32.巾着探し

(巾着探せって言われてもな……)


 ミカゲは一人、途方に暮れていた。


 社長より、いい具合の圧縮巾着を調達してこいと言われ、別行動で探すことになったからだ。


 ドローンは佐正の方に付いている状況だ。


 なお、子猫人エリアは比較的安全とのことだ。


(ひとまず適当な子猫人に話し掛けてみるか……)


 ……


「どうも、こんにちは、圧縮巾着の購入は可能ですか?」


 ミカゲはテントが立ち並ぶ活気あるエリアにやってきて、その辺にいた男の子猫人に話し掛けてみる。


「もちろんニャ」


「えーと、スペックとお値段を教えてください」


「5ポケット、5スピード、6ウェイト、198万円ニャ」


(……嘘はついてないかな。えーと、大体標準的なスペックって感じかな)


 揺によると、圧縮巾着の主なスペックは三種類。


 ポケット……どれだけ多くのモノを入れられるかで、指標は1~10。10が最大。

 スピード……どれだけ速く物を出し入れできるかで、指標は1~10。10が最大。

 ウェイト……圧縮巾着の重さで、指標は1~10。1が最も軽い。


 要するに理想的であれば、

 10ポケット、10スピード、1ウェイトというわけだ。

 実際にはポケットやスピードが上がると、ウェイトも増えてしまうらしく、上記のようなものは存在しないようだ。


 ちなみにハイエンドモデルとなると、例えば

 9ポケット、9スピード、3ウェイトのようなものとなり、このようなモデルの相場は1億円レベルになる。


「ありがとうございます、もう少し他のも見てみますね」


「わかったニャ」


(個人的には、そこまで容量もいらないし、できればウェイトが軽いモデルがいいなぁ……)


 そうして、ミカゲはひとまず手当たり次第、子猫人に聞いてみるのであった。


「7ポケット、5スピード、8ウェイト、248万円ニャ」


「5ポケット、5スピード、5ウェイト、398万円ニャ」


「5ポケット、5スピード、5ウェイト、498万円ニャ」


「4ポケット、2スピード、5ウェイト、298万円ニャ」


「8ポケット、8スピード、4ウェイト、198万円ニャ」


「あの……本当ですか?」


「…………あ、用事を思い出したニャ」


(おい……)


「はぁ……」


 ミカゲは溜息をつく。


(……いや、今思うと、一番最初の人が一番良心的だったな……)


 ミカゲはとぼとぼと歩く……


「肩を落としてどうしたの?……ニャ」


(ん……?)


 ミカゲは後ろから話しかけられ、振り返ると、そこには女の子猫人がいた。


 少し短いボブくらいの明るい髪色に色白な肌、可愛らしい顔立ちをしている。


「いや、ちょっと巾着探しに苦労してまして……」


 ミカゲは正直に答える。


「なるほど……ニャ」


 その子猫人は顎に手を載せて、少し考える様な仕草をする。

 そして思いついたように言う。


「なら、少しうちの手伝いをして欲しい……ニャ!」


「へ……? どういうこと……?」


「子猫人はがめついけど、義理堅い……ニャ」


「お……?」


(つまり手伝いをすれば、巾着探しを手伝ってくれるってことかな? まぁ、いいか。このまま続けても何の成果も得られなそうだし……)


「いいでしょう」


「よし、きた……ニャ!」


 子猫人はにこっと微笑む。


 ◇


「ほっ! ほっ!」


 ミカゲは虫網を振り回す。


「せい!」


「おー! 上手い……ニャ!」


「どうも……」


 網からトンボのような虫を取りだしながら、ミカゲは言う。


 子猫人の最初の依頼内容の昆虫採集をしていたのである。


 ……


「ナイスボー……ニャ!」


「うい……」


 ミカゲは硬球を投げ、それを子猫人がグローブでキャッチする。

 そして、子猫人がまた硬球を投げ返し、それをミカゲがグローブでキャッチする。

 以上を繰り返す。

 いわゆるキャッチボールである。


(……)


 ……


「ど・れ・か・ニャー……ぐぬぬ……」


 ミカゲが持つ二枚のカードから、子猫人がどちらを選ぼうかで苦悩している。


「こっち……ニャ……! ぎゃぁああああああ! 待つ……ニャ、今、シャッフルする……ニャ」


 ババを引いてしまった子猫人は丹念にカードをシャッフルし、二枚のカードから一枚をミカゲに選ばせる。

 ババ抜きだ。


(……)


「あぁああああ……」


 子猫人は絶望に打ちひしがれる。


「あ、あの……これって遊……」


「さぁ、トランプは終わり……ニャ! そうだな……次はチャンバラをやる……ニャ!」


(……ちゃん……ばら……?)


 ……


「うぇええええええん! なんで、急にガチになる……ニャ!」


 チャンバラで急に真剣になった男に、一本も取れない子猫人が憤慨する。


「チャンバラは……遊びではない……」


「……なにちょっとカッコいい風に言ってる……ニャ……」


「……す、すみません」


「まぁ、いい……ニャ。付き合ってくれて、ありがと……ニャ。依頼はこれで終わりにする……ニャ」


「え、あ、はい……えーと……」


「安心する……ニャ! 子猫人は義理堅い……ニャ!」


「……!」


「どういうタイプの巾着がお望み……ニャ?」


「あ、性能はそこそこでいいので、軽いタイプです」


「なるほどなるほど……この巾着なんてどうか……ニャ? 6ポケット、5スピード、1ウェイト、200万円の超軽量ハイコスパモデル……ニャ」


(え……? なんかよさげじゃないか? スペックのわりに安い感じもする……)


「あ、ありがとうございます。すごく良い気がしてます。ただ、購入する前に上の者に確認しないといけなくて……」


 揺曰く、巾着は事務所(チーム)の所有物として、経費で購入してくれるらしい。


「そうなのニャ……? じゃあ、付いて行ってあげる……ニャ」


「あ、ありがとうございます!」


 ◇


「ゆ、揺さん……! こんなのどうでしょうか?」


「ミカゲさん、お疲れ様です」

「お、帰って来たな……って、ん……?」


 揺はミカゲが連れて来た子猫人に気付く。


「あ、こちらお世話になった子猫人の方で……えーと……」


(あ、そういえば名前も聞いてなかった)


「…………何してんの? えーと……ミラさん……だったかな?」


(へ……?)


 揺がジト目でそんなことを言うので、ミカゲは子猫人の方を振り返る。


 と、ウィンクして、舌をかわいらしく少し出している。

 いわゆるテヘペロだ。


 そして、なぜか猫耳が取れている。

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