【連載版】悪役令嬢に転生したって言うのなら、とことんワルになろうじゃない!バイクが無いなら馬に乗り、嫌味を言うならタイマンで。バーサーカーお嬢様がお通りですわよ〜!
第12話 ヒロインが輝くのはヴィランがいるから
第12話 ヒロインが輝くのはヴィランがいるから
「エリンさん……」
「アリシアさん、そのっ、あり、ありがとう……うう……」
「だ、大丈夫だったの!?」
まさかエリンだとは思わずに助けに入ったのだが、エリンは確か髪を掴まれて振り回されていた。髪もぐしゃぐしゃで、顔も涙で濡れている。ああ、こんなになって。とハンカチを渡して髪を手櫛で整える。
ぐずぐずと泣いている。今は話を聞ける状態では無いだろう。残っていた騎士二人は、片方は空いているあそこのベンチへ、と誘導していたが、もうひとりはどこかおどおどとしている。そうしてそんなおどおど騎士に見覚えがあった。燃えるような赤い髪に赤い瞳、整った顔立ちだが少々目つきが悪い。騎士の制服に身を包んでいる。
そうだ、確か街で騎士見習いの攻略対象と出会うイベントがあったのだった。その時は颯爽と助けに入っていたが、私が出張ったことでイベントが潰れたらしい。やっちまった。と思ったが今はそれどころではない。
エリンともうひとりの女の子とベンチへと向かう。
「う、う」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「ご、ごめんね。私、ミレイラのこと、守りたかったのにっ」
「お姉ちゃんは格好よかったよ! もう大丈夫だから」
「ご、ごめ」
「落ち着いて、エリンさん」
エリンの隣に座り込み、背に手を当てる。さすりながら落ち着くよう言葉を選ぶ。
「もう大丈夫ですわ。わたくしが居ますから、ね?」
「は、はい……」
ぐずぐずとしばらく泣いてはいたが、徐々に落ち着いて来たのか改めてありがとうございます。とエリンから言われる。それに笑顔で返し、騎士たちも大丈夫だろうと判断したのか、事情聴取が始まった。
きっかけは彼女の妹、ミレイラに男がナンパしていたことから始まったらしい。屋台で食べ物を買って戻ってくると声をかけられており、断りを入れたが向こうが引かなかったためにああなってしまったそうだ。
それでも妹を守ろうとしたのだろう。断り続けてはいたがどんどん向こうがヒートアップしてしまい、髪を掴まれ振り回されてしまったそうだ。
ミレイラの見目はエリンによく似てはいるが中々に美しいかんばせをしている。ナンパ男が声をかけたのも納得したが、それでも断りを入れたのに引き際を弁えなかった男たちを腹立たしく思った。
「ミレイラさんを守ろうとしたのね。エリンさんは勇気があるわ。もうこんなことは起こらないから」
「あの、お姉ちゃんを助けていただいてありがとうございます。あなたは……」
「学友のアリシアと申しますわ」
「あなたがアリシアさん! お姉ちゃんから話は聞いています。とても強い方だって」
「あら、そう、ふふ、照れてしまうわ」
笑みを作ってミレイラに返すと、ミレイラは顔を赤くした。
騎士が口を開く。
「大体の経緯は分かりました。あなた方には非は無いようですし、今回の件はあちらに罰則を与えますのでご安心ください」
「はい……ありがとうございます」
「すぐに助けに入れず申し訳ありません。普段なら警備の騎士が居るのですが」
「何故居なかったのですか?」
「丁度交代の時間だったので、その最中に起こってしまったようです。今後はこのようなことは無いよう努めます」
申し訳ない。と騎士と攻略対象の騎士見習いが頭を下げる。エリンが頭を上げてください! と焦っているが、騎士は顔を上げると何とも形容し難い複雑な表情をしていた。それなりに責任は感じているらしく、騎士見習いの方もおどおどはどこかに行ったようだが申し訳なさげだ。
「警備の交代が遅れた訳、自分にあるんです」
騎士見習いがそう口を開く。なんでも駐屯所で倒れた騎士が居たらしく、その救護を行っていたそうだ。それで遅れたのならば文句は言えないだろう。人命がかかっていたのだから。
「気に病む必要はございませんよ。無事に助けることは叶いましたから」
「ほんっとう、申し訳ないです。市民の方に危ない目に遭わせてしまい」
「も、もう大丈夫ですよ。私も妹も無事ですから」
