SideB テンプレ嫌いの組織ども02
おかしいな……ただ人助けをしていたはずがどうしてこうなった……んだ?
「十字さん、何か言い訳はありますか? このままではあなたを
立ち尽くす俺を可憐な立ち振る舞いのまま睨んでくる見た目も可憐な存在。でも中身は
「し、志亜さん! これには深い
「いや、そんな深くねぇだろ……ただはしゃいでて落っこちそうになったのを受け止めてやっただけだぞ俺は」
俺の腕の中でぐすんぐすんと泣く正真正銘の幼女、
「志亜……十字はお前が準備している間にふざけて階段から落ちそうになった絵芽を受け止めただけだ。だからそう当たり前のように人の命を手にかけようとするな」
え? この人、
「そ、そうです。むしろ十字さんは絵芽がふざけて階段で遊んでたのを注意だってしてくれましたし。まあそれでさらに調子になった絵芽が足を滑らせたわけですが」
「へぇ……」
有栖さんマジで援護誤射撃やめて下さい。管理人さんもなんか腕の周りに不思議な紋章浮かんでるけど消して!消して!
「しあぁ……大丈夫。絵芽は大丈夫だから怒らないで」
お、ようやく救いの幼女様が口を開いてくれた。それと同時に不穏な紋章は消える。やはり頼れるのは聖女でなく幼女だったか。
そっと膝をつき、絵芽をおろしてやるとそのまま管理人さんの方に行き足元に抱き着く。それを見た管理人さんの表情が瞬時に穏やかなものに変わる。効果は抜群だな!
「そう……絵芽がそういうならもう怒ってないよ。ほら、摩子さんに今日は図書館に連れてってもらうんでしょ。お礼言わなきゃだめだよ」
「はっ!? そうだ、図書館! まこ! 早く行こう!」
先ほどまでの泣き顔は秒で消え、今度は印野さんの足元まで行き彼女のズボンを引っ張り始めている。切り替え早いなー。
「ひゃ! や、やめて……絵芽」
「こら絵芽。そうじゃないでしょ。まったく、本当に元気というかやんちゃというか……」
はは、なんとも微笑ましい光景だ。うん、これはもう俺自然にフェードアウトしてもいいよな。図書館には用なんてないし、むしろお布団に重要な用事があるし。
「ははは、誤解も解けたようだし。それじゃあみんな気を付けて行ってくるといい」
「ああ、そういえばこの後十字さんは有栖と何か約束があるんでしたね」
「ああその件なんですが、管理人さん?」
「はい、なんでしょう?」
「有栖はこの後何の用事も約束も一切ないのでせっかくなので連れて行ってやって下さい。寂しくて拗ねてたので」
「ちょ、十字さん! 私拗ねてなんかないですよ!」
首を傾げる志亜さんは状況を把握しきれていないようだが、まあとりあえずこの場は有栖を引き取ってさえくれればそれでいい。
「あれ? ありすとじゅうじはいかないの?」
「俺はいけないけど有栖は連れて行っていいぞ~」
「なんでそんなに嬉しそうに私を差し出すんです?」
有栖は不貞腐れているがまあまんざら嫌ってわけではなさそうだ。そもそも同じ部屋に住んでるくらいだ。仲はいいんだろうし、たまには一緒に出掛けてこればいい。というかいつも同居人を放っておいて俺の部屋に来てるしな!
