34.不思議な迷宮

「さて、ここが不思議な迷宮の入口だ」


 子猫人の集落から30分程、離れた場所にその洞窟の入り口はあった。


 揺は続ける。


「知ってると思うが、不思議な迷宮ってのは、その名の通り、不思議でな……時期によって、毎回、内部構造や仕掛けが異なるのが特徴だ」


「要するに事前の攻略情報を調査することができないってことっすよね! ゆらめん!」


「お、おう……」


 英が少々、ちゃらちゃらした様子で言い、揺は少し戸惑いながらも返事をする。


 なんか競合といいつつ、結局、英とミラはここまで同行してきていた。

 というのも、競合とわかったので、目的地が同じであり、我先に行くと、逆になんか抜け駆けみたいなってしまう雰囲気になってしまい、だったら正々堂々、スタート地点から勝負しようぜという空気感になったのであった。


『名無し:なんだこのギャル男、ゆらめんとか抜かしてるな』

『名無し:さっきまで仁科さんとか言ってたよな? なんだこの距離の詰め方は……』


(……確かにちょっと……)


 英は明るめの髪に無造作感のあるパーマに甘いマスクで、誰とでもすぐに仲良くなれそうな陽のオーラが出ているが、実際、そんな感じのキャラクターであった。

 人は見た目によらぬものと言うが、大体は見た目通りだったりもする。

 ここまでの道中30分で、急激に距離感を詰めてきた。


「英さん、ちょっと……」


「どうしたー? つかさっち。あ、俺のことは奏多でいいよ」


「え? い、いや……一応、年上みたいなんで……」


 佐正は21、英は22なので、確かに一つ年上だ。


「えー? かたいねー、つかさっちは」


「そ、そうっすかね」


 なんやかんや、英のペースに持って行かれる。


「それはいいから、早く迷宮に入ろうよー」


 横からふにゃふにゃした口調でミラが言う。

 ミラは少し抜けてそうな感じもするが、南米出身なことも関係しているのか、やはり陽気な性格をしていた。


「うい、行きましょ行きましょ」


 そうして迷宮に入場する。


(お……?)


 いきなり目の前に二つの扉がある。


 更には説明書きのようなものもある。


 ==========

【二択の迷宮】

 本迷宮では二つの選択肢から一つを選び進む。

 制限時間内にどちらを選ぶかを脳内で決める。

 ・どちらを選ぶかを互いに相談してはならない。(ジェスチャーも禁止)

 相談した場合は全員入口に戻される。

 ==========


 と、急にテンカウントが始まる。


 目の前の扉には左にA、右にBと記載されていた。

 ==========

【選択肢】

 A or B

 ==========


(AとBのどちらかを選択しろってことだよな……)


 カウントダウンが終了する。


 ==========

【結果】

 仁科 揺……A

 佐正 束砂……A

 蒼谷 ミカゲ……A

 英 奏多……B

 ミラ……B

 ==========


「おっし!」


 全員の想定通り、本来のパーティに分かれることができた。


 というのも入場時に左側にアース・ドラゴン、右側に英とミラというように自然と固まっていたのである。

 なので、そのまま目の前の扉を選べたというわけだ。


「それじゃ、ここからは別々だな……」


「そっすね、ちょうどよかった! こちらが勝っても恨まないでくださいよ」


「あぁ、少ししか恨まないさ」


「ひぇー」


 揺と英がそんな会話を交えつつ、二つのパーティは互いの健闘を祈り、別れる。


『名無し:ぐっばい、英』

『名無し:ミラちゃんはいてほしかったな……』

『名無し:英だけB行けばよかったのに……』

『名無し:英くん、明るくて好感』

『名無し:男、嫉妬してんな』


 コメント欄は若干、殺伐としていた。


「さて、行くぞ」


「はい……!」


 そうして、アース・ドラゴンの三人となった、揺、佐正、ミカゲはAのルートを進む。


(……いやー、やっぱこのメンバーが落ち着くなー……)


 などと思っていると、すぐに次の部屋に辿り着く。


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【選択肢】

 出口 or 宝物

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(……)


 ==========

【結果】

 仁科 揺……出口

 佐正 束砂……出口

 蒼谷 ミカゲ……宝物

 ==========


「えぇ!? 何で!?」


「宝物とか露骨にトラップじゃないですか!」

「すまぬ……こういうの見ると、好奇心というか……つい、逆張りしたくなっちゃうんだよな」


(……俺はまだまだ二人のことがよくわかっていないのだな)


 ……


 ミカゲは宝物の扉の先をとぼとぼと歩く。


(……いきなり一人になってしまった)


 と……


「っ!?」


 物音が聞こえる。


 足音だ。


(……誰かいる……)


 ミカゲは警戒感を上げる。


(……向こうも気付いてる)


 ミカゲは慎重に歩を進める。

 ミカゲは刀に手を掛ける。


(……ここだ!)


「「「っ……!」」」


「あ、なんだ、ミカゲじゃーん」

「おー、蒼谷さんか」


 ミカゲもその声、姿を見て一安心する。

 よく見ると、相手も剣に手を掛けていた。


 そこには英とミラの二人がいた。


 聞くと、二人の選択肢は

 左の扉"宝物"、右の扉"出口"であったらしい。

 つまるところ、一度別れても選択次第で合流することがあることを示していた。


「……!」


(……って、もしかしてやばいか……? 今、完全に2対1だ……)


「どうしたー? 蒼谷さん、いきましょー」

「行こうよ、ミカゲー」


 どうやら陽の二人にそういった考えはないようだ。


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