第27話 薄藤色の君

「褐色の肌に、薄紫色の髪の男子生徒、ですか」

「私は存じませんねえ」


 昼休み、保健室で出会った男子生徒について知らないかとエリンとカナンに聞いてみた。が、二人とも知らないそうだ。


 とすると上の学年だろうか。エルマに聞けば分かるかもしれない。エルマに出会うことがあれば尋ねてみようと頭に留めておく。


 午後の授業は座学で、少々眠くなりながらも板書を取り、放課後へと突入だ。


「ねえ、エリンさん。エルマ様のところへ一緒に行かない?」

「いいですよ! 私、クジュに会いたかったから丁度いいですし。お昼の時のお話ですか? 知らない男子生徒の」

「ええ、それを伺いたくって」


 竹刀と精霊の剣を腰にさして、教科書などをバッグに詰め込んでからエリンと共に教室を出る。二年の教室へと向かっていると、前方からエルマの姿が見えた。手を上げて振るとエルマが気が付いたらしく手を軽く上げた。


「どうかしたかな。アリシア」

「お聞きしたいことがあるのですが……」

「ん、なんだい?」


 エルマに事情を話す。見知らぬ男子生徒の見目のことを告げると、ああ、生徒会の薄藤色の君かな。と思い至ったようだ。


「ディーデリック・アーレンツ。皆からはディーとかアーレンツって呼ばれている。生徒会の副会長だね」

「有名な方なのですか?」

「それなりにはね。君と同じ肌の色だろう? 結構目立ってはいるらしいね」


 副会長なのにサボりに保健室に来ていたのか。いや、先生がいなかったから仕方なく休んでいただけの可能性もあるが。と考えていると彼、サボり魔で有名なんだよ。と返ってきてサボりだったか……と少し目を瞑って憶測も当たることはあるなと考える。


「成績は優秀だ。けどそれだけが欠点でね。素行が悪い訳では無いのだけれど」

「同じクラスの方なのですか?」

「いや、違うクラスだよ。ただ色々有名だから」

「なんか、似てますねえ。アリシアさんと」

「ま! わたくしサボりなどしていませんよ」


 くすくすと笑うエリンだったが、何か気になったのかエルマに尋ねた。


「殿下は生徒会には入っていないんですか?」

「うーん。入っていないと言えば入っていないし、入っていると言えば入っている」

「どう言うことですの?」

「催事の際のお手伝いみたいな感じかな。あと忙しい時に手伝いを頼まれたりで、正式に入っている訳では無いんだ」


 そういう支援組織があるらしく、同じような生徒は割と多く居るらしい。そういえば、廊下の掲示板の張り紙で見たことがあるかもしれない。


「一年でも入れるんですか?」

「ああ、入れるよ。興味があるなら話を通すけれど」

「クジュは入っていますか?」

「ああうん、彼も入っているよ。一緒に申し込んだんだ」

「アリシアさん、お話だけでも聞いてみません?」


 エリンの目が輝いている。クジュが入っているなら、と興味本位で話を聞いてみたいのだろう。クジュに会わなくていいのかと聞けば、引き摺ってきます! とエルマに教室にまだ居るか確認してから二年の教室に向かって走って行った。


「ふふ、元気な子だわ」

「いい友人を持ったんじゃないかい?」


 ああ言う子はひとり居るだけでも楽しいものですわね。とエルマに言えば、僕にとってのクジュみたいなものかな。と穏やかな笑みを浮かべた。

 しばらく待てばエリンがクジュの手を引きながら駆け足でやって来た。


「さあさ! 行きましょう!」

「なあエルマ。俺なんで連れてこられたんだ?」

「歩きながら説明するよ」


 くすくすと笑うエルマにクジュは頭に疑問符を浮かべている。エルマに先導されながら、大まかな事情をクジュに話し、成程ね。と納得が行ったらしい。


「ディーデリックに会いたいのはどうしてなんだ? アリシア嬢」

「わたくし、周りにルーツが同じ方が居なかったので、話を聞いてみたくて」

「成程。で、エリンは俺が居るから支援組織に入りたいのか?」

「どうするかは話を聞いてから決めるけれど、クジュと一緒なら楽しそうだなって!」

「そ、そうか」


 エルマがくすくすと笑い、クジュに肘でどつかれていた。二人は相当親しい関係を築いて居るのだろう。エルマにそんな存在が居たことになんとなしに安堵を覚えた。


 一室に前でエルマが辿り着けば、ここが生徒会室だ。とのことだ。空き教室を使っているのか普通の教室と同じ作りだ。エルマが扉を叩けば中からどうぞ。と声が聞こえてきた。四人で入ってみれば、三人ほど中に居た。その内ひとりは彼だった。


