第15話 ダンジョン探検は青春よ

「お嬢、あんた本当規格外だよねえ〜」

「まあ、そこまででは無いわよ」


 二日後、学園の抜け口から侵入させたベニグノと共に厩舎近くで落ち合った。放課後であり厩舎には厩務員の姿はあったが気にする様子もなく。


 ダンジョン攻略は夜に決行することになっている。両親に探されることは想定内だ。ダンジョンは規模的に一日で攻略出来るか怪しいとエルマから事前に聞いている。数日行方不明になろうとお叱りは受けるつもりだ。


 ベニグノは屋敷の警備兵ではあるが、以前サバタが溢したことがある。ベニグノも母と共に来た人間だと。だからこそ屋敷で日々暇人のような生活をしていようが許されているのだ。ベニグノも父からすれば特別な人間には違いないと当たりをつけている。処分は無いだろう。私が無理矢理に脅して頼んだのだとでも言えば罰も受けはしないと思われた。


「でえ? 子供四人で探検ごっこするにしちゃ結構な量持って来させられたけれど、お嬢は本当に剣だけでいいのかい?」

「身軽な方が動きやすいもの。竹刀預かっておいて」

「ほいほい」


 ベニグノは大きめのバックパックに大荷物だ。剣を差し出され竹刀と交換する。帯刀ベルトに装備して学園裏に向かう。もう三人は集まっているだろう。ベニグノと共に歩みを進める。


 学園裏の警備の騎士からの死角に三人は集っていた。各々動きやすい服装をしているが、私はスケバンスタイルである。これが一番落ち着くようになってしまっているので。


「ちょっと、あなた制服で行くつもりなの?」

「ええ、何か」

「何か、じゃあないわよ! 舐めてるのダンジョン探索」

「そちらの方が数日前に言っていた?」

「皇太子殿下、お初にお目にかかります。ローズレッド嬢の従者、ベニグノと申します……。ま、気軽に呼んで頂戴よ」


 いつもの昼行灯はどこぞへ行ったのか。うやうやしくエルマに話しかけたと思ったが、次の瞬間にはもう普段のベニグノに戻っていた。


「騎士が居ないルートは見つけてあるよ。途中出会っても無視してくれるよう金は渡してあるから」

「いやあ〜、皇太子殿下も人が悪いねえ。婚約者のお嬢には甘いし、口封じまでしちゃうんだから」

「はは、僕もダンジョン、行ってみたかったのさ」

「遠足気分で居られちゃあ困るんだがねえ。まあ、いいご経験になるだろうよ。行こうか」


 五人で警備の騎士の死角の獣道へと入り込み草木を掻き分けてゆく。先頭を歩くエルマとベニグノに続き、エリンとカミラ、しんがりは私だ。


 獣道外から時たま騎士の声らしきものが遠くから聞こえてきたが、結局遭遇することは無く、目的地にたどり着く。と言っても一時間はかかっただろう。森の奥深い密林状態の場所にそこはあった。


 森の中に似つかない、遺跡とでも言ったほうがよさそうな石造りの入り口らしき建造物。遠くに侵入防止用らしきロープが張られているのが見える。これからこのダンジョンに入れるのかと思うとわくわくと心が踊った。


「はい、子供たちよ。留意点をお聞きよ」


 ベニグノがぱん、と手を張って注意を引く。学生四人でベニグノを見れば、両手を顔の近くに上げ注目するように、と言うことだろうか。


「ダンジョン内には自然発生したモンスターがうようよ居る。先頭は俺が務めるから注意したのならばすぐに戦闘体制に入るように。あと各々自分の得意な戦術を教えてくれ。形態を組むために情報が欲しい」

「僕は剣術が得意だ。アリシアもだろうが、共に前衛を務められると思う」


 エリンは剣術と魔法特化、カミラは魔法特化だと聞くと、前衛は私とエルマとベニグノ、後衛はエリンとカミラが務めることとなった。ベニグノは各々持っておくように、と回復薬などを配り、そろそろ潜るぞ。と告げる。ここから冒険が始まるのだ。


「聞きたいことがあったのなら色々聞いてな。一応冒険者やってたことはあったからよ」

「へえ、興味深いな。ベニグノはどこを旅していたんだ?」

「それは中でお話しましょ。んじゃ行こう」


 ダンジョン内部に足を踏み入れるとひんやりとした空気が漂ってくる。外の陽の光がないのだし当たり前だろうが、神経を研ぎ澄ませようと少々緊張状態になる。ベニグノが松明を掲げながら、エルマにダンジョン内の情報はあるかと聞く。


「出来たてだから、確か時期を考えても第三階層程度じゃないかと予想されている」

「ふうん。んじゃあ、種が仕掛けられたなら精々お嬢が入学する直前辺りかな。ダンジョンの仕組み知ってるかい」

「種は地面に植えるとどんどん地下に潜ってゆくのですのよね。それって何故なのかしら」

「核が入り口にあったら意味ないからねえ。種ってのは魔力の塊なんだよ。見た目はオーブみたいなもんだ。ただ、中にアーティファクトが内包されている。それ目当てに種を植えたんだろうな」

「アーティファクトって?」


 エリンの言葉にベニグノはああ、知らないのか。と呟くと続きを答える。


「強い加護を持った武器だったり装備品だったりアイテムだったり……まあ様々だよ。ダンジョンを作ることで外核を守る魔力の塊を放出させて、外核の魔力を空にして破って中身を潜って手に入れる。普通禁止行為に当たることなんだよねえ。昔はダンジョン増産させてそれで儲けてたやつもいるんだけど、今は禁止」

「へえ〜、知らなかったです」

「まあ冒険者でも知らないで潜るやつは居んのよ。自然発生も勿論あるんだけれどね。魔力が満ちることでモンスターと言う生命すら発生させる。恐ろしいこった」


 もしかしたら、人間もダンジョンで生まれた存在だったりしてね。とベニグノが冗談混じりな声色で告げる。……あながち嘘とも言い切れなさそうな話だ。魔力から命が生まれるのならば、人間だって、と言う考えもあり得なくはない。


 しばらく石造りの道を降って行くと広い広場に出た。入り口が数個存在し、エルマが言うには事前調査では第二階層の途中までは調査済みらしい。そこまではモンスターとのエンカウントも少ないのでは、とのことだ。


「この入り口どこが正しい?」

「右から三番目が正解らしい」

「ほいじゃあ行こう」


 当たりの入り口に入って石造りの道を進む。たまに罠らしき残骸もあったが、血が多量に地面に広がっているのを見るに引っかかった騎士が居たらしい。解除済みですいすいと進んでゆく。攻略済み範囲ではあまり暴れられないらしいと分かり、つまらないですわね〜とぶすくれた。


「お嬢、あんた本当暴れるの好きよね〜」

「暴れるのなんて学生時代くらいしかないじゃない」

「……いっそ冒険者にでもなっちまえば? あんな家逃げてさ。俺も付き合ってやろうか?」

「……本当に嫌気が指したらお願いしようかしらね」

「僕のこと捨てるつもりかい?」

「冗談ですわよ」

「あまり冗談に思えないのがあんたの怖いところよ」


 突然、ぐるる、と獣らしき声が反響して聞こえてきた。前方に何かが居るらしい。陣形を整え、接敵に備える。

 松明の光に照らされて出てきたモンスターは、獣の顔に山羊の頭。蛇の尻尾を持ったキマイラだった。

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