「んー、じゅうじもこないとありすがかわいそう……まもってあげないと」
「ん? 守る?」
今度は俺が状況を読めず首を傾げる。だが志亜さんはどこか不安そうな表情の絵芽を見て口元に手を当てて何かを考え始める。そして……。
「摩子さん? 摩子さんの車は5人乗れましたよね?」
「え? あ、ああ……少し狭いかもだが絵芽が後ろに座れば5人は乗れるぞ」
「それなら……十字さん? あなたも来ませんか?」
「へ?」
「私は絵芽の面倒を見てますから、あなたは"そちら"の面倒を見てもらえますか?」
有栖のことかと思ったが、その視線はまっすぐに俺に向けられている。うーん、よくわからないがなんか面倒ごとを押し付けられていると俺の怠惰センサーが告げている。
「ええっと、なんのことかよくわからな……うおっ!?」
突如俺の腕に自身の腕を絡ませてくる有栖。わかるぞ……それは親しき異性にやるやつじゃなく「絶対に逃がさない」という時にやるやつだと……。
「すみません摩子さん。私"たち"も乗せていってもらえますか?」
「ああ、かまわないぞ」
「いや、俺のことは構わず……うぐっ!」
横腹に走る鈍い痛み。どうやら聖女様は絡めた腕で肘打ちをされたご様子。どうやら有栖も何か嫌な予感を感じたのだろうが……その他者を道連れにしようとする邪な笑みは浮かべてもいいのかよ……聖職者なのに。
「よし! これでぱーてぃはそろった! いざ本がいっぱいな場所へ!」
「図書館ね」
パーティというか寄せ集め。んでそろったというか連行。はぁ……今日は起きてから何度こう思ったことか……ほんとどうしてこうなった。
俺は有栖にぐいぐいと引っ張られるまま行きたくもない図書館に行く羽目になった。ほんとこういう時だけこいつ力くそ強いな……。
* * * * * *
車で十分といったところか。まあ近くにあるのは知ってたが行く機会……いや、行く気がなかったから来たことなかったな、この図書館。
ネットやニュースなんかで見たことはあるが、赤レンガ造りで中々に綺麗だ。そこまで規模としてはでかくない結構年季の入った図書館のはずだが、まあ今でも地元の人に愛されてるといった感じだな。
「期待はしていなかったが、ちょっとわくわくするな。最悪興味ある本がなくても静かだし寝るにはもってこいだしな」
「十字さん……その静かな場所でいびきなんかかかないで下さいよ」
「ふむ……なんだかんだ私も来るのは初めてだな。ふふ、楽しみだ」
我ながら不謹慎な感想を述べてるなと思ったが、印野さんは純粋に期待していたようで、その顔は明るい。
「絵芽が飽きるであろう時間は二時間ほどといったところか。その間に図書館のカードの作成。その後一度に借りれる上限の五冊の本の選択。そこからは時間の許す限り……ふふ、何冊読めるかな」
図書館のガチ勢がいる……。
「いくぞしあー! 心躍る冒険の本が絵芽を待ってる!」
さしずめあれはタイムアタック勢か。全力疾走で図書館に入っていく奴もそうそういないはずだ。それ見ろ、ドア近くに立ってる警備員のおじさんが目を丸くしてるぞ。
「あ、こら! 走っちゃダメ! 絵芽!」
すでに図書館のゲートをくぐり館内に入っていく幼女を追い小走りで入っていく管理人さん。とりあえず来る前に自分から絵芽の面倒は見るって言ってたから任せるが……あっち担当じゃなくてよかった。
「む……あれは……」
「どうしました摩子さん? 突然立ち止まって。何か……あれ?」
印野さんと有栖が足を止め、図書館の入口、いや、そこから出てきた男性を見ている。あれって……
「む? 有栖? それに……どうしてこんなところにいる?」
「それはこっちの台詞だ。忌々しい……」
テンション最高潮からの急降下を表情と漂う空気で露にする印野さん。とりあえず、舌打ちの連打はやめてあげて。
「お前も図書館に来てたのか? 偶然だな、はは」
「ん? 偶然ではない、必然だ。ここは俺の職場だからな」
「え?」
3人分の疑問符。俺・有栖・印野さんが同時に驚きの表情で響を見る。初耳だな、響の仕事先が図書館とはな。響ももしかして印野さん同様に本が好きなのか?
