06.レベル7相当の世界

(……!)


 ミカゲは驚く。


 祟蜘蛛はうめき声をあげながら消滅していく。


『名無し:え、レベル3にしては、結構、やるじゃん』


 コメントのおかげで自分がそれをやったことを改めて認識する。


 あまりにも軽く、迅く、そして容易であった。危険度42の妖獣に対して何の緊迫感もなかった。


「どうです? 重熾じゅうしは?」


 佐正がにやりと口角を上げて訊いてくる。


「え、えーと、なんというか……すごい?」


「ミカゲさん、もうちょい気の利いたコメントしてくださいよー。配信中ですよ」


「あ、ごめん……」


(これがレベル7相当……? レベル7とは、こんなにも速く動けるものなのか?)


 それは初めてミカゲが体感したレベル7相当の世界であった。


 ミカゲは準備時間があるのであれば、ぶっつけ本番で挑むような人物ではない。

 可能な限りしっかりと準備をするし、相手がわかっている状況ならしっかりと分析もするようなタイプだ。

 そのため、当然、ミッション開始前に、重熾を使用した素振りやシミュレーション訓練等も行っていた。しかし、トレーニング段階で速い速いと思ってはいたものの、いざ実践で使用してみると、レベル3との大きな差異に驚きや喜びよりも先に戸惑いがきたのであった。


「あ、アイテムドロップありますね」


「え? あ、本当だ」


 祟蜘蛛の消滅跡に、トレジャーボックスが残っていた。


『名無し:開封タイム~』


 数少ない視聴者もトレジャーボックスの開封は楽しみにしているようだ。


「ミカゲさん、早速、開けてみましょう」


「了解」


 ミカゲはトレジャーボックスを開ける。


(お……?)


 中に入っていたのは紫色に光る石であった。


「……妖石かな?」


「そうですね。流石にそんなにうまくはいかないかー」


 目当ての刀ではなく、佐正は少し悔しそうにする。


「そもそもアンダーは武器性のものが出ること自体珍しいよ」


「そうなんですね」


(……まぁ、遊撃手、二年間やってたから、その辺は詳しい)


「んー、これは"守りの妖石"かな」


 ==========

【守りの妖石】

 Lv1

 効果:一定時間、防御力を上昇させる。一度、使用すると消滅する。

 ==========


 兵器以外の宝物には様々なものがあり、鉱石はその中の代表例であった。

 鉱石には強化バフ弱体化デバフのような効果があるものが多いが、それ以外にあらゆる分野の素材としても使うことができ、需要は高い。


「それじゃ、今日は撤収するので配信終了します。しばらく毎日、アンダー探索の配信をしますので、奇特な方はご覧ください」


 佐正がそんなことを言い、配信の締めに入る。


『名無し:お疲れー。あんまり期待してなかったけど、低レベルのわりに頑張ってるし、猫いる配信は珍しいから、時々、観るかも。登録しておきます』


「「ありがとうございます……!」」


(……おにぎりナイス!)


 気付くとお気に入りのパーティを登録する機能である"パーティファボ"が4になっていた。


(……)


 アサヒの初配信の時は初回でパーティファボが10000を超えていた。

 パーティファボ4は決して大きな数字ではないかもしれない。

 それでも、ミカゲにとってそれは攻略者になれたということをジワジワと実感させてくれるものであった。


 ◇


 22日後――


 二人はその後もひたすらマップの再確認を継続していた。


「ミカゲさん、やりました……」


「あぁ……」


「アンダー地下層、マップの全走査、完了です……!」


『名無し:パチパチパチ』

『ゆーなて:おめ』


 パーティファボは増えたり、減ったりを繰り返しながらも50人くらいになっていた。

 今日はおそらく完走できるだろうということで視聴者も普段より少し多かった。


「って、ミカゲさん、どうするんですか!? 全走査完了しちゃいましたよ! 刀もなければ、ましてや二層への手掛かりなんて皆無ですよ!」


「……うん」


 佐正の言う通り、二層への特段の手がかりもなければ、相当数のトレジャーボックスも開封したが、結局、刀も見つかっていなかった。


「正直、流石に飽きたわ。アンダーって代り映えのしない岩場ばかりだし。社長には、そんなものはなかったと伝えて早く上層に行かせてもらいましょう」


「うーん、揺さん、許してくれるかな……」


「ど、どうだろう……」


『仁科揺*:許さん』


「「!?」」


『名無し:揺、来てるし笑』

『名無し:本物きたー』


「……束砂、これ、本物だよな?」


「あぁ、*ありだから間違いないな……」


 *は本人認証済みの証であった。

 二人は絶望するが、反面、その瞬間、パーティファボは10くらい増える。


「「……」」


 ミカゲと束砂は微妙な表情を浮かべながら顔を見合わせる。


 その時であった。


 グギャアアアア!!


「「!?」」


 突如、別方向からけたたましい咆哮が聞こえてくる。


「妖獣か……?」


『名無し:空気を読む妖獣』

『捨て身:揺マジック』


「み、ミカゲさん、行きましょう」


「りょ、了解」


 そうして二人は咆哮のした方へ向かう。


 ◇


「……!」


 向かった先に咆哮の発信元である巨体がいた。


 ミカゲは、その姿に見覚えがあった。


 そこには巨大な蜥蜴トカゲがいた。


 それは転機となったSOS配信の時に、遭遇したあの"はぐれ"の巨大蜥蜴であった。


 ドローンがその妖獣の名称と危険度を知らせる。


【妖獣 陽炎蜥蜴かげろうとかげ 危険度75】

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