第4話 配信者、初めて配信動画を撮影する ※一部視聴者視点
作業が落ち着いたタイミングで、祖母が昼食を持って畑にやってきた。
「ここで食べるのは久しぶりだね」
幼い時は祖母と共に畑作業をしている祖父のところまで、昼食を持っていくのが俺の仕事だった。
「ドリちゃんはおにぎり食べられるかしら?」
「おにおに?」
「中に水菜としらすが入っているのよ」
ドリはなぜか肉を食べなかった。基本的に野菜ばかり食べて、野菜と混ぜるとわずかに食べられるぐらいだ。
小さい時は好き嫌いがたくさんある子も多いと聞く。祖母はそんなドリのために野菜入りのおにぎりを作ったのだろう。
「おにおに!」
おにぎりと言いにくいのか、ドリの中ではおにぎりが"おにおに"となった。
「あらあら、そんなに口に入れたら詰まっちゃうわよ」
口いっぱいに頬張る姿についつい祖母も心配している。
きっと俺だけではこんな笑顔溢れる昼食は取れなかっただろう。
子どもが一人いるだけで、家族がすごく明るくなった気がする。
「よし、あとは種まきと苗の植え付けだな」
今回作る野菜はトマト、レタス、きゅうりを試しに作ってみることにした。どれも比較的簡単に作れて、収穫するのも数ヶ月でできる。
レタスなんて早ければ一ヶ月でできるらしい。
俺は苗と種を隙間を開けながら植えていく。きゅうりだけ種から育てるため、一番遅く成長するだろう。
「ドリも!」
今回は動画を撮影しているため、ドリが映らないようにしていた。流石に身元が保証できない子を載せて何かあったら大変だ。
「んー、動画に映っちゃうからなー。また今度ドリ用の畑を作ろうか」
渋々聞き分けてくれたため、俺は一人で植えていく。中腰でする作業は幼い時より重労働に感じた。それだけ自分が大人になったのだろう。
「パパ!」
それでも手を振ってくれるドリの姿を見ると元気が出てくる。
その後も作業を続けていくと、祖父とドリは何かをやっていた。
「のびのびー!」
「のびのびー!」
両手を上にあげて背伸びをしている。成長するようにおまじないをかけているのだろう。動画に映らない縁で作業をしているため、特に問題ないとその時は思っていた。
♢
探索者として働く私は日々疲れ切っていた。毎日ダンジョンに潜っては、魔物を倒してドロップ品を売却する。
命をかける仕事のため、身入りの良い仕事なのも探索者としての特徴だ。
ただ同じ作業の繰り返しで、何が楽しいのかわからなくなってしまった。
私はいつものように、動画配信チャンネルをつけた。
「はぁー、何を見てもつまらない」
どこを見てもダンジョン配信ばかりで飽き飽きする。探索者をしている私にとって、ダンジョン配信はつまらない。
その中で目を惹く動画を見つける。
「畑の日記?」
PV数もなくあげたばかりの動画だ。特に動画編集もしてあるわけでもない、ただの日常風景が流れる。
私とそこまで年齢の変わらない男が畑を作るために必死に土を耕したり、種や苗を植えていた。
たまに子どもの声が聞こえるが、きっと良い家庭を築いているのだろう。
探索者の中でも高ランクである私に結婚してくれる相手はいない。子どもを産むなんて夢物語だ。
「のびのびー!」
「のびのびー!」
きっと子どもが何かおまじないをかけているのだろう。だが、ひっそりと映るその姿に私は目を奪われた。
「幼女? いや、この子ドリアードだわ!」
ドリアードはダンジョンの中にいる、女性の形をした魔物だ。全身緑の体をして赤い瞳が特徴的。そして、頭の上には大きな花が咲いている。
ただ、この子は普通の子どもにしか見えない。流石にこんなに可愛いドリアードはいないだろう。
毎日ダンジョンに潜っている私でさえも見たことがない。
ただ、探索者としての知識と経験が人間ではないことを直感に訴えかけられる。
見れば見るほど、この子が気になって仕方がない。
早速私はコメントを残すことにした。この時は私に衝撃と癒しを与えてくれる存在になるとは思わなかった。
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