30.コネはなくはないが

「お久しぶりです」


「久しぶり……!」


 ミカゲと深海は挨拶を交わす。


「深海、元気にしてたか?」


「まぁ、そこそこには……」


「それはよかった。んじゃ、早速、行こうか?」


「あ、はい……それはいいのですが……あの人は……?」


「ん……?」


 深海の目線の先には怪しげな男性が一名……


「……」


「……何してんの? 束砂」


「いやいや、本当、偶然ですよ! 自分もトレーニングしようと思って……」


「「……」」


「本当ですよ!」


 佐正の名誉のために記しておくと、一応、本当に本当である。


「えと……じゃあ、自分は別の日にしますよ」


 佐正はそのように言う。


「別にいいですよ」


「……!」


「せっかくですし、一緒に行きましょうよ」


 深海はそのように言うのであった。


 ◇


「これまたどういう組合せなんよ……」


 モンスターカフェに入店すると、津吉がそんなことを言う。


「いや、たまたま店の前で会いましてね」


 佐正がそんなことを言う。


「なるほどね。まぁ、ミカゲと深海さんは今日来るってのは知ってたんだけどな」


 佐正にも用事の内容の見当はすでについていた。

 地下二層での映像は佐正も確認しているからだ。


「とりあえず準備はしてある。地下に行くか?」


「……はい」


 そうして、四人は地下の(秘密)トレーニングルームへと降りる。


「こいつだ……」


「っ……」


 トレーニングルームには、例の陽炎蜥蜴がいた。


「……」


 深海は複雑そうな表情を見せる。


「津吉さん、こんなでかい蜥蜴どうやって持ってくるんですか?」


 佐正が聞く。明らかに地下へと向かう階段よりも蜥蜴の方がでかいからだ。


「ん? テイムすれば、"圧縮球"に入るぞ」


「へー、そうなんですね……まるでモンスターボー……いや、なんでもないです」


 佐正は何かを言いかけて止める。


(揺さんが使ってる圧縮巾着みたいなものか?)


「で、どうする? すでにこいつは手懐けてある。故に、危険性はない。話は聞いていたから、まだ愛着は持たないようにしていた。だから、深海さんの好きにしていいですよ」


 津吉は深海に向けて、そんなことを言う。


「……ありがとうございます」


 深海は改めて陽炎蜥蜴を見つめる。


 陽炎蜥蜴も深海の方を見ている。その表情はやや動揺しているようにも見えた。


「一発……」


「……?」


「一発殴らせてください……」


「別に構わないが……チャンバラ用の武器を使うか? 素手だとそれなりに痛いと思うが……」


 陽炎蜥蜴は危険度75の妖獣。非常に堅い皮で覆われている。


「いえ……素手で……」


「わかった」


 そう言うと、深海は陽炎蜥蜴の前に立ち、残った左腕を大きくテイクバックし、渾身の左ストレートを陽炎蜥蜴の顔面に叩き込む。


「っ……」


 恐らく痛かったのは深海側で、陽炎蜥蜴は痛みすら感じなかったかもしれない。

 しかし、どこか驚いたような顔をしていた。


「あー……痛くなかった……」


 深海はそんなことを言うのであった。


 結局、深海はそれ以上、何かを望むことはなかった。


 ◇


「あの……」


「ん……? どうした? 自分から来るのは珍しいな」


 深海らと共に、モンスターカフェを訪れた翌日、揺のいる社長室にミカゲが訪れていた。


「実はちょっと観て欲しい人がいまして……」


「ほーん……推薦というやつだな?」


「だ、ダメですかね……」


「いんや、構わんよ」


 ……


「あー、この人か……確か、ミカゲと一緒に映っていた……」


(覚えててくれてたのか……)


「そうだな……いい動きだ……」


 深海の映像を確認する揺はそんなことを言う。


「な、なら……」


「いい動き……だが、お前との差は歴然だ」


「……!」


「実力があれば推薦だろうが自薦だろうが雇う。しかし、うちは純粋なコネはやってない」


 揺はきっぱりと言う。


(……)


 ミカゲは言葉を失ってしまう。


「しかもこの状態から利き腕を失ってしまったのか……」


「……」


「隻腕の攻略者……確かに聞いたことはないな。

 少なくともA級以上には」


 ミカゲはどんどん気分が重くなる。


「ただな、世界は広い」


「……!」


「私が知らないだけで、B級以下なら普通にいてもおかしくはないな」


「はい……」


「例えばだ。リリィのような戦い方なら難しいだろうな」


「……そうですね」


「だが、お前は私の戦い方に右腕が必要と思うか?」


「……!」


「ちなみに宝物特性レベルと職能はあるのか?」


「レベル7、盾士です」


「なるほど。平均よりは上。攻略者水準でいえばギリギリだな」


「そうなりますかね」


「とはいえ、プレイスタイルとして、参考になる奴が我が事務所チームにいるじゃないか」


「え……? 盾士だから七山さんですかね?」


「七山? 違うわ」


「っ……!」


「柳だ」


「な、なるほどです」


 柳は祈りのとかりという矛の宝物を使うが、その矛を物理的に使うのではなく、精霊と共に戦うために使用する。


「まぁ、柳は元々、精霊特性が高かった。

 結局のところ、才能も必要になる。厳しい世界だよ……」


 揺は遠い目をして言う。


「なにかおすすめの宝物とかってありますかね?」


「そうだな……うーん……不可視盾インビジブル・シールドとか……?」


不可視盾インビジブル・シールドですか。ありがとうございます。ちょっと確認しますね」


 ミカゲはデバイスで宝物リストを確認する。


(お……あった……)


「…………高っ!!」


 不可視盾インビジブル・シールドのお値段はなんと1980万円(税抜)。

 ミカゲは目が飛び出る。


「ははっ……お前、それを深海さんにプレゼントする気か……?」


「……うーん」


(……流石に厳しいよな……しかし……)


「あのSOS配信のおかげで自分は揺さんに拾ってもらいました」


「……」


「ですが、深海は真逆で、利き腕を失いました」


「……それは単に、ミカゲに実力があって、深海さんにそれがなかっただけだと思うが……?」


「そうだとしても……やはり少しモヤモヤするんですよ……」


「ふむ……」


 揺は否定も肯定もしなかった。


「だが……不可視盾インビジブル・シールドの入手は不可能ではないさ」


「え……?」


「それをプレゼントするしないは置いておいて、行くんだろ? 宝物狩りトレジャーハンティング


「……!」


「未来のS級攻略者には2000万など端金だ」


 揺はにやりとする。


「……! はい……!」


 ミカゲの目に力がこもる。


 ……


「……ちなみに錬魔球ボイドボールの値段は?」


「……」


 ひゅーひゅーひゅーと揺は無言でそっぽを向きながら、かすれた口笛を吹く。

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