自分はそろそろ連行された男の元へ戻るから。と騎士見習いを残して騎士は去っていった。騎士見習いは本来の仕事の警備に移るらしく、それじゃあ。お気をつけて。と離れていった。
ベンチに残されたエリンとミレイラ、サバタとベニグノはしばらく無言になる。
「……ま、サバタさん。女の子を元気づけるためには甘いものじゃあないかな」
「そうですね。お二方、お嬢様と共に甘いものでもいかがです」
「え」
「食べたいです! 甘いもの! ね! お姉ちゃん!」
「一緒に食べましょうよ。いいでしょう? エリンさん」
「私、その」
エリンの腕を引いて立ち上がらせる。右側で腕を組むと左側ではミレイラが腕を組んでいる。ミレイラなりに姉を元気付けようと私に乗ってくれているのだろう。
氷菓の屋台に向かい、サバタに頼んで買ってもらう。三人とベニグノで食べる。冷たさと甘さが口いっぱいに広がって、少々ミントも入っているのか爽やかなバニラアイスだ。
「お姉ちゃん美味しいね!」
「うん」
少しずつ元気を取り戻し始めたエリンにほっと胸を撫で下ろした。トラウマになっていなければいいのだが。
しばらく五人で食べ歩きをしてから、エリンとミレイラと別れる。次会う時は学校で。とエリンに微笑むと、照れ臭そうな笑顔ではい! と元気よく返事をしてくれた。
離れてゆく二人の背を見送って、ベニグノに話しかける。
「あの男ども、仕返しなんて考えていないかしら」
「さあねえ〜、執着している感じはしたからあり得るけど」
「灸を添えてやりたいわねえ」
「アンタも悪いねえ。お嬢」
闇討ちでもするかい? と軽く告げたベニグノに美しいだろう笑みを返した。
そのうち騎士の駐屯所から解放されるだろう二人に手を下すならば、もう少しこの街中に居るべきだろう。
騎士の駐屯所に向かって路地裏で私たち三人は時を待った。夕暮れ時、追い払われるように出てきた二人にベニグノが声をかけて無理矢理路地裏へと連行してきた。
ナンパ男の二人は私に気がつくと、ひ、と声を上げた。
「あらあらまあまあ、可愛らしい羽虫だこと」
「な、何の用だよ! もうしねえよあんなこと」
「は、どの口が言うのかしら。あなた方のような軟派な人々、わたくし大嫌い」
片方の男の胸ぐらを掴んで路地の奥へとぶん投げる。もう片方の男もベニグノが投げて路地の奥へと悲鳴を上げながら倒れ込んだ。
竹刀を抜きながら、それを座り込んで見ている二人の顔色は悪くなってゆく。
「次下手な真似をすれば命はないと思いなさいな。今は少しだけ痛めつけるくらいで勘弁してあげますよ」
「もうしない! もうしないから!」
「本当だ! すま、すまねえよ!」
言葉を聞く必要など無い。と私は男たちに竹刀を浴びせかける。派手な音を立てて男二人は沈んだ。片方の男の頭に足を掛け、蹴り飛ばせば力なく飛んでいった。
「弱い人って、負け方も選べないのよね」
「お嬢は怖いな〜。悪役っぽい」
「は、悪役、ねえ」
元々アリシアは悪役令嬢なのだ。今更何と言われようがどうでも良かった。ワルになるならとことんワルに。秘密くらいあった方が女は輝くものよ? そうベニグノに言えば、だから奥様もお綺麗なんだよ。と返ってきた。
私のルーツの件だろう。思い出して少々苦虫を噛んだ。
が、この一件には関係無いと路地を三人で出ながら帰路に着く。
「わたくしヴィランに憧れがあるのよね」
「へえ、なんでまた」
「だって主人公が輝くのはヴィランが居るからだもの。だからわたくしはワルになりたいのです」
「ふうん。自分が主人公じゃあなくても良いって、結構卑屈だねえ」
「そうかしら。日々昼行灯のベニグノよりはましじゃあないかしらね」
「言うねえ〜」
「軽口は外でだけにしなさいよ。ベニグノ」
「はいはい、サバタさん」
家に帰り着いて、夕食後体を清めて自室に帰る。サバタが香を焚いていたらしく香しい匂いが部屋に漂っている。
「サバタ、そろそろ休むわ。下がっても良いわよ」
「ええ、かしこまりました」
「それと」
「はい」
「……最後にちょっと腕相撲して」
「……あなたも成長しませんねえ……」
なんて呆れられながら結局腕相撲には負けるのだった。ベッドに入りながら筋トレもっと頑張ろう。と今後の目標を立てた。
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