クラス対抗ゲーム 第1回戦

 今日は4月27日金曜日。時刻は11時。第2学年クラス対抗ゲーム当日である。

 

 2年生のクラス代表が全員体育館に集まっている。

 

 つまり24人いるわけだが、この広い体育館に24人だけだと、なんだかさびしい気もするが、この第一試合は見学など禁じられているので次の試合からしか見学はできない仕組みになっている。


 ここに集まった24人、同じ学年だし、知っている顔も確かにあるのだが、クラス替えがない上、僕は部活動もしていないので他のクラスに友達は少ない。


 なのでほとんど知らない人である。


「さあ~。頑張ろう!」


 姉ちゃんが元気に手を上げた。


 その姉ちゃんの隣にいる月影の方に目をやった。


「……何? 馬鹿が移るから見ないでくれる」

「馬鹿が移るか!」


 はぁー。昨日の理事長の所為でものすごくやりにくい。




 昨日――4月26日木曜日の放課後である。

「それで今日は何の用だ?」

 

 僕は理事長を前に少し怒りながら言った。


「私、Mだから少し欲情しちゃうわ」

「お前は絶対Sだ」


 明日はゲーム当日なのだから早く帰りたかった。なので少しご機嫌斜めだ。


「まぁー、私も明日の準備で忙しいのよ。だから率直に聞くわ。月影ちゃんと仲良く成れた?」

「いや頑張っているが、正直仲良いかと言われたら違うような気がする」


 てか暴言しか言われてない気がする。


「ふ~ん。暴言言われて欲情しているのね」

「欲情はしてねえよ!」

「だから私は忙しいの! 無駄な突っ込みは止めてよ」

「お前が突っ込み所を用意するからだ!」

「どうせ梶野くんみたいな人は月影ちゃんから名前で呼ばれた事なんてないでしょ?」

「はぁー? そんなの……」


 あれ?


 そういえば僕の事というか、誰の事も名前で呼んでない気がする。


 僕の事はいつも「あなた」だし、姉ちゃんとはそもそも話をしてない。


 それどころか、他の人から話かけられても無視まではいかないが、ほとんど一言、二言で会話を終えている。


「そっか・・・・・・。やっぱりまだ無理か」

「何が無理なんだ? 人の事を名前で呼ぶのが無理って事か?」

「そうよ。月影ちゃんは他人を名前で呼ぶのは、本当に信頼した証。それ以外の人は決して名前で呼ばないわ」


 それが本当なら僕は信頼されてないのか。


 されていると思ってなかったけど、一緒にゲームに出てくれとか頼まれるから、少しは本当に少しぐらいは信頼されていると思っていたのに。


「そんな落ち込む事ないわ。月影ちゃんは私が知る限り2度、とても大切な人とても信頼していた人に裏切られているのよ。そんな月影ちゃんが人を簡単に信頼なんかしないわよ」

「あの月影が2度も裏切られた?」

「『あの』とか言うけど梶野くんは月影ちゃんの何を知っているの?」


 理事長が真剣な声で僕に言った。


「月影ちゃんはこの私にでさえ、心が読めないわ。このすばらしく強く美しい勝負師であるこの私でさえね」

「真面目な話しをしている時にさりげなく自分を褒めるな!」


 それから月影の生い立ちを理事長は話した。何故そんな事を知っているのか疑問に思うが、この人は何でも知っている。


 多分、全校生徒の今までの生い立ち、今どんな友人といるのか、親の職業など知らない事はないだろう、どうやって調べたのかは全くの謎だが、今はそんな事を気にしない。

 

 今は月影の話だ。月影一香は小さい時――小学校低学年の時に両親は離婚した。それが第一の裏切りだった。

 

 大好きな両親と妹(初めて妹がいることを知った)と月影の4人暮らしだった。


 他人から見て絵に描いたようなアットホームな家族だったらしいが、急に離婚が決定したらしい。


 急と言っても月影が気づかなかっただけで、本当はそういう兆候があったのかも知れないが、小学生にそれを気づけと言うのも無理だろう。


 月影とその妹にとってはやはり仲良かった両親が急に離婚する事になったという感じだったのだろう。

 

 そう、大好きな両親と妹と一生一緒に仲良く暮らせるはずだった。


 そう信じていた、その想いは裏切られたのだ。


 信頼していた大好きな両親によって。

 

