25.拘束

「さて、どうするか……」


 揺は腕組みをしながら言う。


「これだけの街だ。文化があるのは確かだな。問題は、ユグドラシル上層30層にいる精霊や42層にいる子猫人のようにコミュニケーションが取れるかどうかだ。それらは大抵の場合、精霊魔法や新しいものをもたらしてくれる」


「まぁ、コミュニケーションについては大丈夫なんじゃないですかね?」


 ミカゲはサジオに目線を送りながら言う。


「……それもそうだな」


 揺も納得するように頷く。


「となると、コミュニケーションの方針だが、基本的には二つに一つ。友好か侵略か」


「「え、侵略!?」」


 ミカゲとサジオは驚く。


「もちろん、侵略が最初の選択肢ファーストチョイスではない」


 ミカゲとサジオはほっとする。


(……とはいえ、ファーストチョイスではないってことは状況によってはそういうこともあり得るってことだよな。実際、海外のダンジョンではそういうケースもあるようだし……)


「そういう意味では、まずは侵略の意思がないことをうまく伝える必要があるな……」


『名無し:二人だけでいくのは流石に危険じゃない? 一旦、引いた方がいいんじゃない?』

『名無し:揺なら大丈夫っしょ、行け!』

『名無し:無責任なこと言うなー』

『名無し:誰もこの好奇心は止められないぜ』

『名無し:揺さん、もしものことがあったら……心配だよぉ』


 コメントは"このまま突撃派"4割、"体制を整えるべき派"6割といった感じであった。


(……)


 ミカゲは悩む。

 かなりの僅差ではあったものの、一旦、自分の意見をまとめる。


「揺さん、一旦、引きましょう……」


「……そうだな。新文化発見時の行動について、規約ルールではないが指針ガイドラインではそうなっている……」


 揺は明らかに気落ちしていたが、ミカゲの意見に合意してくれる。


 が、その時であった。


「何だ、あいつらは!?」

「丘の上に不審な奴らがいるぞ!」


(え……? やばい、見つかった)


『名無し:うわぁあああああ、見つかったぁあああ』

『名無し:逃げてぇええええええ』

『名無し:よしきた! やっちまえー!』


 コメントも急増するが、今は反応する余裕はない。


「ドローン、ステルスモード」


【ステルスモードに手動変更】


「ゆ、揺さん……! っ!?」


 ミカゲは即座にドローンを不可視のステルスモードへ切り替えた揺を見ると、なんとも奇妙な表情をしていた。

 口角の上昇を抑え込もうと必死にこらえようとしたような顔だ。


「ウ、ウワー、見つかってしまったー。戻ろうとしてたのに見つかってしまったー」


 揺はきもち棒読みでそんなことを言っている。


「捕らえろぉ!!」


 そんな間にも、あっという間に何人かに囲まれ、今にも取り押さえられそうだ。


「や、やばないですか?」


 ミカゲが揺を見る。


「……!」


 と……揺はウィンクする。


「っ……」


(もう……本当に無茶な人だ……)


 ミカゲは覚悟を決める。


 そうして、二人はほぼ無抵抗で拘束される。


『名無し:うわぁああああ、捕まっちまったぁあああ』

『名無し:EMERGENCY! EMERGENCY!』

『名無し:今、揺が俺にウィンクをしたような……』

『名無し:お前にじゃねえよ、俺だ』


 コメントは盛り上がっているが、もちろん反応することは不可能な状況であった。


(って、あれ? サジオは……!?)


 気づくとサジオがいなかった。


 ミカゲは咄嗟に揺の方を見る。


 揺もそれに気づいていたようだが、無言で首を横に振る。


(……言うなってことか。まぁ、うまく抜け出せたのなら確かにその方がいい……って、いや、状況を説明してくれよぉおお)


「お前たち……」


(っ……)


 見ると彼らはやはりサジオと同じように小柄で、顔の堀が深く、耳が尖っているという特徴を持っていた。

 一方で和風の袴を着用している。

 つまり土和夫どわふである。


「どこから来た!? 何者だ!?」


 ミカゲらを捕らえた者達の中の一人が問いかける。


「どこってあそこから……あ、人間ヒューマンです」


 ミカゲは腕を拘束されてしまっているので、やってきた洞窟の出口に目線を送る。


人間ヒューマン……外界のものか……? いや、それよりあの洞窟には巨大蜘蛛がいて、抜けることは不可能なはずだ……」


「大蜘蛛なら倒しましたけど……そこの人が……」


 ミカゲは揺に目線を送る。

 揺は鼻高々な表情だ。


(この人、この状況でも余裕だな……)


「なんだと……!?」


 その場は、「嘘だ」「ありえない」といった疑念の声でざわつく。


『名無し:残念、本当でした』

『名無し:本当に決まってんだろ! 揺、舐めるな!』


「真偽は不明……」


 残念だが、コメントは彼らの耳には届かない。


「だが、君たちが来てくれてちょうどよかった」

「そ、そうだな」

「まさにグッドタイミングというやつだ」


(お……?)


『名無し:お……』

『名無し:流れ変わったな』


(歓迎ムードか……?)


「ちょうど生贄に困っていたところだったんだ」

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