第13話 利用するならとことんね
「エリンさん、おはようございますわ」
「あ、アリシアさん!」
登校日になり通学中だったらしきエリンを見つけた。馬上から降りてエリンと並ぶ。馬を引きながらエリンに合わせて歩みを進めた。
「あの後は大丈夫だったかしら」
「はい。両親に話したら大層心配されましたけど、えへへ、アリシアさんが助けてくれたから」
「ふふ、いいのよ。もう大丈夫そうで安心しましたわ。怯えていたらどうしようかと思っていたから」
「夜まではちょっと怖かったんですけれど、夢で、アリシアさんが元気付けてくれて」
「あら、夢にお邪魔してしまってごめんなさいね」
「いえいえ! なんだか幸せな夢だったんですよ」
一緒に馬に乗って、お菓子を食べ歩いて! とエリンが夢の内容を話す。所々忘れてはいるらしいが、ずっと私が元気付けていたそうだ。だから怖さはどこかにいったのだと、エリンは笑って礼を言った。
「わたくしは礼を言われるようなことは」
「そんなことありません!」
だって私、アリシアさんが王子様に見えましたもん! と拳を作りながら熱く語るエリンに微笑む。
「王子様だなんて。でも、嬉しいですわ。勇気付けられたようで」
「はい! あ、馬を厩舎に預けてくるんですよね。待っていましょうか」
「いいえ、先に行っていてくださいな。教室でまた会いましょう」
「はい。それじゃあお先に!」
「ええ、気をつけてね」
校門でエリンとは別れ、厩舎に向かう。厩務員に預けて校舎に向かい、教室へと歩んでゆく。今更だが、以前カミラとのタイマンのこともあって私に怯えた目を向ける生徒もいた。が、それとは別に私に賭けて稼いでいた生徒からは軽い挨拶が帰ってきたりする。
あまりアウトローになりすぎるのもどうかとは思うが、気骨のある人間が再びタイマンを仕掛けてきやしないかと多少の期待はあった。
「おはようございます」
教室に入り近くに居た生徒に声をかけると、弱々しいおはようが返ってきた。やはり色々噂は流れているらしい。
「エリンさん、カナンさん、おはよう」
「あ! アリシアさん、エリンさんに聞いたのですけれど、休日大丈夫だったのですか?」
「ええ、問題無かったわよ」
「強くても心配になりますよ。あまりご無理なさらないでね」
「無理など、ほほほ」
無理なんてエンリケに挑んでいる時点でしない方が無理だ。が、それは言わずに話を聞く。
「ご令嬢なんですから、もう少し落ち着いてもよろしいのでは……」
「あら嫌だ。そんな刺激のない生活なんて息もおゲロも詰まってしまいますよ」
「ゲロ……息が詰まるくらいが普通なのでは……」
カナンに少々落ち着けと言われるが、エリンの言う通り令嬢ならば少々自由が無いくらいが普通なのだろう。しかしながら自身にそれが耐え切れるかと問われると無理と断言する。
元より前世では一般家庭の出だったのだ。確かに今世の決まり事に従うのが正しいことだとは理解すれど、そんな生活を続けていたのならばゲームのアリシアのようにエリンに嫌がらせをする嫌味な悪役令嬢になっていただろう。
正味なところ、悪役令嬢になるのならば嫌味ではなく武力で変な方向に突っ走っていた方がマシだ。
「まあわたくしの特性ですし、傾奇者とそしられるくらいで丁度いいですわよ」
「えらくかぶいてますけど、いいのかな。カナンさん、止めた方がいいかな」
「う、ううん、私としては、お止めしたほうがいいとは思いますが、意志を無視してまで、と言うのも」
「まあ散々父になじられていますから、外でくらいぱあっとやりたいのですわ」
「いいのかなあ〜……」
不安げなエリンだったが、予鈴が鳴って席に着く。隣の席なので視線は来ていたが特に返すこともしない。
ショメルが教室に入ってくると、知らせがある。と言葉を続ける。
「裏の森にダンジョンが出来ていた。騎士団に対応してもらっているので生徒諸君は興味本位でも立ち入らぬように。入ったら罰則受けてもらうからな」
「ダンジョン? なんでそんなのが王都に出来るんですか」
生徒の言葉にショメルが返事をする。
「どこかの馬鹿が種を仕掛けたらしい。生徒の可能性もあるが規模的に一年の犯行ではなさそうだから一年は聞き取りは不問にするけれど、絶対森には入るなよ。いいな」
はーい。と教室内から声が上がる。
