第二話 異世界転移したのに歩きばかり

「タイムストップ!!、タイムストップ!!」


と彼は久しぶりに右手を前に叫んだ。しかも、少しカッコをつけながら。恥ずかしさなんて全く無かった。


「止まったのか・・・」


彼は恐る恐る周りを見てみると... 周りは動いている様子は無かった。本当に止まっている?


「止まったのか。やったぁぁ!!」


と大喜びしたのも束の間、風がビューっと吹き、葉っぱが一枚落ちてきた。それはもう賢也を嘲笑うように落ちてきた。


「止まってないのね」


賢也はガッカリしたが、他の魔法ならできるだろうと思い、試してみた。

「ファイヤボール、ファイヤボール!!」

「ファントムファイア、ファントムファイア」

「ファイアボルト、ファイアボルト!!」

などなど。傍から見たら頭のおかしな高校生だったであろうが、本人は至って本気だった。しかし、何一つ魔法は出来なかった。


賢也はガッカリしたが、それ以上に異世界転移出来たことが嬉しかった。その上、今魔法が今使えなくても、後から使えるだろうと楽観的な気持ちでいた。なんだって異世界転移なんだから。


そんなこんなを考えた後、賢也は周りを探検してみることにしてみた。とりあえず、自分がいた所にその辺に落ちていた木の棒を立て、目印をつけた。周りには見た感じ木しかないが、よく見てみると遠くの方に大きな塔があるように見えた。質素な感じの塔である。


「あれに向けて歩いてみよう」


人がいるかもと期待しながら歩いた。異世界人はどのくらい魔法が使えるのだろうか。魔王とか勇者って概念はあるのだろうか。などなど想像しながら歩き続けた。


それからどれほどの時間が経っただろう。少なくとも3時間は経っているのに一向に塔との距離は近づかない。そればかりか離れているように感じる。


「これ、もしかして幻覚見てる?」


と少し不安に感じ始めた。そんな不安を紛らわせるため、とにかく塔に向かって歩いた。しかし、それからさらに2時間ぐらいあるいたが、到着するどころか遂には塔が見えなくなった。流石の彼もこれには少し焦ったが、気のせいだと思い忘れることにした。


「そうだ。喉も渇いたことだし、飲み物でも飲もう」


と気分を変えるために言った。彼は背負ってたリュックからペットボトルを取り出し、豪快に飲んだ。5時間も、あったかも分からない塔に向かって歩いていたんだから、喉が渇くのも当たり前であった。飲みかけの500mlのペットボトルは一瞬で無くなった。それでも、喉は余り潤わなかった。


「もう少し残しておくんだったな。まぁ、とりあえず、川を探しに行こう」


彼は自分が迷っていることになるべく目を向けずに歩き出した。とっくに足は痛いが、気にせず、歩き出した。どのくらい時間が経っただろう、外の天気は月が沈み太陽が登ってきた。


「綺麗だな」


と賢也も思わず見とれてしまった。その太陽が登ってきたから分からないが、生物の鳴き声が少しづつ聞こえ始めてきた。ただ、日本では聞いたことがないような鳴き声であった。


賢也はまだ見ぬ生物がいることへの期待と少しの戸惑いを感じながら歩いた。


「異世界転移したのに歩いてばっかりだ・・・キツすぎる」


賢也は自分が思っていた異世界転移と少し違うかもと思い始めた。そんな少しの不安を吹っ飛ばすために


「まだ異世界転移は始まったばかりだから...大丈夫 大丈夫なはず」


と自分に何度も言い聞かせた。


まだ、川は見つからない。太陽はもう登りきり、昼ぐらいになるだろう。生物は今の所見ていない。


だがしかし、以前声が聞こえてくるため、寝るのは少し怖かった。そのため、さっきから感じる睡魔に負けないように戦っているのである。睡魔で限界な体を動かして歩いた。


賢也はさっきの塔のこともあり、内心恐怖していた。迷ったのではないか...と。こんなところで迷子になったら誰にも見つけて貰えないだろう。その場合待っているのは死のみだ。少しづつそれが現実味を帯びてきた。その上、この喉の渇きと空腹感、そして睡魔である。少し絶望しながらも、賢也は歩いた。必死に足を動かした。


そうすると、何やら音が聞こえることに気がついた。それはどうやら川が流れるような音に聞こえる。賢也はそれに向かって走った。疲労なんて吹っ飛んだ。今ある自分の力を持って走った。川の音が近づいている。


「川だ!川だ!川だー!!」


賢也は喜びを噛み締めて近づいた。そこには確かに川はあった。あったことにはあったのだが、その川はあまりに汚く、泥水に近かった。


賢也は固唾を飲んだ。財閥の御曹司である賢也は水道水もあまり飲まなかった。ミネラルウォーターを好んで飲んでいた。そんな賢也が泥水を飲むなんて想像も出来ていなかった。それでも、ここまで走ってくるのにかなり汗をかいたし、脱水症状になりかけていた。


「これが綺麗な水だったら... 目の前にこんなに大量の水があるのに...」


すると、賢也は目の前の泥水がだんだん綺麗な水のように見えてきた。濁っていた水がミネラルウォーターのようになっていた。


「これが...もしかして俺の魔法!?」

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