第18話 冒険はおしまいですわ

 闇に包まれたダンジョン内だったが、時間にして早朝ごろ、全員起き出して探索の準備を始めていた。朝食は昨日焼いてあったホーンドッグの肉を温めて食べる。


 食事の後準備を整え、騎士団も未踏である場に足を踏み入れた。ここからは未解除の罠もあるだろうから注意するように、とベニグノが言った矢先にベニグノがスイッチを踏んだかどうかしたらしく仕掛け矢が飛んできた。


「あなた冒険者やっていたらしいけれど、勘が鈍っているのではなくて?」

「言い返せないのが悲しいところだよ」


 お嬢が生まれる前だしね〜と呑気に言うが、なんとなく不安は生まれた。


 時たま下級モンスターと接敵し、エリンやカミラの魔法数発でも倒すことが出来る。バランス良く体力を温存しつつ進むと、第三階層への階段を見つける。


 ここから先は最深部の可能性もありモンスターも増えるだろうとベニグノに注意を促され、学生組はベニグノに従う。階段を降りつつ、仕掛け罠を解除したりしながらも降り切った先は、木々や草花が生い茂る今までの階層とは違う様相をしていた。壁を伝う蔦だったり這う根の元へと辿ってゆけば種にたどり着けるだろう。とのことだ。


「ダンジョンの種って、本当に魔力から生命を生み出せるものなのね。モンスターだけではなく」

「種ってのはそれ自体アーティファクトだからね。まあ古代の人間が作ったり、鉱石のように長い年月をかけて結晶化したり、人為的にも自然発生的にも作ることは可能なものなんよ」


 人為的に作るのならばかなりの魔力と技術がいるらしい。現代においては、種を作れる人間は少数らしく、裏ルートで流通すると大層高値で取引されるそうだ。


 内包されるアーティファクトを手に入れるために違法的に植える人間は中々取り締まれないらしく、人知れぬ森や山などの奥にはそう言ったダンジョンで金稼ぎのために使う人間も居るそうだ。裏ルートに内包されていたアーティファクトが回れば、それも高値で取引され懐が潤っている冒険者は割と居るとか。


「まあ実力ある冒険者はわざわざ植えるなんてせずとも堅実に退治依頼とかこなす人間が多いよ。半端モン逸れモンが手を染めることがほとんどだ」

「ふうん」


 蔦や木の根の元へと進んでゆく。接敵するの下級モンスターばかりで味気ない。私も種をどこからか手に入れて攻略してみようかしらん。なんて考えていると暗いはずのダンジョン内の奥から光が漏れ出しているのを確認出来た。


「あの光はなんなんですか?」

「あれが種だろう。蔦に覆われているが、強い魔力を感じないか」

「なんとなくだけど、分かる気がするわ」


 魔法に特化しているカミラには何か感じられるらしくそう呟く。徐々に近づいてゆくと蔦や草木に覆われている。中に輝くものは種なのか。


 ぬるり、と何かが生み落とされた。あれは、オークだ。武器は持っていないようではあったが、戦闘体制に移行する。


 カミラとエリンが魔法を放つとたたらを踏む。ベニグノとエルマが両脇から襲い掛かり傷を負わせる。私は懐に飛び込んで顎から頭へと串刺しにすれば血を多量に浴びる。剣を引き抜くとオークは力無く倒れ伏した。産まれたてでうろのように不動だったのもありあっさりと倒すことが出来た。


 剣の血を制服で拭う。汚れまみれだしもうこの制服とはお別れだろう。血をエルマに拭き取られながら、ベニグノが待っていな。と核に近づいて繁茂している草木を除去してゆく。エリンも手伝いながら草木を払えば、光り輝く、剣のようなものが浮いていた。


「第三階層までしか出来ていなかったから、外核の魔力が全部放出されていないと思っていたが、多分あのキマイラとかオークを生み出したからかな。ほとんど放出されて中身のアーティファクトが出て来たみたいだな」

