17.理由

「へへ……パーティファボ20万……」


 ミカゲは増加したパーティファボ情報を見ながら、思わずにやける。

 ギガントアイロンゴーレムとの戦いで低レベルE級が規約違反をした上で、格上のB級パーティを助けて、危険度96を討伐したという話題性からパーティファボが激増し、あれよとあれよと20万まで増加、勢いこそ落ち着いてきたものの今も増加を続けている。


 そんなミカゲはとある場所を訪れていた。


 ミカゲは扉の前に立ち、ノックする。


「失礼します……」


「どうぞ」


 許可されて部屋に入る……


(えぇっ!?)


 と、妙に圧迫感があった。


「すまん、今、キリ悪いから、ちょっとだけ待っててな」


 そうミカゲに声をかける揺は、ディスプレイを8枚並べて、映像を眺めていた。

 そこには各国の有望株、アカデミー、トライアルなどの映像が流れている。

 マッド・スコッパーこと仁科揺の日常である。


 ◇


「始末書だ」


 ディスプレイの電源を落とした揺がミカゲにかけた第一声である。


「す、すみません」


 規定違反の件であろう。ミカゲは縮こまる。


「まぁ、こんなにウキウキで書いた始末書も珍しい」


(え……?)


「よくやった……ミカゲ、ありがとう」


 揺は真っすぐミカゲを見つめてそんなことを言う。


「まぁ、でもあれだ。責任者的立場からも言わないといけないからな。規約は守れよ。可能な限り」


「ぜ、善処します」


「うむ……これで今日来てもらった目的の一つは果たした」


 これだけでいいの? と規約を破った本人ながら心配になる。ただ、それとは別に規定違反による謹慎期間は設定されている。


「で、もう一つ。実は、束砂のところに別の事務所からスカウトが来ててな」


「……! そ、そうなんですね……」


「そうだな。前回のお前の活躍で、前のアンダー探索も漁られて、レベル0刀戦略が完全に世間にばれた。それでその要である束砂にオファーが来たってわけだ」


(……束砂がいなくなれば俺はどうなるのだろうか)


「でもまぁ、一応、先に言っておくが、束砂は拒否した」


「……! そ、そうですよね。束砂が揺さんを裏切るわけないですよね」


「え? うーん、まぁ、一応、オファーで引き抜かれる場合、契約期間内であれば、違約金が臨時収入になるから、別に私は誰かがうちを抜けるからと言って、裏切りだとは思わんよ……束砂の違約金はめちゃくちゃ高めに設定してるし……」


(そんなものなのか……それにしても、やっぱり……)


「……それにしても、やっぱり束砂なんだ……って顔してるな?」


「っ!?」


 揺はミカゲの心の中のちょっとしたジェラシーをずばり言い当てる。


「す、すみません……」


「いやいや、構わんよ。攻略者ってのは実際のところ負けず嫌いでないとやってられん」


「はい……」


「そうだな……束砂がいれば、その相方は誰でもいい。だから束砂にオファーを出す。そういうことだろうな……」


(……)


『名無し:ただ佐正の覚醒武器がすごいだけでは?』


 ミカゲはギガントアイロンゴーレムの戦いの後も9割の称賛の中に潜む1割のコメントが気になっていた。


 その前から自分自身もずっと気になっていたことなのだ。


「どうして俺なのか? って顔してるな」


「っ!?」


 またも揺に言い当てられる。


「刀は確かに誰にでも使える」


(……)


 揺はゆっくりと語り出す。


「しいて言うなら8パーセント出力が上がるカタナシだけが条件。そうだな。カタナシだけが条件なら人口の半分があてはまる。

 だが、勘違いするな。誰でもいいわけではない」


(……)


「逆にだ……誰にでも使えるなら、お前ならどんな奴に使わせる?」


「え……?」


「勿論、一番戦いが上手いやつだよ」


「……!」


「もう一度言う。カタナシだけならいくらでもいる。

 だが、カタナシではそう多くはない。

 低レベルのやつはたいてい諦めてしまうし、高レベルのやつは無意識に宝物の力に頼ってしまう。

 結論を述べる。ミカゲ、君は私が見てきた中で一番戦いが上手い奴だ」


 ミカゲは胸の辺りが異様に熱くなってくるのを感じる。

 揺は続ける。


「陽炎蜥蜴のSOS配信を見たとき、違和感を覚えた。

 その後、君の映像を漁って、驚愕し、確信した。

 体術レベルの高さ、武器の扱いの巧さは勿論だが、特に一対一において無類の強さを感じた。恐らく戦闘の刹那においても相手の目線や体重移動、なんなら心理状態までを驚異的なレベルで観察できるのだろう。

 ……お前、今まで一度も実戦でクリーンヒット受けたことないだろ?」


「え……!? ど、どうだったかな……」


(すれすれの戦いはすごく多いと思うけど……)


「だが、忘れないでほしい。確かにこの戦術は誰にでもチャンスがあるんだ」


「……!」


「いつか君よりも優れたやつが現れるかもしれない。いや、むしろそれは喜ばしいことかもしれない」


 ミカゲは少しむっとする。


「やはり謙虚なくせに負けず嫌いだな。そういうところ好きだぞ」


 唐突な好きで、文脈上、恋愛感情ではないと判断しつつもミカゲは少しだけ胸が跳ねる。


「だけどな、ミカゲ……私の思い描く、私と君の最大のミッションがある。それがなにか分かるか? アンダー二層を見つけることでも、ましてやギガントアイロンゴーレムを倒すことでもない」


「え……?」


「それは……今まで攻略者になることができなかった君みたいな低レベル帯カタナシ、同じ境遇の者達に夢を与えることだ」


「……っ」


「君が今の高レベル至上主義の攻略者環境をぶっ壊せ……! そして、いつか君に憧れた少年少女に追い抜かれるその日まで、そいつらの憧れであり、高い壁であり続けろ。ミカゲ……!」


「っっ……!」


 ミカゲには、もはや言葉が見つからなかった。喉や胸が熱くなっていることだけは確かだった。


「差し当たっての目標はS級かな……」


 揺がぼそりと言う。


(え、S級……!?)


「あ、そうそう、言い忘れてたんだけど、ミカゲ、君にもオファーが来てたんだけど、どうする?」


「っ……!」


 揺はあっけらかんとした様子で聞く。


 ミカゲは揺も人が悪いなと思う。


「今の話聞いて、受けるわけないですよね?」


「それが狙いだ」


 揺はにやりと微笑む。



 ……



「あ、そうだ。謹慎が明けたら、そろそろアース・ドラゴンの三人目のメンバーを決めないとだな……今回の件の礼だ。好きな奴を決めさせてあげよう」


(え……? 決めちゃっていいの?)


 ミカゲは墨田ドスコイズの攻略者リストを渡された。


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