 父親は月影を引き取り、母親は妹を引き取った。


 そして父親と月影は東京に残り、母親と妹は実家の九州に戻った。簡単には会えない。


 小学生にとって東京と九州の距離はとてつもなく遠い距離に感じるだろう。


 2度と出会えない、そんな事を感じる距離だったはず。

 

 別れる時、妹はとてつもなく泣いた。


 泣き叫んだ。


 幼いながら何かを感じ取ったのだろう。


 だが、月影は泣かなかった。


 嫌な顔せず笑顔だったと言う。


 悲しい、嫌だ。そんな感情を決して出さなかった。


 いや、出せなかった、出せば迷惑が掛かる。


 自分を裏切ったはずの両親。


 だが、それでも大好きな両親に迷惑が掛かる。


 泣き叫んでいる妹、月影が感情を出せば、さらに妹は悲しむ事になる。


 だから出さない。妹を悲しませたくない。

 

 母親と妹と別れ、暫くの間月影がどんな想いで過ごしたのか、僕には想像できない。

 

 今まで大好きな家族と暮らしていた家。


 いつもいたはずの母親、妹がもうその家にはいない。


 寂しかっただろう、悲しかっただろう。


 だが、父親には決してその感情を出さなかったらしい。


 そうして自分の心に嘘をついて過ごしたらしい。

 

 そして今でもそうだ。


 あいつの感情はよく分からない。


 表に出さないようにしているのかも知れないが。


「だから、月影ちゃんがどんな気持ちで梶野くんに暴言吐いているか私にも分からないのよ。本当に元々Sなのか、それともテレ隠しなのか、それとももっと別の理由があるかも知れない。それは分からない。月影ちゃん自身ももしかしたら分かってないのかもね。それほど、あの娘は自分の感情を騙している。自分に嘘を付いている。そりぁあ誰だって自分の気持ちに嘘を付くわ。それは人間だったら当たり前よ。でも、月影ちゃんは誰にも自分を見せない。でもそれは辛い事。誰にも本当の自分を見せれず誰も信頼できないなんて可哀想よ。だから私はあなたにお願いしたわ。月影ちゃんと仲良くなってねと」


 そんな気持ちで僕に頼みごとしたのかこの人は、この人いつも生徒を困らせるSだけど、多分誰よりも生徒の事を考えている人だよな。


 だから人気がある。悔しいが僕だって本気でこの人の事を嫌いじゃない。あんな暴言や虐められたとしてもこの人を嫌いになれない。


「でもなんで僕なんだよ? 姉ちゃんとかの方が向いている気がするのだが」


 姉ちゃんの性格ならすぐに仲良く成れる。


 そして僕の姉ちゃんが本当に何も考えてないその場の空気で動いている馬鹿だと分かるのに。


 良い言い方すれば、自分に嘘をついてない。


 そして人に決して嘘を付いたり、裏切る人ではない。


「いやぁー。人の事信用していなくても飼っているペットを信頼している人とかいるから梶野くんだったら大丈夫かな~と思ったのよ」

「僕の事ペット扱い!?」


 そういえば、ファミレスで月影が1匹と言ったな。もしかして冗談でなくペット扱いされている?


「私忙しいのよ。いつまでここに居るつもりかしら?」

「ペット扱いした上、邪魔者扱いなのかよ!」

「いや、邪魔者扱いなんてしていないわ。邪魔物扱いしているのよ」

「人扱いさえされてない!」


 そういえば、月影はファミレスで1個と――以下略。


「そうそう一つ忘れていたわ。明日のゲームでもし月影ちゃんが負けたら、月影ちゃんはこの学校を辞める事になるわ。じゃあ、また明日ね。バイバイ梶野くん」

「いや! さらっと重要な事言うな! 何故月影が学校辞めることになるんだよ」

「えー。それ説明するの面倒だから、あとでテレパシーで送るわ」

「テレパシー使えるのかよ!? てか大事な事なんだから面倒がるな!」

「馬鹿ね。漫画じゃないんだからテレパシーなんか使える訳ないじゃない」

「お前が言ったんだ!」

「仕方ないわね。簡単に言うわね。馬鹿な梶野くんでも理解できるようにね」





「何ぼーとしているの?」

「い、いや、何でもないよ」


 本当にやりにくい。


 月影のあんな過去を知ってしまい、そして今日このゲームで優勝出来なければ、学校を辞めなくてはならない事も知ってしまったし。


「はぁー」


 学校を辞めなくてはならない理由を詳細には教えてくれなかったが、2度目の裏切りが深く関係しているらしい。

 