図書館に続く道のど真ん中で睨みあう二人。幸いにも
「遅めの昼休みだ。少し外の風に当たろうと思ってな」
「ちっ……お前がいるとわかっていればこんな場所に……いや、それでは私がお前に譲るみたいだ。それに……書物はただ静かにそこにあるだけだ」
「そうだな、書物に罪などない。ここでのいがみ合いは無意味だ。大人しくしろとは言わないが……静かにはしろ。他の利用者の迷惑になりかねん」
「言われるまでもない」
お、どうやら無事収束しそうだな。そしてやっぱ寝るのはやめておこう。いびきでもかいてこの静かなる冷戦の火種にならないようにな……っと!?
「お、おいお前……ぶつかっといて……」
「ひどいですね。ぶつかっておいて謝りもしない……なん……て」
有栖の言葉は途絶え、表情が俺同様に凍り付く。睨みあう印野さんと響さんの間を通って図書館へと向かっていくが、それを見た二人もはっとその背を見つめる。
体格的には小柄な女性に見える。黒一色のライダースーツ、フルフェイスのヘルメット。そしてその手には……双頭の刃をもつ彼女の身の丈はあろう長さの
入口に近づくにつれ現れた不審者の歩は早くなり、やがて疾走へと変わる。奴はまっすぐにドア近辺で再度目を丸くして慌てふためく警備員へと狙いを定めているようだ。
「逃げろ!
響の怒号! だが名前を呼ばれた警備員は逃げ腰のままただわずかに後ずさるのみ。そこに容赦なく剣を構えて突っ込んでいく。だめだ、あのままじゃ……。
「"シールドフレーズ"!」
響の叫びとともに彼の顔の前の空間が、そして警備員のいるあたりの空間がぐにゃりと歪む。
ガキンッ!
警備員は力なくその場に崩れ落ちる。その前ではまるで透明の壁に剣をはじかれたかのように剣を振り上げたままの不審者の姿。ゆっくりと振り返り、声の主である響へと顔を向ける。
ヘルメットのせいで表情までは読めないが、いまのでヘイトが響に向いたか? 今度は響へと剣を向け走り出す。響は喉を抑えているが、逃げる様子もなく真っ向から対峙する。あの調子じゃ続けて"ハウリング"はきつそうだ。
「有栖、あれも
「は、はい!」
有栖の返事を背に、俺は響の方へと駆け寄る。今ならまだどら子の
「響! さがれ、ここは俺が……」
「そうださがってろ」
俺の言葉に続く冷静でいてどこかいつもの蚊の鳴くような声からは想像できない力強い声。印野さんは響の前に立つとすっと手を横に伸ばし、指で
「"ウェポン・ライト"」
印野さんは光の線で描いた印に手をかざすとその何もないはずの空間から青白く光る剣の形をした物体を抜く。そして……。
ガキンッ! キンッ!
火花を散らしながらなる激しい衝突音とその後刹那の間をおいて鳴る甲高い金属音。どうやら振り下ろされた不審者の剣をいなすようにして受け、流れた敵の刃が地面にぶつかったようだ。てか……え? 印野さんって剣士キャラなの?
「その程度か?」
敵は大きく間をとるように後方へと転がる。そして再度構えるとすぐさま印野さんへと向かっていく。うわぁ、俺あれ真似できる気しないわ。敵が繰り出す振りをすべていなしたりはじいたりと……まあ、俺そもそも剣の扱い方なんて知らないけどな。
印野さんの剣捌きは素人目の俺でもすごいのはわかる。だが、敵の体力もまた目を見張るものがある。あれだけ全力で剣を振り回しているのに一向に勢いが衰えない。
キンッ!
