第5話 配信者、生配信する
「パパ!」
ドリに起こされるのも少し慣れてきた。ただ、思いっきり引っ張るからベッドから簡単に落ちてしまう。
「いたたた……もう少し優しく――」
「マンマ!」
ドリは朝食ができたから呼びに来たのだろう。昨日は動画の編集を行おうとしたが、やり方がわからず、気づいた時にはすでに投稿されていた。
消し方もわからずそのままにしている。
特にドリも祖父も映ってないから気にしなくても大丈夫だろう。
きっと作業をするだけの動画を見る人もいないはず。
俺は普段のように朝食に向かう。そこにはすでに祖父母が待っていた。
「直樹遅いぞ」
「ああ、ごめん。少し昨日寝るのが遅くて」
「夜更かしして何やっていたのよ?」
祖母の目がキラリと光る。いや、中高生ではないから夜な夜なそんなことはしないぞ。
ポケットからスマホを取り出すと、待ち受けに表示されているメッセージに驚いた。
――コメントが一件あります
まさかあの動画にコメントが付くとは思わなかった。ひょっとしたら、悪評のコメントだろうか。
俺はゆっくりと手を画面に触れる。
「直樹先に朝飯だ」
画面を急いで閉じて手を合わせる。
「いただきます」
そういえば祖父は結構頑固なところもあったな。礼儀には厳しく、周りに迷惑をかけるなとよく言っていた。
「ニヤニヤしてなんだ」
一人で暮らしていたら、スマホを見ながら食事を食べるなんて当たり前だった。久しぶりに注意されてつい微笑んでしまう。
「いや、なんでもないよ」
この感覚も久しぶりだな。都会で疲れた今の自分にはちょうどよかった。
♢
今日もドリ達とともに畑に向かう。元気に石ころの歌を今日も口ずさんでいる。
畑に近づくと土の匂いが鼻の奥を通り抜ける。ただ、畑が昨日と比べて様子がおかしい。
「ねぇ、畑ってここだよね?」
「俺の畑は昔から一緒だぞ」
やはり祖父は認知症なんだろう。昨日種と苗を植えたはずなのに、目の前の状況に驚いていない。
目の前にあるトマトはすでに花が咲き、レタスは中心に葉が集まっている。
種から植えたはずのきゅうりなんて、芽が数cmも出ている。
「支柱立てをしないといけないよね?」
すでに実りそうなトマトは支柱に紐で茎の部分を巻き付けないといけない。
そのまま放置すると、トマトが大きくなった時に支えられなくなり、土の上に落ちてしまう。
土壌や雑草、昆虫などからの感染や傷が増えてしまえば売り物にならなくなる。
祖父は支柱を取り出してきた。その間に俺は動画撮影のためにスマホの準備をする。
「直樹、これをトマトのところに立てて紐で巻きつけろ」
言われた通り地面に支柱を立てていく。ドリもお手伝いをしたいのか、重たい支柱を運んできた。
「あっ、カメラに映るからそこまででいいよ」
ドリをカメラに入るギリギリで止めるが、手伝いたいのかそのまま支柱を持ってくる。
俺は支柱を受け取ろうとするが、自分で土に支柱を刺さないと嫌なんだろう。
「ははは、ドリもわしに似て頑固だな」
そこは似て欲しくなかったが、俺も頑固だから仕方ない。
そのままドリも一緒に支柱を立てていく。
「グルグルマキマキ」
ドリは紐を結ぶときも口ずさむのを忘れない。ついつい一緒になって口ずさんでしまう。
「グルグルマキマキ」
「グルグルマキマキ」
作業も簡単なため、すぐに支柱に巻きつけることができた。
こうやって俺も幼い時に祖父母とやっていたな。あの当時は子供ながらに楽しいと思っていた。
それよりもこんな日常のことを配信して視聴者は喜ぶのだろうか。
動画編集をしてある程度マシな形にして投稿すれば問題ないだろう。
俺はスマホを手に取ると違和感に気づいた。
「えっ……これ生配信じゃん!?」
今まで動画を撮影していたと思ったら、生配信になっていた。
「パパ?」
そんな俺を心配したのかドリが近寄ってきた。もうここまで来たら、とりあえず挨拶して乗り越えるしかない。
「挨拶できる?」
俺の言葉にドリは頷いた。
「パパ好き!」
うん、やはり挨拶は難しいようだ。そのままスマホの電源を落として作業に戻った。
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孤高の侍 1分前
おいおい、なんだあの幼女は!?
▶︎返信する
名無しの凡人 1分前
これって畑の日記じゃなくて幼女日記じゃないのか?
▶︎返信する
貴腐人様 2分前
パパ可愛い。ぜひ、総受けでお願いします
▶︎返信する
鉄壁の聖女 10分前
今日は生配信なんですね。私に癒しと生きる希望をくれてありがとうございます。もう、いつ死んでも後悔はないです。推し活最高!
▶︎返信する
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【あとがき】
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