 月影は裏切られ、前の学校を辞めなければならなくなったらしい。

 

 そして父親の仕事もうまくいっておらず、率直に言って家は貧乏らしい。


 今にして思えば、月影は財布を持ってない訳じゃなく、持っても意味がないから持ってないだけだったのかも知れない。

 

 そしてこの私立高校に来たのだが、私立の授業料等が払える余裕がない。


 なので特待生と言う事で転入してきたらしい。


 勝負師の特待生。だが、実績がない生徒を特待生にするのは流石に理事長でも無理だったらしい。だから条件を付けた。


 それがこのクラス対抗ゲームで優勝する事。

 

 他の教師も5組の水無瀬の勝負師としての実力は知っている。


 その水無瀬に勝つ事が出来れば他の教師も文句がないと言う訳だ。

 

 さらに、あの理事長。もう一つ条件を出しやがった。


「そうだ。連帯責任にしましょう。もし、梶野くんのクラスが優勝出来なかったら、あなたも学校を辞めなさい。はい。決定~。じゃあ頑張ってね」


 そうしてこのゲームで優勝出来なければ、学校を辞めなくてはならない。月影だけじゃなく僕もだ。


「月影、頑張って必ずこのゲーム優勝するぞ!」


 月影の事もあるが、僕自身の将来にも関係している。高校中退でこの先の未来真っ暗だ。


 急に僕がやる気を出した事に少し疑問を思っている月影をよそに僕は本当にやる気満々だ。


「人数が集まったようなのでこれより第二学年クラス対抗ゲームを開催します。私はゲーム進行役の荒川絵美(あらかわえみ)と申します。よろしくお願いします」

 

 舞台の上でマイクを使い、話をしている先生、荒川先生と言うらしいが僕は見たことない先生だった。


「あ~。荒川ちゃんだ~」


 姉ちゃんがうれしそうに手を振っている。姉ちゃんはあの先生の事を知っているのか?


「あの先生は音楽の先生だよ~。そっか、ようちゃんは書道選択だから知らないのも無理ないか~」


 なるほど。僕が知らないのは無理がない。


「では第一回戦のゲーム。『5択クイズ』のルール説明を始めます」



①クイズの答えを5個の選択肢の中から正解を選び、紙を提出する。


②クイズに正解したらプラス1点、間違えたらマイナス1点。


③問題が判らなければパスも出来る。パスをしたら点数の増減はなし。

 

④先に10点獲得したクラスから勝ち抜けが決定。4クラスの勝ち抜けが決まった時点で終了

 

⑤もし3クラスが勝ち抜けを決めていて、残り1クラスの席を争っている時に2クラスが同時に10点獲得となった時、その2クラスで延長戦をします。それでも決着が付かない場合は両クラス失格です。元々決まっていた3クラスだけが次のゲームに進みます。


⑥この体育館にいる人ならば相談はOK。同じクラスとはもちろん、誰にでも相談OK。


⑦ただし、この体育館にいる人は聞かれた事に関して嘘を付くのは禁止。 




「はい、こんな感じです。何か質問ありますか。何でも答えます」

 

 こんな事言ってこの雰囲気で質問する奴などいないだろ。かなり分かりやすく説明してくれたし。


「はい! そこのポニーテールの女子生徒さん」


 質問する奴いたんだ! うん? ポニーテールの女子生徒?


「今までの言葉は本当だろうな」


 あの声あの口調絶対水無瀬だ。僕が言えた事じゃないが、目上の人に対して敬語を使わないのは相変わらずだ。


「はい。本当です。てかルール説明を嘘付いてどうするのですか? 先生をもっと信じてください」


 ため口に全く気にせず質問にきちんと答えた。


 てか、今の質問どうでもいいと思ったのは僕だけなのか? 


