29.昇級

「ミカゲ、束砂……それでは昇級試験の結果を伝える……」


「「……」」


 ミカゲと束砂は緊張した面持ちで揺が口を開くのを待つ。


 ◇


 二週間ほど前――

 ミカゲと揺が地下二層から帰還した翌日――

 墨田ドスコイズ事務所の控室にて――


「へへ……パーティファボ100万……」


 ミカゲは増加したパーティファボ情報を見ながら、思わずにやける。

 揺効果……そして地下層アンダー2層と土和夫の街の発見という偉業を成し遂げ、パーティファボが伸びないはずもなく……ついに100万の大台を突破した。

 もちろんレベル3、E級刀士の活躍も無視できない寄与をしていた。


「なににやけてるんですか」


「っ……!? え? にやけてないっすけど……?」


「いや、にやけてるじゃないですか」


 束砂だ。


 束砂は、あんまり活躍してなかったので、少しふてくされていた。


「とりあえず社長のところ、行きましょうか」


「そうだね」


 そうして、二人は呼び出しされていた社長室へと向かう。


 ◇


「お、来たな」


 社長室に入ると、揺はディスプレイを8枚並べて、映像を眺めていた。

 彼女のルーチンである。


 今日はすぐに映像の視聴をやめる。


「昨日はお疲れ、ミカゲ。束砂は体調は整ったか?」


「はい、整いましたよ」


「うむ、ならよかった」


 そんなやり取りをする。


「土和夫の件だが、やはり妖石や妖鉱石に関する高い技術を擁しているようで、新たな宝物の発見や強化に寄与できるかもしれないと期待されているそうだ」


「おぉ、それはすごそうですね」


「これは非常に幸運だ。第一発見者たる墨田ドスコイズには土和夫関連の取引で得られた利益の一部を得られる権利が与えられるはずだ。うむ、非常に気分が良い」


(……揺さんが上機嫌そうで何よりだ)


「もちろん、君達にも還元するようにするから楽しみにしておきな」


「っ……!」


(そっか……功績を上げると、お金、貰えるんだな……これで妙に高い光熱費に困ることもなくなるのか……?)


 ミカゲはしみじみとしてしまう。


「ところで、ミカゲ、早速、やらないか?」


 揺の切り替えは鋭い。


「え……?」


「ほら、持ってきただろ? 刀……!」


「あ……!」


「早く……! 早く……! 覚醒ガチャ……!」


 揺はめちゃくちゃうずうずしている様子だ。


「覚醒ガチャって……まぁ、やりますけども……」


 束砂は少し呆れ気味ではあるが、なんだかんだやってくれる。


「じゃあ、ミカゲさん、刀……お貸しください」


「了解」


 ミカゲは束砂に刀を渡す。


「それじゃあ、やっていきます」


 佐正は刀に両手をかざす。刀がほんのりと光る。


 揺は眉間にしわを寄せ、指先から何やら念を送っている。


(三回目だけど、やっぱりこの瞬間はドキドキするなぁ……)


「完了です、このまま鑑定しちゃいますね」


「頼みます」


「ふむふむ……どうぞ」


 佐正からメモが渡され、確認する。

 揺もひょこっと横に来て、覗き見る。


 ==========

【刀:透幻 とうげん

 Lv0

 攻撃:AA

 防御:B

 魔力:A

 魔耐:B

 敏捷:S


 効果:透過度変化

 ==========


(初めてSがついた!? 透過度変化……? 刃を透明にできるってことかな?)


「おぉおおおおおおおおお!」


「ひっ……!?」


 横の揺が存外、大きい声を出すので、ミカゲは驚く。


「これは大当たりじゃないか!」


 揺は満面の笑みだ。


「え? そうなんですか?」


「そうだよ! レベル8相当のポテンシャルがある」


「そ、そうですけど……」


(今までの二本も近しい性能であったが……)


「お前は自分が幸運なことに気付いてないな?」


「……?」


「……実は結構、ハズレも多いんですよ」


 束砂が補足するように言う。


(そうなのか……二回とも束砂が当然のような雰囲気だったから気付かなかった)


「そうだぞ……! むしろハズレの方が多いくらいなんだが……」


 揺は束砂をじとっと見て、束砂は幾分、気まずそうに目を逸らす。


「それにしても透過度変化かー……効果もなかなか面白そうだな!」


「そうですね。なんか……幽霊みたいですね」


「ひyaaa……!」


 揺は青褪める。


 その間にミカゲは透幻 とうげんを鞘に納める。


(また、少し重くなったか……)


 重量が出ると、戦闘に悪影響が出てしまう。

 刀を無限に納刀できる集鞘しゅうそうであるが、現実的には限界がありそうだ。


「ところで社長、次のアース・ドラゴンの活動はどうするんですか?」


「っ……!? そ、そうだな……」


 揺は我に返る。


「逆にだ、お前達は何がしたいんだ?」


「え……? そうですね……ミカゲさん、あります?」


「え……? そ、そうだな……」


(……特段、考えてはいなかったが…………あっ……!)


 ミカゲは考えを巡らせるうちに、ふと原点回帰する。


「一応、攻略者になったらやりたかったことがありまして……」


「ん……? なんだ、言ってみろ」


宝物狩りトレジャーハンティングです」


「おー、なるほど……! いいですね! 宝物狩り!」


 束砂も乗ってくる。


 やはり攻略者の醍醐味の一つと言えば、宝物を探して、そして開封する。

 みんな、それに憧れるのだ。


「ふーん、じゃあ、昇級しないとだな……」


「「え……?」」


「だって、E級じゃ30層までしかいけないじゃん。30層じゃ効率が悪い」


(た、確かに……)


「ちょうど、一週間後にB級の昇級試験あるじゃん。二人、受けてこい」


「え……!? B級……!?」


「そうだ。不服か? だが、A級はB級にならないと受けられんぞ? C級以上になれば、A級の私がいればひとまずどの階層にも行くことができるしな」


「な、なるほどです……」


(……いきなりB級か……)


 そうして二人は急に飛び級の試験を受けることになったのである。


 ◇


 そして二週間後の今――


「ミカゲ、束砂……それでは昇級試験の結果を伝える……」


「「……」」


「おめでとう……! ミカゲ、束砂……共にB級認定だ」


「「しゃぁああああ!!」」


 試験では、紆余曲折あったものの無事に二人一緒に合格できたのであった。


 おめでとう!


 ……


「明日は休日オフですね。ミカゲさん、トレーニングしませんか!?」


「お……?」


 やる気に満ちた表情の束砂がそう言って、ミカゲを誘う。


 が、しかし……


「あ、ごめん、明日はちょっと用事があるんだ」


「え゛っ!?」


 束砂は激しく驚く。


「ど、どうしたの……?」


「ミカゲさん、休日にトレーニング以外のことすることあるんですか?」


「あるわ!」


 ◇


 翌日――


 ミカゲはモンスターカフェに来ていた。


 モンスターカフェ……! やっぱりトレーニングじゃないですか……!

 物陰から見ていた佐正は憤る。


「お久しぶりです」


「久しぶり……!」


 お……? あの人は……?


 そこにはミカゲの遊撃者時代の相棒、深海がいた。



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