敵の振り下ろした剣を両腕で支えた剣で受け止める印野さん。その表情はどこか相手を小ばかにするようだ。そうだな、小悪魔的ってやつだ。
「おまえは……
それはまるで別の世界から話しかけられているような不思議な感覚。女性と思しき不審者のものとはわかるが、人のそれとは思えない男性とも女性とも取れない奇妙な質の声だ。
「私は
敵の推察が気に入らなかったようで、剣を押し返し初めて自身から横薙ぎの一撃を繰り出す印野さん。敵はそれをバックステップで器用にかわす。だがその後は先ほどとは違い攻撃の手を止め、こちらの様子を見ている。
「
「……何?」
不審者は手にしていた
奇妙というか理解できない。敵が剣を地面に刺したかと思うと剣が……そしてそれをつかむ手が、腕が、全身がぐにゃりと歪み、結合し……足へと変わった。そう、上半身は人型で下半身は三つ足……とか思ったら今度は別の足が上がり、その足がまるで先ほどの逆再生といわんばかりに歪み、変化していく。
「な、なんだ……これは?」
さすがに印野さんも先ほどまでの余裕は無くなったようで、突如現れた"異なる同一人物"に剣先を向ける。敵は……小柄な女性ではなく俺ぐらいの身長の男性の体型へと変化している。そしてその手にした得物も何やら装飾が施された上質な
「あの剣の紋章……
俺の横で有栖が信じられないといった様子で立ち尽くしている。何のことだと確認したいが、敵は印野さんが驚いているその隙を見逃してはくれない。
「……
「なに!?」
敵が口にしたのは最近覚えた異世界の言葉。そしてそれに思わず反応したのも束の間、敵は瞬時に印野さんの側面に回り込むように接近した。その速度に印野さんも舌打ちしながら剣で迎え撃つが……。
「くっ!」
敵の横薙ぎを受けた摩子さんの足が刹那、大きく地面から離れた。そのすさまじい衝撃に苦悶の表情を浮かべる。敵は横薙ぎからそのまま剣を引き、戻す刃で印野さんの手にした剣をはじく。
カランッ
二度の衝撃に耐えきれず、印野さんの手から剣は離れ、地面に落ちたのちにすっと空間に溶け込むようにして消えてしまった。
「ま、摩子さん!」
右手を抑え、後ずさる印野さん。だが敵はそこに素早く剣を突き出す。
「シールドフレーズ!」
響の声、歪む空間。そしてはじかれる敵の剣。察するにバリアみたいなものでも張ってるんだろうか。だがそれを聞くよりも優先すべきは……。
「響!」
俺はなおも喉を押さえ、疲労した様子の響へと駆け寄る。俺が響に向け拳を突き出したのを見て俺の狙いを察してくれたようで、俺に向かい拳を伸ばす。2つの拳がこつりとぶつかる。
「よし、次は俺の番だ……"ハウリング"!」
眼前の空間が歪み、その歪みが敵へと伸びていく。敵はそれに感づいたようで、信じられない跳躍力でその場から離れ、そのまま建物の突起を足場に図書館の屋根上へと飛翔した。
しばらく俺たちを無言のまま見下ろしていたが、すっと背を向けると俺たちの視界から消えた。くそっ、逃げるつもりか。
「有栖、追うぞ! つかまれ!」
「はい!」
有栖は俺の背に飛び、首元に手を回す。前回と違い飛鳥ちゃんを抱き上げる必要がないからしっかりと有栖を背負うように手を回す。今回はちょっとルートが荒くなりそうだしな。
「ま、まって十字……私も行く!」
「悪い印野さん。今回はあいつを追って屋根上を行く。運べるのは一人が限度だ」
「くっ……」
敵に後れを取ったことが腹立たしいのか、自身への苛立ちを隠せない様子の印野さん。
「摩子……すぐそこに俺のバイクがある。お前にその気があるならついでに運んでやる」
「……いいだろう。私をあいつのもとまで運べ。有栖、場所はスマホで私まで教えてくれ」
「わ、わかりました!」
「話はついたな……じゃあ先に行くぞ!」
俺は先ほどの不審者同様、建物の突き出た個所を足場に屋根上へと昇っていく。はは、もう俺の
「さあ、しっかりつかまってろよ有栖。落ちたら痛いじゃすまないぞ今回は」
「お、落とさないで下さいね! 絶対に……絶対ですよ!」
急激な縦方向への移動ですでに目を回したのか有栖の台詞がおぼつかない。まあ、快適な陸の便とは程遠いが、それでも安全だけは保証してやるよ、絶対にな。
遠ざかろうとする敵の背目掛け、俺は落下も落とし物も許されない愉快じゃないアスレチックを開始した。
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