「エルマ、どうした?」

「支援組織に興味があるって言う一年を連れてきたんだ。説明頼んでもいいかな」

「お、大丈夫だぞ。あー、なんか有名なのがお二人さんだな」

「アリシアさんは分かるんですけど、わ、私もですか?」

「うん。アリシア嬢に振り回される一般人って有名」

「嫌な名声だあ……」

「あら嫌だなんて。そこはお喜びになって?」

「わぁ〜い……」

「漫才やってないで座ったら」


 恐らく生徒会長らしき黒髪の男子生徒は座って座ってと椅子に誘導し、話を聞くこととなる。ディーデリックは部屋の片隅で何か資料に目を通してしておりこちらには意識を飛ばしていないらしかった。話は聞きたいが、唐突に尋ねても聞けるかどうか分からない。と言うことで大人しく生徒会長の話を聞く。


 活動内容としては主に催事の際に人手を確保するために組織されている支援組織らしい。立て込んでいる場合にも手伝いなどを頼んだりと健全な組織のようだ。


「学園での催事に一般解放された場合の来場客への対応だったり、資料作成が主なものかな。今の時期は落ち着いているから手伝いは必要無いが、忙しい時にわざわざ人員確保する必要が無いように作られた組織だ。在籍したいのならこちらとしては歓迎するよ」

「エルマ様も入っていらっしゃるとのことでしたが」

「ん、まあ学園内でなら護衛だったりの必要もそう無いからね。彼は優秀だし、彼目当てで来場する客も居るくらいだ。客寄せにはいい人材だな」

「人を珍獣みたいに言わないでくれないか?」

「実際そうだろうよ」


 エルマは人気があるらしく、女性客の客寄せパンダになっているらしい。まあ確かに目の保養にはなる見目をしているしな。と考える。


「どうする? 入ってみるかい?」

「私は入りたいけど、アリシアさんはどうする?」

「エルマ様やエリンさんも居ますし、楽しそうね。入ってみたいわ」

「そ、じゃあこの書類に目を通してからサインしてもらってもいいかな。一応同意書だ。抜けたかったら簡単に抜けれるから、やっぱ合わないなって時は行ってくれればいい」


 髪を渡されてそれに目を通す。エリンと共にサインをして生徒会長に渡せば、これからよろしく。と返ってくる。


「一応名乗っとくか。生徒会長のエルヴィだ。で、あっちは副会長のディーデリック。彼女は会計のニフリス」

「どうも……」

「よろしくね。アリシアちゃんにエリンちゃん」


 ディーデリックともうひとり居た女子生徒のニフリスを紹介され、よろしくお願いいたします。と返す。


「あ、そうだ。ディーデリック。アリシアが君に聞きたいことがあるそうだ」

「……何」


 エルマが橋渡しをしてくれ、ディーデリックが用件を聞いてくれる。


「君、ヒティリア国の出身だろう? ルーツが同じ君と話をしたいらしい」

「生まれはヒティリアって言っても、俺、殆どこの国で過ごしているから聞けることあまり無いと思うけれど」

「少しでもよろしいのです」

「……まあ、父母から聞いた話で良ければ」


 ディーデリックはどうやら話を聞いてくれるらしく、明日の放課後にでも、と約束を取り付けた。その後は礼を言ったのち四人で生徒会室を出る。


「よかったですね! アリシアさん」

「ええ、ちょっと緊張するけれども、お話を聞けそうでよかったわ」

「その話、僕も同席してもいいかな。僕もヒティリアについて見聞を広めたい。外交問題の参考になればと思ってね」

「ええ、構いませんよ」


 その後エルマは用事があるからと別れる。エリンとクジュは街で遊ぶ算段をつけ始め、邪魔するのも悪いだろうと私もエリンたちとは別れた。


 ああ、自分のルーツを知れる機会がやって来た。と安堵と不安が押し寄せた。保健室で彼が言った言葉の意味はなんだったのかと、厩舎に向かいながら考えた。

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