31.上層42層

「それじゃあ、宝物予報を見てみようか」


「は、はい……」


(宝物予報……見るのは初めてだ)


 揺とミカゲはデバイスから宝物予報の一覧を確認する。


 宝物予報とは攻略者のみが閲覧できる情報である。


 "予報士"という特殊な職型を持った人材が、宝物の出現予報やあふれの情報を察知し、提供してくれるのである。

 一部では、預言者とも呼ばれている。

 遊撃者は主にこの"あふれ発露予報"を元に活動している。


「ふむふむ、目ぼしいところで言うと、この辺かな……」


 ==========

 分類:宝物

 階層:42層

 場所:不思議な迷宮内部

 期待ランク:中~高

 予報士:露木 理月

 ==========


「42層、ちょうどいいじゃないか」


 ◇


 攻略者の主な収入源には以下のようなものがある。


 ・基本給

 ……事務所と契約した基本給


 ・配信給

 ……配信で得られる金銭

  配信サービスのプレミア料金や広告等の収入で、投げ銭コメントは存在しない。


 ・スポンサー料

 ……CMや広告の出演、企業の案件配信などによるスポンサー料


 ・グッズ

 ……グッズ等の販売によるインセンティブ


 ・特許

 ……新領域等の第一発見者が得られる利権


 ・技能料

 ……特殊職型を使ったサービス料

  (例えば、佐正のレベル0宝物の覚醒なども金銭を得る手段となり得る)


 ・討伐等のクエスト報酬

 ……討伐クエストをした場合、その依頼主から金銭が支払われる


 ・宝物狩りトレジャーハンティング

 ……宝物を入手し、売りさばく。


 この中で不安定ながら、一攫千金を狙えるのが宝物狩りである。

 攻略者の気質なのか、宝物狩りは人気のコンテンツであった。


 ◇


 東京スカイダンジョン、通称ユグドラシル、上層42層――

 子猫人キティフの集落――


「うぉおおおおお! これが子猫人キティフの集落かぁあ!」


 佐正はテンション高めである。


『名無し:キティフかわいいいぃいい』

『名無し:もふもふ』

『名無し:猫耳! 猫耳!』

『名無し:ドラえも○! ドラえも○!』


 視聴者達も当然、テンションが上がる。


 42層といえば、子猫人キティフの集落があることで有名であった。

 子猫人は身長が人間ヒューマンより一回り小さい猫の獣人である。

 そんな子猫人が多くのテントのような造りの建物が張られた一帯をうろうろしている。


「見た目より、がめついから気を付けろよ」


 揺がそんなことを言う。


『名無し:揺と一緒じゃん笑』


「おいっ!」


 揺が憤慨する。


『名無し:あ、遅ればせながら揺さん、正式パーティ加入おめでとうございまーす』


「あ、おう……」


 そう。ミカゲと佐正がB級に昇格したことで、ランク差が1になったため、揺は正式にアース・ドラゴンの正式メンバーになったのである。


「ま、まぁ……が、頑張ります……」


 揺は珍しく少し照れたような態度だ。


「今日は、宝物狩りトレジャーハンティングに来たわけだけど、その前に少し子猫人に用がある」


「はい……!」


 束砂が返事をする。


 ……


「いらっしゃいませニャー」

「いらっしゃいませ、人間様、こっちいかがニャー?」

「いい巾着あるニャ」


(おっ!?)


 子猫人の集落に入ると、その辺をうろうろしていた子猫人がこちらにターゲティングし、一斉に声を掛けてくる。


 それにびっくりしたのか、おにぎりがフーフーと毛を逆立てて、威嚇しているが、子猫人はお構いなしだ。


「見てくれニャ、この巾着、おすすめニャ」


(へ……?)


 一人の子猫人が巾着を片手に、ミカゲにすり寄る。


「えーと、これって……」


 ミカゲは困り、目線で揺に助けを求める。


「圧縮巾着だ」


「お……? これが噂の……」


 圧縮巾着とは、武具系の宝物を入れることはできないが、様々な道具を持ち運ぶことができる非常に便利な巾着である。

 そう、この圧縮巾着は子猫人が攻略者達にもたらした恩恵である。


『名無し:早速、四次元ポケッ○きたー』

『名無し:ドラえも○!』


 その性質から、このような俗称がついている。


 ちなみにテイマーがモンスターを収納するのに使う圧縮球も子猫人の扱う道具の一つである。

 このように子猫人は興味深い便利道具をいくつか有している。


「ち、ちなみにいくらですか?」


「円換算で言うと、98万円ニャ……! 安いニャ!」


(高……! いけど……その性能を考えたら、そこまで高くもないのかな……今後の攻略者生活の先行投資と考えれば……)


「えーと、じゃあ……」


「ちょい待ち!」


「っ!?」


 揺がまゆを逆八の字にしている。


「おい、お前……その巾着……収納量はどれくらいだ?」


「ニャ!? え、えーと……10ポケットくらい……ですけど?」


「本当か~~……?」


 揺が顔を近づけて、じーと見つめると、その子猫人は目を逸らす。


「じゃ、試用させろ」


 揺がにこりとする。


「あっ、急に急用ができたニャ!」


 そう言って、その子猫人はぴゅーとどこかへ去っていく。


「そりゃ、急用は急だろうよ」


 そんなことを言いながら揺は子猫人の背中に手を振る。

 その姿を見て、他の子猫人もトボトボと離れていく。

 鴨にはできないと察したのだろう。


「と、こんな感じで、可愛い見た目に反して、がめついから注意が必要だ」


「な、なるほど、ありがとうございます」


(……危な……危うく騙されるところだった)


『名無し:やっぱり揺と一緒』


「ちょいちょい……!」


 揺は再び憤慨する。


「とはいえ、B級にもなったことだし、圧縮巾着は今後のことも考えると持っていた方がいいな」


「はい……」


「というわけで、小ミッションだ! ミカゲ、束砂! いい具合の圧縮巾着を調達するぞ!」


「「……!」」


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