この学園は王都にあるが、割と自然深い端の方に位置する。魔法訓練などをする際に外に被害が及ばぬようにだとか、脅威になり得ない小さな魔物だったりを捕まえて実験台にしたりと色々そう言った面で端に建てられたそうだ。
ダンジョンは普通自然発生はそう多いものではないのだ。ダンジョンを発生させるある魔道具があるのだが、それを使った可能性が高いのだろう。規模的にと言っていたから自然発生にしても種を仕掛けたにしても一年生が入学して間も無く仕掛けた可能性は低いのだろう。
ダンジョン、入ってみたいな。と密かに入ることが出来ないかと考える。騎士団が見張っているのだとすれば隙は無いにも等しい。私の権限を使える可能性は無くはなかったが、父に直行で報告がゆくだろう。
ちぇ、興味あるのになあ。と頬杖をつく。この機会を逃せば貴族の自分にダンジョンなんてものを体験出来る機会は一生あり得ないだろうに。
……皇太子妃候補権限、つまりエルマに頼む。を使おうかと考えた。エルマは結構茶目っ気があるので乗ってくれやしないだろうか。
ホームルームを終えて一限の準備をし、一限を受けながらエルマにどう取り入ろうかと考える。
自分の欲望に忠実すぎるきらいがあるが、どうせこの先自由などないに等しい。ちょっとした冒険心を満たすくらい許してくれないだろうか。昼か放課後に話を持ちかけてみようと決める。
昼食後エルマを探すが友人と雑談中らしく、放課後に回すが今度は寮に既に帰ったのでは? とクラスメイトに教えられた。寮に向かうかどうかと考えていると後ろから声をかけられた。
「アリシア嬢」
「……? あなた、確か」
「カミラよ」
以前のタイマンで泣き喚いていた手前気まずいのか、言い淀むような仕草を見せたが一騎討ちしなさい! と再びタイマンを仕掛けてきた。諦めが悪過ぎるな。
「よろしいですが、わたくしにタイマンで勝てる道理は無いかと」
「お高くとまってるのね。そんなの分からないわ!」
自分の実力が分かっていないらしい。筋は良くともまだ伸びきっていない。一度稽古でも付けてみれば化ける可能性はあるが。
そこで閃いた。カミラを利用しようと。
「校庭へ向かいましょう。わたくしが勝ったのならば聞いていただきたいことがございます」
「いいわ。あなたはその姿で来るのよね。待っていなさいよ! 絶対よ!」
そう言うとカミラは着替えに向かったらしく廊下を走って遠ざかって行った。しめしめと私はほくそ笑む。
校庭へ向かい竹刀を抜いて待っていればカミラの姿を確認した。こちらへ来れば野次馬も集まってきた。また野次馬内で賭けが始まる。
「今回は負けないから!」
「はいはい。皆さま〜! 賭けは終わりまして? 始まりますわよ〜!」
「ローズレッド嬢ちょっと待って〜! まだ賭けるやついる!?」
「俺カミラに!」
「ローズレッド!」
「なんであなたが賭け事の指示出してんの!? 馬鹿なの!?」
「少々茶目っ気と申しますか」
怒り心頭らしいカミラに微笑むと余計に顔が歪む。かわいい顔なのに台無しだな。
賭けが粗方終わったら二人で竹刀と木刀を構えて向かい合う。
カミラが先に動いて手元に光が集まる。魔法を使うことを厭わない辺り剣技で勝てないことは学んだらしい。光弾を避けながら近づいて手首を狙う。今回は防具をつけているが、竹刀は防具の上から受けても赤くあざが出来るほどの威力はある。振り下ろした竹刀を下段から上段に切り上げる。顎に当たって脳震盪でも起こしたのかたたらを踏むカミラ。
頭上から叩き下ろせば簡単に沈んだ。
「はあ、呆気ない」
もう終わりかよ〜と賭け金の分配を始めた野次馬たち。徐々に散ってゆき、未だ地面で昏倒しているカミラの頬を張った。
「起きてくださいまし」
「ぶえ」
汚い声を出しながらも目を開けたカミラは呆然と空を見上げていた。私に気がつくと上体を上げて苦々しい顔をした。
「あなた何者なのよ。どうしてそんなに強いの」
「元傭兵に毎日と言っていいほど挑んでいますから」
「……聞いてほしいことって?」
約束は守ってくれるらしい。カミラに微笑みを向けて、要件を簡潔に告げた。
「わたくしとダンジョンに潜りませんか?」
「は?」
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