第3話 配信者、畑の再建を始める
ダンジョンについては役所に連絡すると、すぐに対応してもらえることになった。ついでに懐いた魔物について確認したら、役所に提出する必要があるらしい。
まだ、魔物かわからない俺はダンジョンの入り口に迷子の少女を預かっていますと張り紙をしておいた。
「パパ!」
ドリは走って俺を呼びにきた。きっと朝食ができたのだろう。
あれから祖父はドリを我が子のように可愛がっている。あまりにも相手にするから、ドリが逃げて祖母に寄っていくぐらいだ。
その時の祖父の顔を見るとついつい笑ってしまう。
そんなにドリに逃げられるのが悲しいのか。
認知症である祖父がドリのことを覚えているかはわからないが、良い刺激にはなるのだろう。
「直樹はこっちに帰ってきて何をするつもりなの?」
祖母から今後のことについて聞かれた。元々ここの畑を手伝い、そのまま後継者になろうとしたが、その畑すらなくなっていた。
「貯金はあるから、畑でもやってみようかな」
社畜は給料を使う機会すらなく、お金はたくさんある。畑をやるにも道具は揃っているため、生活資金だけあればどうにかなるだろう。
一年分の貯金を切り崩して、それでも難しいなら再転職を考えることにした。
「畑をやるのか? よし、じいじが一緒にやってやろう」
「じいさん無理はしちゃだめよ」
「何言ってんだ! ドリちゃんに良いところを見せないとととと――」
急に立ち上がった祖父は転びそうになる。危ないと思い支えたが、腕の前で少し浮いていた。
「じいじ!」
ドリが祖父の服を引っ張っていたのだ。改めて人間ではないと認識させられる。祖母も同じことを思ったのだろう。
ただ、祖父は違った。助けてくれたドリを優しく撫でていた。
結局、人間か魔物なのかの区別はいらない。ドリはドリってことだな。
♢
俺は祖父とドリと共に畑に向かう。
「そんなの準備して何するんだ?」
「ああ、記念に残しておこうと思ってね」
俺は今の現状を動画に残すことにした。畑を再生させるためにどうするべきか動画を見ていると、畑を配信している人を見つけたのだ。
――動画配信者
それは探索者に並ぶ人気の職業。今はテレビ番組数も減り、各々作った動画配信を楽しむ時代になった。
広告収入や投げ銭など様々なところからお金が発生するため、あらゆる人達が動画配信を始めた。
最近増えているのは、ダンジョン探索をする探索者による配信だ。そこに昨日倒した犬のような魔物が映っていた。
名前はミツメウルフというらしい。見た目そのままの名前で笑ってしまった。
そんな動画配信を収入源がない俺は一緒に始めることにした。
少しでもお金を稼げるのなら、生活の足しにできるだろう。
「じいちゃんまずは何をするべき?」
「じいじ!」
動くと危ない祖父は椅子に座って現場監督を任せた。ドリも靴を履いて手伝ってくれる。
すこし大きいが昔履いていた俺の靴が出てきたのだ。服も思い出として残してあった一枚のみだ。
「まずは石を取り除いて、除草剤を撒くところから始める」
認知症でも過去の記憶であるエピソード記憶は残っている。そのため、畑の再生に関しての知識は動画を見るよりも早かった。
「ドリどうしたんだ?」
除草剤を撒こうとしたらドリは嫌がって、俺の服を掴んでいた。
「これが嫌なのか?」
俺の言葉にドリは頷いていた。除草剤を使わないとかなりの作業量になるだろう。手作業で雑草の根絶をするのも大変だが、ドリが嫌なら仕方ない。
なぜかこの時ドリの意見を聞いておかないといけない気がした。
「大きな石がコロコロ」
「コロコロ」
ドリと大きな石から取り除いていく。なんとなく口ずさんでいると、ドリも一緒になって歌っていた。
ある程度石を除いたら、今度は雑草を少しずつ抜いていく。抜草刈り道具を使っているが、手作業になると中々雑草の数が減らない。
だが、隣を見るとドリが俺の倍以上の速さで雑草を抜いていた。
「ははは、子どもは元気だな! 直樹負けてるぞー!」
祖父に声をかけられ、俺も必死に雑草を抜いていく。
子どもの時にお手伝いでやっていたはずが、大人になった体では長いこと中腰になるのは辛い。
「パパ!」
「ドリどうし……おいおい、もう終わったのか?」
「うん!」
綺麗に引き抜かれている畑は土だけになっていた。ここからは大人である俺の出番だ。
まずは土を掘り返したり反転させたりして耕す
そのままでは作物の栽培に適さないため、表土の破砕によって土壌を柔らかくし、乾土効果をもたらす。
その後に土壌改良として、堆肥や腐葉土の栄養を補給させていく。
ちなみにこれも全て祖父からの指示だ。
一方のドリは、疲れたからか祖父の膝の上に座っている。
ちょうど動画配信には俺しか映っていないため問題はないだろう。
その後も俺は畑に微生物剤を撒いたり、植える物を想定して区画の整理をしていく。
ああ、畑仕事ってこんなに大変なんだな。
ただ、誰にも怒られずに頭を下げなくても良いと思うと、少し心が楽になった。
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