第43話 会えない神様
目を開ければ霧に包まれた夢の中、聞き慣れた声が聞こえる。
『君の計画には俺は乗ったが、また増えるのかい?』
「ふふ、エーヴァ様なら可能でしょう?」
体を起こして近くに座り込んでいたエーヴァに笑いかける。霧が立ち込めた白い世界。見慣れたものへとなってきた。
エーヴァはあぐらをかきながら頬杖をつき、呆れた顔をしている。
『別に今更人数が増えようがかまやしないんだがね。しかしながら、あの精霊避けのお坊ちゃんが来るとなると俺も現実世界では出にくくなるもんでね』
「そういえばそうでしたわね」
『効果を打ち消す魔法具は存在するんだが、手に入れられるのならば頼むよ』
「手配しておきましょう」
エーヴァの頼みに頷き返す。しかし、とエーヴァが続けて話出す。
『女巫が神殿を抜け出すだなんて前代未聞だな。君はどこまでも規格外だ』
「お褒めの言葉と受けとっておきますね」
『そうしてくれ。神々もまあ気にやしないだろうよ』
そもそも、神殿に閉じ込めて神託を得るだなんて、人間が勝手に決めたことだしな。とエーヴァが告げる。
『あの神々を相手にするのは骨が折れるだろう。多少自由なくらいがちょうどいい』
「そういえば、しばらくあの鼠さんのは会っては居ませんが、やはりまだ今代の女巫に付きっきりなのでしょうか?」
『恐らくね。引き継ぎの儀式を終えれば君の元へと来るはずだよ。君はきっと彼らに気に入られることだろう。哀れなことだ』
「ふふ……楽しみですわね。お会いするのが」
『あんな人でなし共に会いたいだなんて、会ったのならすぐに取り消したくなるさ』
ふう、と顰めっ面でため息を吐いたエーヴァに、それほどまでに十二柱に不快感を持っているのには理由があるのだろうと考えた。エーヴァに聞いても話したくないとしか返って来ないのだから推察する他ないのだった。
『引き継ぎまでの後二ヶ月、君にとって最後の休息と思っておきなさい。あいつらに振り回されるのは骨が折れるぞ』
「寝ても疲れが取れなさそうですわねえ」
『まともなやつもいりゃあすんだがね。大体はどっか面倒だぞ。全く……イリアドネスにも未だ会えやしないってのに、俺の持ち主が女巫。巻き込まれそうで嫌になる』
ぶつくさと小言を言っているエーヴァ。
神殿からの脱出の計画を進めてはいる。始めに相談したのはエーヴァだったが、面白そうだがら乗ってやろうと乗り気であった。しかし、神殿を出る前に、神のお膝元で主神に会いやすいここでイリアドネスに会っておきたいと前々から言っていたのだが、未だ会えずじまいなのだそうだ。
後二ヶ月でここを出なければならない訳だが、なんとなくエーヴァがイリアドネスに会うのは望みが薄いように感じていた。
「イリアドネス様、やはり今はまだお休みに?」
『そ、行っても追い返されるし、こりゃあ無理かもな。久々に会いたかったもんだがね』
「……今代様に聞いてみましょうか。わたくしからも」
『女巫はあくまでも十二柱の神託を聞く係だからなあ。イリアドネスについて知っているかは怪しいが……まあ、一応聞いてみてくれ』
頼んだよ。とエーヴァが力無く手を振ると霧が濃くなって行った。目を閉じて次目を開ければ自室の天井が目に入った。
早朝らしくまだ外は薄暗い。もうひと眠りしてもいいかもなと目を閉じたが、中々寝付けなく、大人しく起きているか。と制服に着替えて顔を洗いに向かった。途中、私を起こしに来たらしいマレイケに出会った。
「おはようマレイケ」
「おはようございます」
「今から顔を洗いに行くのだけれど、朝食の準備は出来ている?」
「ええ、お運びします」
「お願いね」
それだけ告げてすれ違い、顔を洗った後に用を足して自室へと帰る。
髪をすいているとマレイケが食事を持って入ってきた。机に置かれ、どうぞ召し上がってください。との言葉に食事に箸をつける。
「マレイケ、お願いがあるのだけれど」
「何でしょう」
「精霊避けの効果を打ち消す魔法具ってあるかしら」
「ありますが」
「調達してくれない?」
「……かしこまりました」
それだけ言えばマレイケは何も聞かずに承諾してくれた。従者らしく余計なことは聞かないあたり好感が持てる。
朝食を終えて身支度をしっかりと整え、食事を下げて戻ってきたマレイケと共にヴェルヘルミナの元へと向かった。
「おはようございます。ヴェルヘルミナ様」
「おはようございます。次代様」
女巫の教えを乞うためだったが、エーヴァに言われていたイリアドネスのことについてまず聞いてみる。
「ヴェルヘルミナ様はイリアドネス様にお会いになったことはありまして?」
「主神様ですか……いえ、十二柱様に話を聞くだけで謁見したことはありません」
「そうですか。十二柱の方々から話を聞いたことは?」
「今は少々お休みになられているとは聞いたことはありますね。しかしそれだけです」
十二柱は何か事情は知っていそうではあったが、ヴェルヘルミナには事情は話していなさそうだ。
そうですか。と笑みをのせて礼を言う。何故聞いたのかと問われたが、女巫も主神に会うことは可能なのかと気になっただけだ。と返す。
「古くはお会いできる方も居たそうなのですが、近代ではお会いしたことのある女巫の話は聞きませんね」
「そうなのですか。運なども絡むのでしょうか」
「さあ……しかし、私も女巫の役目を終えた時にお会いできないかと、少々思っております」
難しいのでしょうけれど。と困ったように微笑むヴェルヘルミナに、きっとわたくしでも難しいでしょうね。と返した。
その後は女巫のことについての座学を始めるのだった。
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