あ、はい……えーと、事前にゴーレムの動きを映像アーカイブで確認していたので……」


「え……!? それだけ……?」


「そ……そうっすね」


『名無し:意外と地味だな』

『名無し:未来予知とかじゃないのか』


(……そうさ……地味なのさ)


『名無し:データ系キャラか?』

『名無し:最終的にデータ捨てるやつ笑』


(……ひどい言われようだ)


「……そうか……すごいな」


 英がつぶやくように言う。


(……)


「ひょっとしてミカゲって奏多と似たタイプ?」


「「えっ!?」」


(……どういうこと?)


「奏多ってちゃらんぽらんしてるように見えて、陰でめっちゃ努力してるからさ~……ほら、いるじゃん? 居残りトレーニングとか絶対、最後までいるタイプ」


(ほほう……)


「ちょ、おま……言うなって!」


 英は焦ったような顔をする。


『名無し:今更情報』

『名無し:みんな知ってる』

『名無し:だから応援してるんよ』


「……ファンの皆さんには周知の事実ってことですかね?」


 ミカゲがニコリと言う。


「羞恥の事実です……」


 英は少し恥ずかしいのか気まずそうな表情をしている。


 ミカゲの英に対する好感度が上昇した。


「まぁ、それでも、これ本当に意味あんのかって思うときもあるさ……」


(……?)


 その時、一瞬だけ英は顔を曇らせたような感じがした。


 と、ミラが何かを発見する。


「あれ~? そんな話をしていたら、前方にトレジャーボックスが……!」


「えっ!?」


 確かにトレジャーボックスがある。


『名無し:ってか……でかっ!』

『名無し:でかいな笑』


 大きかった。

 高さにして1.5メートルはありそうだ。


「宝物を選んだ甲斐があったね~」


 ミラはそんなことを言いながら、てててと近づいていく。


 と……トレジャーボックスから脚が生えてくる。

 鶏のような脚だ。


「ぎゃっ!」


 更には、長い首とふさふさした翼も生えてくる。


「ぎゃぁああああ!!」


【モンスター ミミロックちょう 危険度91】


「まぁ、そんなに甘くはないわな」


 ミラが叫んでいる横で、英は冷静だ。


「よくも……よくも騙したなぁああ!」


 ミラは怒っている。


(……よく言うよ。しかし、B級になったから危険度90オーバーでも退避命令が出ないのは助かるわ……)


「で、どうしま……」


 ドッゴーン!!


(え……?)


 ミミロック鳥が大きく仰け反っている。


 何か直径30cmほどの球のようなものが、ミミロック鳥の頭部に直撃したようだ。


 そして、その球を蹴ったからかミラは軸足の左脚で片脚立ちしている。


『名無し:ミラちゃん、気が早い!』

『名無し:きたー! 開幕殺人シュート!』


 ミラの宝物は殺人球々サツジンボールズ、投げたり蹴ったりすることで、相手に物理ダメージを与える飛び道具系の宝物だ。

 ちなみに人は殺さないが、宝物名は殺人球々で正しい。


 ギイィ……ギィイイイイ!


 ミミロック鳥はふらつくが、殺人球により後方に倒れていた首をぐわんと元に戻す。


「流石にタフだな……」


 英がつぶやく。


 ギィイイイイアア!


 ミミロック鳥がけたたましい奇声を上げながら突進してくる。


(……やるか)


「うちに任せなさ~い!」


(お……?)


 ミラの前に殺人球が五つ。


「うりゃっ! うりゃうりゃうりゃ! うりゃぁあああ!」


 次々に蹴り飛ばされた殺人球がミミロック鳥のトレジャーボックス部分に着弾していく。


 ギイィ……ギィイア!


 ほぼ同じ個所に球が着弾したトレジャーボックスは最初は無傷のように見えたが、数を重ねるごとに欠損していく。

 そして最後の球がぶつかったときにはボックスにひびが入るに至っていた。


 と……


 ギィア!?


 ミミロック鳥はすでに接近されていたことに今更気づく。


「ナイス、ミラ……」


 そう言って、英は橙色の剣をボックスひび割れ部分に突き立てる。


 ギャァア!!


 ミミロック鳥は悲鳴を上げる。


「ここからだぜ? 焼き尽くせ……焔剣フレイムブレイド!!」


 ギィャァアアアアアアア!!


「今夜は焼鳥だ」


 ミミロック鳥は炎の中、絶命し、消滅する。


『名無し:いいねいいねー』

『名無し:ってか、消滅するから食えんやん』


「そうだった」


「奏多のせいで、無性に焼鳥食べたくなってきた~」


「えっ!?」


 などとビースツが勝利の余韻に浸っている。


(…………あ、俺、すがすがしいほど何もしてない……!)


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