19.新メンバー

 あれから……

 アース・ドラゴンのパーティファボは何もしていないのに倍増し、40万になった。


 理由は兄弟ばれブーストだ。


 実のところ蒼谷という苗字は珍しいので、当初から親族ではないかというコメントはチラホラあった。


 前回のギガントアイロンゴーレムの件で、プチバズりしたことにより、ミカゲの陽炎蜥蜴のSOS配信が発掘されてしまったのである。


 その時にアサヒが"ミカ兄"と言っていることや二人が親しげであることから、少なくとも親しい仲、おそらく兄弟という推測がなされてしまったのである。

 そこからメディアに取材されたアサヒは――


「まごうことなき実兄ですが……」


 と、あっさりと事実を認めたのであった。


 ちなみに、なぜ今まで黙っていたのかという質問には「聞かれなかったので」とさわやかな笑顔で答えていた。


 伸びた理由として、ミカゲとしては、やや不本意ではあった。

 事務所のコラボは自身が所属できた事務所の協力であるから、ある意味、自分の力と言えるが、アサヒに関しては完全に他力であったためだ。


 ちなみにミカゲはこれを受けて、慌ててアサヒに攻略者になった旨を連絡した。


 なんとなく照れくさくて連絡していなかったのであるが、他人から知らされたとあって、怒られるかと思ったが


「僕が知らないわけないでしょー、随分前から知ってたよ」


 と言われ、怒った様子はなかったので一安心するのであった。


 流石、アサヒはすごいなぁ……、しかし、いつの間に知ったのだろうか、と思うミカゲであった。


 ◇


「お、来たな……」


 謹慎が明けたミカゲと佐正は揃って、墨田ドスコイズの社長室を訪れていた。


 二人揃って、改めて揺に頭を下げる。


「まぁ、もうその件はいいよ」


 揺は堅苦しいのは嫌なのか適当にあしらう。


「時にミカゲよ、三人目のメンバーについては考えてきたかな?」


 揺は早速、前回、話した際に考えておくように言ったことを切り出す。


「はい……僭越ながら……」


 ミカゲは少し緊張した面持ちで頷く。


「うむ。先に伝えた通り、他パーティの引き抜きも含めて許可する。ひとまず希望を言ってみろ」


「わかりました」


「で、誰にするんだ? 七山……はちょっと違うか……やはりリリィか? ん? リリィなのか? あいつ可愛いもんな」


 揺は、にやにやしながら言う。


「えーと……この方にしようかなと……」


 ミカゲはリストにある希望人物を指差し、揺に見せる。


「ん……?」


 揺は目を細めて、確認する。


「………………はぁああああ!?」


 その時、ミカゲは初めて揺が動揺する姿を見た。

 不遜にも正直、少し可愛いと思ってしまう。


「ちょ、ちょちょ、お前なぁ!!」


 そう。ミカゲが指差していたのはリストの欄外、資料の最後の方に書いてあった代表者のところであった。


「わ、私は非売品だぞ!」


「え? "好きな奴を決めさせてあげよう"って言ったじゃないですか。あれは嘘だったんですか」


「ぅ……」


 揺はぐぬぬとなる。


「束砂からもちょうど揺さんは今、どこのパーティにも所属してないって聞きましたけど……」


「つ、束砂……お前……」


「調整不要ですね」


 束砂もニコリとする。


「ま、まさか、ミカゲがこんなこと言ってくるとは、想定外だった……」


「焚き付けたのは揺さんですよ?」


 前回の揺が話した内容は言った当人の想像以上にミカゲに響いていたのであった。


「あの夢を実現するには墨田ドスコイズ唯一のA級攻略者である貴方しかいないと思いました」


「……ぅ」


 揺は再びぐぬぬとなる。


 ◇


「というわけで、ほ、本日のゲスト……仁科揺さんです」


 ミカゲが不慣れな感じで揺を紹介する。


「どうも初めまして、仁科揺です」


 揺がアンニュイな表情で挨拶をする。


『名無し:うぉおおおおおおお』

『名無し:本物の揺きたー!』

『捨て身:揺!揺!揺!』


「あ、ちなみに揺さんは今日はゲストなんですけど、アース・ドラゴンへの加入が内定しております」


「まぁ、そういうことだ。この私がほだされるとはな……」


『名無し:なん……だと?』

『名無し:うぉおおおおおおお』

『名無し:揺、頼んだら断りきれないタイプ説』

『捨て身:は? 羨ましすぎるんだが』


 実際のところ、等級が2つ以上離れているとパーティを組むことができない。揺はA級なのでミカゲと佐正はB級にならなければならない。

 ただ、正式加入でないコラボやゲストであれば同行可能なので、昇級するまではそれで繋ぐことにしたのであった。


「ではでは、今日は以前、断念したアンダー2層の捜索をしていきます」


『名無し:覚醒師とおにぎりはどうしたー?』


 視聴者が佐正とおにぎりの不在を指摘する。


「それなんですが、束砂は体調不良です」


『名無し:仮病じゃないだろうな?笑』


「その可能性も否めない。なんかアンダー行きたくなさそうだったから、別にいっかってことになった」


 実際には本当に発熱での体調不良であったのだが、揺は少しひねくれた返答をする。


「ははは……」


 ミカゲは笑っている。


『佐正束砂*:何笑ってるんですかー!!』

『名無し:はは、本人いるわ』

『名無し:二人、気付いてない笑』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る