28.帰途
「サジオ? 誰それ?」
土和夫達は首を傾げる。
「誰か、知ってるか?」
「いんや。街の土和夫はだいたい把握してるつもりだが」
「そうだがな」
「あれ……? このままじゃダメだなどと言い、岩蜘蛛の先の世界を目指すと洞窟に行ったきり帰ってこなかった刀鍛冶がそんな名前じゃなかったか?」
「あー、確かにそんな気もしてきた。しかし、もう20年程も前の話だがなー」
◇
「な、なー、お前ら……いたよな? サジオは……いたよな?」
『名無し:佐正……? 束砂くん人形のこと?』
『名無し:佐正なら二人がBANしたじゃん笑』
「違う、それじゃない……! 土和夫のサジオだ。佐正じゃなくて、サ・ジ・オ……!」
『名無し:いないっすね』
『名無し:何それ、こわっ』
『名無し:いや、確かにちょっと不自然な会話があるなーとは思ったけど、束砂くん人形に話掛けてるのかと思ってた』
『名無し:そうそう、構ってあげて優しいなーって』
「ひyaaa……」
揺は声にならない声を上げている。
(言われてみると、誰もサジオについて、誰それ? とか言ってなかったな……今思うと、紹介もしなかった俺達もちょっとあれだけど……)
「揺さん、サジオさんは幽れ……」
「皆まで言うなっ!」
揺は涙目で怒る。
(……)
揺さんにも怖いものがあるのだなぁと不遜にも少し可愛く思えてしまった。
◇
帰途――
「あ、ここですね」
「っっっ……!」
二人は霊泉に辿り着く。
「ちょ、ちょっとお前、前行け……」
揺はミカゲの背中に貼りつく。
『名無し:おい、お前、そこ代われ』
『名無し:揺から離れろ、このE級超絶刀使いが』
『名無し:はーなれろ』『名無し:はーなれろ』『名無し:はーなれろ』
「あほ! 離れるなっ!」
(……どうすりゃいいのよ)
とはいえ、ここを通らないわけにはいかない。
磁石のようになった揺を連れて、霊泉に入る。
「まぁ、スピリット的な何かだったんじゃないですか?」
『名無し:大蜘蛛にやられた無念がこの霊泉によびよせられたのかなー』
『名無し:地縛霊的な』
(おい……やめろ……!)
揺の震えが二割増しする。
「でも……揺さん、サジオはどうしても街を救いたかったんでしょうね……」
「……」
「そう考えると、少し格好いいかもしれないって、自分は思いました」
「……そんなことはわかっている」
揺は少し唇を尖らせていう。
(……)
「頭では分かっていても霊的なものは
(まぁ、誰にでも苦手なものの一つや二つあるか)
『名無し:なんかあるー』
(え……?)
コメントのおかげで見過ごしそうになっていたモノの存在に気付く。
「これは……」
「……刀だな……」
揺は恐怖心と好奇心が中和しあった結果、なんか普通になる。
(あ……)
"であれば、私、ついていってもいいでしょうか。ちゃんとお礼はします。言葉だけでなく、モノでも"
ミカゲはサジオとの会話を思い出す。
「……ありがたく頂戴していきます……サジオさん」
◇
霊泉を通過すると、揺は落ち着きを取り戻し、いつもの揺に戻る。
「もうすぐですかね」
「あぁ……」
「問題は……」
「そうだな……蜥蜴と亀をどうするか……」
そうして、二人は地下二層への入口付近に戻ってくる。
「「っ……!?」」
入口付近に戻った二人は驚く。
すでに亀はかなり移動させられ、簡易的な
さらには……
「あ、ミカ兄……!」
「アサヒ……!?」
『名無し:蒼谷アサヒきたーー!!』
『名無し:本当に兄弟なんだねぇ』
蒼谷アサヒ……それだけではない。
「おす、ミカゲ……!」
「つよしさん! ど、どうして?」
そこにはモンスターカフェの津吉がいた。
国から認可されたテイマー等の特殊職は攻略者同行のもと、特別にダンジョンに入ることができる。
「なんか
(夕凪が……?)
夕凪はミカゲや津吉と同じ大学出身の攻略者だ。
【
その陽炎蜥蜴は眠っているようだ。
(こいつの処遇については、深海に決めてもらおう……)
と……
「流石にこの亀は少し重かった」
「馬鹿力が……」
屈強な男がそんなことを言い、揺が憎まれ口で返答する。
(この人は……アサヒのパーティメンバーであるA級攻略者"レイ・ステイン"……この亀を動かしたってのか!?)
【レイ・ステイン(28・男) 国:米 A級攻略者】
アサヒの他にも"レイ・ステイン"、"ステラ・ミシェーレ"を始めとする東京プロモートの攻略者が何人も来ていた。
(ん……?)
ステラ・ミシェーレはなんか端の方でもじもじしてた。
【ステラ・ミシェーレ(22・女) 国:仏 A級攻略者】
「あの……ところで、これは一体……」
ミカゲは揺に尋ねる……と、レイが横から回答する。
「協会からの要請。二層の開通、兼、何かあった時の殴り込みのためだ。というか配信復帰がなければ殴り込み一歩手前だった」
「全く……大袈裟だな」
揺は少し鼻で笑うように言う。
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