26.生贄

 牢屋にて――


「で、どうするんです? この状況?」


「どうしようかねー」


 ミカゲの問いに揺は首を傾げる仕草をする。


 状況。

 鉄格子の牢屋に二名。手は背中の後ろで拘束されている。


 没収されたもの。

 ミカゲの鞘および刀

 結局、見つかってしまったドローン


(まぁ、絶体絶命と呼ぶような状況ではないけども……)


「なぁ、それはそうと、ミカゲ。来るときに街の様子を見たか?」


「え、はい……」


「どんな印象だった?」


「え、うーん、まぁ、正直言うと、なんかちょっと物悲しい……? って感じですかね」


「だよな。街の規模の割に人が明らかに少なかった」


(……なるほど)


 ミカゲは揺の言葉を聞いて、腑に落ちる。


「なんというか……あれは滅びゆく限界集落って感じの雰囲気だな」


「確かにそうですね……」


「その通りです」


「「……!?」」


 牢屋の外から声がする。


「お、サジオ、無事だったか」


 それはサジオであった。


「先ほどはすみません、自分だけ逃げてしまい……」


「いやいや、いいんだぞ! 気にするな!」


 揺はそんなことを言う。


(いや、揺さんは捕まってしまいたかっただけでしょ!)


「本当にすみません、わけあって彼らの前には出ていけないのです……」


「ん? ひょっとして規定違反をして謹慎中とか?」


 揺はちょっと意地悪そうに口角を上げて聞く。


「え、えぇ……そんなところです」


(……はは、本当にそうなのね)


「お二人も見ましたよね? この街の様子を……」


「えぇ、まぁ……」


「期待されていたお二人には少し申し訳ないのですが、この街……いや土和夫は滅びゆく運命にあります」


(……!)


「この街は……夜が長いのです。そして深刻な妖獣による問題を抱えています」


 サジオは説明してくれる。


 聞くと、

 夜が長く、昼が短いことで元々、食糧に恵まれてはいなかったそうだ。

 それでも現在よりは状況はましで人口に大きな増減はなかったという。


 その状況が悪化し始めたのが"白蛇"という妖獣が現れてからだという。


 白蛇は強かった。


 しかし、白蛇は食糧を与えることで、街に危害を加えることはなかったという。

 故に土和夫達は戦うことはせず、白蛇に食糧を献上することで、街を守った。

 だが、白蛇が食べる量も凄まじかった。


 土和夫は、少ない食糧を白蛇しらへびに与え続けるカルマを背負った。


「土和夫は元々、妖石や妖鉱石に関する高い技術を持っています」


「おぉ、それは興味深い……!」


 揺は少しテンションが上がっている。


「かくいう私も刀鍛冶だったり……」


(まじか……!)


「しかし、残念ながら石は腹の足しにはならないのです……」


(……)


「白蛇の食欲は年々増しています。食糧は減り、それは次第に少子化を招きました……」


「なるほど……」


 揺も神妙な顔つきで聞いている。


「だから、私はこの状況を打破するべく、禁忌とされている岩蜘蛛の先の世界を目指したのです」


(……この人、勇気ある人だ……)


「話してくれてありがとう」


 揺が優しく落ち着いた口調で言う。


「復興しがいがあるというものだ」


「え……?」


「あ、それで……この後、私達は、どうなるのだろうか?」


「あ、えーと……恐らく"生贄"にされます」


(ひぇっ)


「白蛇の?」


「えぇ……人、二人差し出せば、白蛇もしばらくは満足するでしょう」


(多少は同情するが、地味にひどい話だ……)


「し、しかし、強いあなた達が岩蜘蛛を倒したことを説明すれば、きっと何かしらの交渉の余地があると思います」


「なるほど、なるほど……」


 揺はうんうんと頷いている。


「サジオには悪いが、あいつらボコってもいいかもな……」


「え゛っ!?」


 サジオは驚く。


(実際、生贄にしようとしているのだから、そうされても文句は言えないだろう)


「そ、それだけは……」


「そうだな。サジオに免じて……」


「……! ありがとうございます……!」


 サジオはほっとした様子で深々と頭を下げる。


「そうだな、うん、少しこのままにして様子を見てみようと思う。サジオは隠れていてくれて構わない」


「いいんですか?」


 ミカゲが聞く。


「あぁ、武力で屈服させるのは容易い。だが、それでは得るものも少ない」


 ◇


「付いてこい……」


(……)


 土和夫が牢屋を開け、ミカゲらを連行する。

 土和夫は四名いるようだ。


 揺も特に抵抗することなく、それに従う。


 ……


 そのまま二人は街の外れにある祭祀さいし場のようなところに連れて来られる。

 そして、中央部にミカゲと揺を置き、土和夫達は離れていく。


(あー……これ、サジオさんの言った通りだわ)


 ミカゲは悟る。


(……揺さんは……)


 ミカゲが揺を見る。と、従順そうに目を瞑ってぶつぶつと何かを呟いている。


「私は村の娘、ついに私の番が回ってきてしまった。村の掟は絶対……私がこの身を捧げることで村の皆が救われるのであれば、この命など惜しくはない…………と気丈に強がる甲斐甲斐しい村の娘……」


(……よくわからないが、生贄気分を味わってるのだろうか……)


 と土和夫達が祈りを捧げるようにひざまずく。


「白蛇さま、白蛇さま、本日の供物にございます。どうか怒りを収め賜え」


 すると、街の外側からガサゴソと地が擦れるような音が聞こえてくる。


(……っ!)


 ミカゲ達の前に巨大な白い蛇が現れ、口からはよだれをだらだらと垂らしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る