第14話 バーサーカーだって青春したいじゃない

「わたくしとダンジョンに潜りませんか?」

「は?」


 そりゃあ、は? ってなるわな。

 概要を説明する。ダンジョンに潜ってみたいから一緒に行ってほしい。と。


「ま、待ちなさいよ! ダンジョンに入る!? あなた公爵令嬢でしょう!? どれだけ危険か……」

「今だけしか出来ないのですよ。最後のチャンスと言ってもいい」

「そ、そんな危険犯すのは」

「あら、負けたのにお話聞いてくださらないの?」


 悲しいわ……、と目を潤ませると、う、と決まりが悪そうな顔でカミラは口をつぐんだ。


「先程のタイマン。カミラさんは魔法お得意そうですし、戦力になると思ったのですが」

「私冒険者なんかじゃないのよ。素人の学生よ!? そんな危ないことは」

「弱者に断る権利があるとでも?」

「……え?」


 顔に美しいだろう笑みを貼り付ける。


「わたくし、青春に憧れを抱いていますの。ワルになって、色々な体験をして……。ダンジョンに潜りたいのもその一部」

「はあ」

「弱者には強者に従うしか無いのです。だって弱いから」

「はあ!?」


 わざと気に障るだろう言葉を吐く。


「声を上げようとも強くなければその道理は通らない。強さとは美しさ、自分を彩るアクセサリー。武力だけではなくとも力ある者はそれだけ発言や行動に目を惹かれる。それがあなたには全くない。どう? 美しくなってみたくない? わたくしと共に」

「……あんた本当イカれてる」

「褒め言葉として受け取りましょう。で、いかがいたします?」

「……乗ってやろうじゃない」


 二度もタイマンを吹っかけてきたカミラだ。血の気が多いのは分かっていた。ある意味彼女も同類と言っていいだろう。


「それじゃあ着替えていらっしゃいな。エルマ様のところに案内してくださる?」

「はいはい……待っていて……」


 力無く立ち上がると木刀を拾って着替えに向かったらしい。これでカミラは取り込めた。とすればエルマもどうにかなるか。その他にももうひとりくらい欲しいな。と思っていると遠くから、エリンの声が聞こえてきた。


「アリシアさーん」

「あら……、ふふ」


 良さそうなのが居るじゃない。とほくそ笑む。エリンは実技の成績も悪くはない。魔法も初歩を習っているところではあるが筋もいい。引率にあいつを呼ぶか。と算段を立てる。


「アリシアさん、またタイマン? ってやつしたって噂が流れてきたんですよ。大丈夫ですか?」

「ええ、怪我もありませんよ」


 駆け寄ってきたエリンに穏やかな笑みを向ける。よかったー。と心配してくれていたらしいエリンに話を持ちかける。


「エリンさんって、ある程度体技や魔法など得意な方ですわよね」

「え? ええ、その、手前味噌ですけど」

「わたくしのお願い聞いてくださらないかしら」

「なんですか?」

「一緒にダンジョンに潜りませんか?」

「へえ?」


 間抜けな声を上げたエリン。目を見開いて驚きの顔をしている。


「その、学園裏のダンジョンにですか?」

「ええ」

「生徒は入るべきじゃないと言われていますし、そのう……」

「罰則があると言われていますしねえ。無理にとは言いませんが、いかが? 深部まで潜って種さえ回収すればダンジョンは自然崩壊しますし、ある意味手柄でとんとんだと思うのですけれども」

「えー、あー」


 行きたくねえ〜。と顔に書いてある。まあそれはそう。命の危機もあり得るのだし。


「行く気満々なんですよね……アリシアさん」

「ええ! だってわたくし自由なのはこの学園に居る間のみですもの。冒険しなくては青春ではなくってよ」

「……い、行きます」

「よろしいの?」

「その、力になれるかは分かりませんけれども、私でよければ」


 これで二人は揃った。少々お待ちになってね。とカミラを待ってから合流して寮へと案内してもらう。カミラとエリンは自己紹介しながら歩き、エルマの部屋へと通され四人で話し合いになる。


「アリシア、どうかしたのかい」

「ああ、エルマ様。単刀直入に言います。ダンジョン潜りません?」

「……君なら言いそうだなとは思っていたよ」


 予想はしていたらしい。呆れた表情で止めても行くんだろうし、僕も行くよ。と二つ返事で了承してくれた。案外あっさりだったなと少々驚く。……単細胞脳筋と思われていると言うことなのだろうか。まあ話が早くて助かるな。と警備の騎士団への命令やダンジョンまでの道筋の相談など話し始める。


「騎士団の警備は金でも握らせれば見逃してくれるだろう。ダンジョンの入り口までの案内も頼めるはずだ。しかし、ここにエリンとカミラがいると言うことは君、彼女たちとも共に?」

「ええ、二人とも了承してくださいました」

「了承って言うか、ひとりでも行きそうで、だったら自分もと……」

「私は負けたから嫌々よ」

「君は色んな人々を巻き込むねえ」

「ふふふ……」

「しかし、素人四人で出来たてだとしてもダンジョンに潜るのは危険があるよ」


 でしたら、ご心配なく。とエルマに告げる。


「腕が立ってある程度事情を守秘してくれるアテがありますから」

「例の執事長かい?」

「いいえ。まあ当日連れてきますので、二日後、決行致しましょう。装備、薬はこちらで手配します」


 一体誰だい? とのエルマの問いに私は笑みだけを返した。話を終えて部屋から出ると、カミラは部屋に戻るから、とそこで別れる。エリンと二人で寮を出てからは厩舎に向かってスズキと共に二人乗りでエリンは悲鳴を上げながら爆走して帰るのだった。

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