18.CPTM
(幕間)蒼谷ミカゲの休日。
あたまおかしい……
その日、佐正束砂は後悔していた。
数日前――
「
佐正はミカゲにそんなことを聞く。
「え? 謹慎期間でやることないし、トレーニングしようかなと」
ミカゲはそう答える。
「じゃあ、交流も兼ねて、一緒にやりませんか? ミカゲさんがどんなトレーニングしてるのかも気になりますし」
「いいよ。じゃあ、悪いけど、前日から来てくれる?」
「ぜ、前日から? りょ、了解です」
なぜ、前日から? 佐正は少し不思議に思ったが、ひとまず受け入れる。
◇
そして当日、蒼谷ミカゲの自宅――
蒼谷ミカゲの朝は早くも遅くもない。
蒼谷ミカゲは午後9時ちょうどに眠り、午前7時ちょうどに起床する。
たっぷり10時間の睡眠を取る。
「み、ミカゲさん、おはようございます……」
早く寝過ぎて5時くらいには目が覚め、ミカゲの起動を待っていた佐正はすでに少し疲れている。
「10時間は流石に寝過ぎじゃないですかね? こんなに寝たのは小学生以来です」
「睡眠はリカバリーでトレーニングの一環みたいなものだから」
「り、リカバリー?」
朝食。
彼は決して、小麦を摂取しない。小麦に含まれるグルテンを抜くことで睡眠の質や集中力の改善につながるという。
彼の好物はささみとブロッコリーだ。
高たんぱくを中心に摂取し、必要に応じてビタミン剤等も使用する。
「あの、失礼ですが、人生……」
「ん……?」
佐正は、ささみとブロッコリーを嬉しそうに頬張るミカゲに人生楽しいですか? と尋ねそうになるが、踏みとどまる。
その後、彼は全開の熱いシャワーを20分近く浴び、運動の準備のため体をほかほかに温める。
結構、水道、ガス代が掛かるのでは……
と、少々、心配になる佐正であった。
次に、各種筋トレで身体に負荷をかけていく。
筋トレは戦闘に必要な筋肉のみを強化する。不要な筋肉は重みとなるだけだ。
筋トレに満足すると、じっくり、ねっとりと素振りをする。
ここまで休憩なし。
「あ、あの……休憩とかはしないんですか?」
「あ、休憩? これからするよ?」
……
いや、これは休憩……なのか……?
スヤスヤと眠るミカゲを横目に佐正は疑問を抱く。
ってか、なんで激しく運動した直後にすっと寝れるんだよこの人は……カビゴ○かよ……
あれか? グルテン抜いてるからか?
1時間30分後、パチリと目を覚ましたミカゲはようやくウトウトし始めていた束砂に言う。
「さぁ、束砂、外出でもしようか」
「りょ、了解です」
お、終わったのか……? まぁ、オフだし、午前中だけで十分……と考えた束砂を連れて、彼が向かったのはトレーニングセンターである。
熱いシャワーで体をほかほかに温めた後、宝物ありの対人AIシミュレーション訓練をじっくりと満足するまで行う。
その後、ミカゲは再び移動する。
向かったのはモンスターカフェである。
カフェ……? いや、騙されないぞ! どうせトレーニングなんだろ!?
佐正もようやくミカゲのことがわかってきたようであった。
ちなみにモンスターカフェとは主に職型"テイマー"が運営するモンスターがいるカフェである。
国に認可されたテイマーが運営しているため、安全性は高い。
しかし、その店は外観がかなり怪しげでモンスターカフェであることも分かり辛かった。
「つよしさん、いつものよろしくお願いします」
「お、ミカゲか、あいよ」
いつもの……? なんだ……?
佐正はすでに満身創痍である。
「あれ? その人、ミカゲのパーティの人じゃん」
「……!」
「そうですそうです、俺の相棒の束砂です」
話しかけてきたカフェの店長にミカゲが反応する。
「どうもCP……間違えた。ミカゲがお世話になってます」
「あ……どうもです……」
「つよしさん、束砂はトレーニングに……」
「うっせぇ、このCPTMが! この人、もう大分うんざりしてんじゃねえか! 準備はしといてやるからお前は勝手にやってろ!」
「え゛……!?」
ミカゲはめっちゃ驚いた顔をした後、一人、すごすごとお店の地下へと向かう。
「すみませんね、あのCPTM……あ、CPTMってのは、クレイジーサイコトレーニングモンスター(Crazy Psycho Training Monster)の略ね。大学のクエスト部でそう呼ばれてたんだが……」
ひでえあだ名だと思いつつ、そう呼ばれても仕方がないとも思える佐正であった。
「で、そのCPTMは、トレーニングのことになると、ちょっと頭のネジがおかしいので……」
聞くと、その店長はミカゲの大学時代のクエスト部の先輩で、津吉という人物であった。
「……」
店の壁には認可証が貼られており、宝物特性レベル9の職型"テイマー"と記載されていた。
佐正はこれだけのポテンシャルがありながら、なんでカフェをやっているのだろうと疑問に思ってしまう。
「なんでカフェなんてやってるんだ? ってか……?」
「えっ……!?」
佐正は心の内を言い当てられる。
「逆になんで攻略者なんかやるんだよ? 危ないのによ」
津吉はそんなことを言う。佐正はそれについてはあまり考えたことがなかった。
世の中には少なからず攻略者になれる実力がありながら、ならない人もいるのであった。
「まぁ、それもそうですが、それなら津吉さんはなぜクエスト部に?」
「まぁなんだ……"あふれ"が来たとき、自分の身くらい自分で守れるように……そんなところだな」
「なるほどです。ちなみに津吉さんは大学時代、ミカゲさんとは対戦したりしたのですか?」
「そりゃあな。あいついろんな奴に1対1仕掛けてたからな……目が合うと、仕掛けてくるからやりたくない時は決して目を合わせてはいけないんだ」
「……そうなんですね」
「どっちが上だったのかって?」
「え……? まぁ……そうですね」
「俺の方が上だったに決まってんだろ?」
「……!」
「まぁ…………宝物ありならな」
津吉は少し目を逸らすように独り言のように言う。
「ところでミカゲさんは地下で何を?」
「ん……? ちょっと観てくか?」
◇
「……!」
地下に行くと、ミカゲは大きな狼と激しいバトルを繰り広げていた。
「こ、これって……」
「安心しろ……単なるチャンバラみたいなもんだよ」
「チャンバラ……?」
特に大学に入ってからは1対1での優位性の再現論をテーマに研究、トレーニングに取り組んできたのである。
大学卒業後は、よりリアリティを求めて、津吉のテイムモンスターとのチャンバラを取り入れていた。
ここ最近までは特に攻略者というわけでもなく遊撃者であったのにだ。
「うちのシルバーファングに傷つけられるわけにもいかねえから、非宝物の痛くない柔らか素材を使ってもらってる」
「非宝物……? シルバーファングって確か……」
「危険度70だな」
「……!」
危険度70? この
それを宝物未装備で相手してんのか、この
俺の相棒……あたまおかしい……
◇
佐正と別れ、帰宅する。
身支度を終え、寝る前に
イメージトレーニングを行い、21時。
蒼谷ミカゲは就寝する。
(あー、いい休日だった!)
====
【あとがき】
何人かの実在するアスリートのエピソードをオマージュしてみました。
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