「……綺麗な剣ね」


 光り輝く剣に目を奪われる。ベニグノがそれに手を伸ばして掴めば、光は徐々に失われていった。ただの剣になってしまったのかと思ったが、お嬢これ持ってみな。と剣を差し出され両手を伸ばして受け取った。


 暖かい。何故だか心惹かれる剣だ。鞘から引き抜いてみると、刀身が赤く煌めいた。


「お嬢なら扱えるんじゃないか? エリンちゃん、鑑定とか出来る?」

「あ、はい!」


 失礼しますね。と私に近づいたエリンは手を剣に添えると、ぽう、と手から光が溢れた。


「わあ、ランクだとSクラスの剣ですね。炎属性の剣です。Sランクなんて初めて見ました……」

「それって何か特殊な能力があるのかしら」

「使ってみないことには何とも言えないですけど、他属性に特攻能力とか、何かしら魔法攻撃などに影響があるかもしれないです」


 もしかしたら精霊の加護とかも得られたりする可能性もありますね。とのエリンの言葉に、剣を掲げて魔力を込めてみる。

 ぼう、と刀身に炎を纏い、その煌めきに目を奪われた。


「これ、わたくしがいただいてもいいかしら」

「学園とか騎士団に調査とかで貸し出す必要はあるかもしれないが、いいんじゃあないかな」


 僕も掛け合ってみるよ。とエルマの協力は得られそうだ。なんとなく、欲しいと思ってしまったのだ。理由は直感としか言いようがないのだが、私の元へと来てほしいと考えてしまった。一目惚れのようなものだ。


 刀身や鞘には細かな衣裳が施され美しい剣だ。父からもらった剣もいい剣だが、それに劣らない。むしろ勝っているのだろう。


 見惚れていたが、ベニグノの声に現実に戻る。


「これから核を失ったダンジョンは崩壊していく。モンスターももう出ては来ないだろうよ。外を目指そう」

「これで小さな冒険も終わりなのね」

「いい経験になっただろう。子供たちよ」


 冒険者になれない身分の私たちだ。確かにいい経験になった。王子に令嬢に商家、エリンはもしかすればなれる身分ではあるかも知れないが、それぞれ役割を担う人間だ。こんなことは、もうきっと無いだろう。


「帰ろうか。皆で叱られに」

「ええ、そうですわね」


 来た道を引き返してゆく。ベニグノの言った通りモンスターはもう出ては来なかった。なんの困難も無く第二階層まで戻り、途中向こうから火の煌めきが見えた。


「あれは……」

「多分俺たちを捜索に来た騎士団だろうよ。お縄につこうぜ〜」


 ベニグノの言う通り、やって来たのは騎士団だった。王太子殿下! とエルマに駆け寄った騎士のひとりは、確かエルマの普段の護衛を務めている騎士だ。心配いたしたんですよ! とエルマに強い語調で迫るが、エルマは普段通りの穏やかな対応でのらりくらりと躱している。


 こうして初めてのダンジョン攻略は終わりを告げるのだった。入り口まで向かえば、外はもう夜だった。聴取をされて解放されたのは夜更けで、スズキを厩舎で回収してベニグノに任せ、屋敷からの送られてきた馬車に乗り込む。


 手に入れた剣は今は手元にはなかったが、騎士団の調査を終えれば返してくれるそうだ。家に着けば、待っていたのは父の説教。そうして解放され部屋に戻ればサバタの冷たい目。いつ見ても肝が冷える。


「しばらくは謹慎するよう旦那様に言われております。よろしいですね? お嬢様」

「ひゃい……」


 怖い。冷たい目を向けられ、血に塗れた制服を見たサバタは更に冷え込んだ目を向けてきた。


 風呂に突っ込まれ丸洗いされた後は、自室で冒険を思い出しながら眠りについた。

 ……しばらくサバタからの冷ややかな目に晒されるのを考え、気が重くなるのだった。

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