 この先生の言うとおり、ルール説明に嘘も本当もないだろう。


「はい。他に質問はありますか? ……ないようですね。もしゲーム中でも疑問を感じたらいつでも質問して下さいね。では今回のゲームに必要な紙とペンを渡すのでクラスで一人取りに来て下さい」

「じゃあ私が取りに行って来るね」


 そう元気に姉ちゃんが舞台まで走りだした。体育館には今24人の生徒しかいないのでがらんとしていて、他の人にぶつかる心配等はないだろう。


 それにしても初戦はクイズか。


 正直僕は役に立ちそうにないな。


 成績はクラスでは良い方だが、もし単純に知識を競うのなら、僕の姉ちゃんには誰も勝てない。


 僕の姉ちゃんはああ見えて、成績トップクラス。


 見たり、聞いたりしたらすぐにそれを暗記できるすごい特技を持っている。ただ、暗記は出来ても、それを応用などは出来ないので数学とかは苦手としているが、暗記科目ならいつも100点を取っている。


 それに転入して来たばっかりでよくは知らないが、この月影だって頭いいんじゃないか? 


「月影はクイズ得意なのか?」

「少なくても馬鹿なあなたよりは得意よ」


 うん。僕の事を馬鹿呼ばわりする事も含めて予想通りの返事だ。


「ただ、これが普通のクイズではなくゲームなのよ」

「どういうことだ?」

「延長戦をしてそれでも決着が付かない場合の話をしたのだから、普通のクイズのはずがないわ。これは勘だけど、何かしらのヒントがあり、誰にでもクイズの答えが分かる様にしてあるのではないかしら」


 なるほど。僕も延長戦の話はおかしいと感じていたが、月影はその言葉からさらに一歩先を読んだのか。


 つまり、決着が付かない場合があるという事は、全員が答えを知っている場合にのみ起こる事だ。


 つまり全員が答えを知る何かがあると言う事。それが何かを見抜けばいいのか。


「先ほどのルール説明で分かったのはそれだけか?」


 急にあまり馴染みのない声で話しかけられた。


 いや、先ほど聞いた声であったのだけど。


 水無瀬が声をかけてきた。


「お前が月影だな。私は5組の水無瀬だ」


 言葉遣いは男っぽい。


 女子なのに僕より男っぽくてかっこいいかも知れないが、声は透き通る綺麗な声をしている。


「そう。その5組のあなたが私に何の用かしら? サインならあげないわよ」


 誰もサイン欲しいとは言っていない。


「いや、噂の転入生を一目見ておこうと思っただけだ」

「美人で可愛らしく性格も良いと言う噂の私を見にきたと言う訳ね」


 絶対そんな噂流れてない……とは言いにくいな。


 正直見た目だけなら美人で可愛らしく、そしてやさしそうな感じはあるんだもんな。


「噂通り、いやそれ以上に面白い奴だ。そして見た感じ勝負師としても一流だな。流石あの天空橋高校から来ただけの事はある」


 天空橋? 


 あの天空橋高校から月影は転入して来たのかよ。

 

 天空橋高校。通称天高。


 今じゃ、数ある勝負師育成高校の中でダントツのトップを誇る高校だ。高校生ゲーム大会(高校生クイズ大会のゲームバージョン)が毎年開催されているが、開催されてから一度も負けた事がない高校。

 

 普通の授業は一切やらず、勝負師育成のためのカリキュラム。通える人数も1学年20人とかなりの小数。勝負師のエリート中のエリートだ。理事長も確かこの高校の卒業生だったはずだ。

 

 そんな天高から転校して来たのかよ。


 因みに駄洒落を言うつもりは一切なかった。


「ふん。どこで調べたか知らないけど、随分私の事警戒しているのね」

「自惚れるな。お前だけじゃない。今回出ている人全員を調べただけだ。だからそこにいる梶野についても知っている」


 僕についても調べたって一体僕の何を知っているの?


「それは是非教えて欲しいわ。この人の恥ずかしいエピソードを」

「どうして恥ずかしいエピソードを聞くんだ!」


 月影に僕の過去の恥ずかしい話を聞かれたら僕は一生それをネタにされるに違いない。それだけは止めないと。


「だって私、あなたが中学生の時ハンカチと間違えて母親のパンツを持っていた事があったぐらいしか知らないのよ。だからもっと知りたいのよ」

「何でそんな事知っている!?」


 いや、マジでそれ知っている人ほとんどいないはずなんだけど。その時のクラスの奴らにもばれてないはず。


「そうそう、それで反省すればいいのに高校になって今度はお姉さんのパンツを間違って持っていたらしいじゃない」

「もう勘弁して下さい。お願いします」


 あれは僕にも分からない。いつのまにか鞄に入っていたんだ。僕の意思じゃない。


「まだ、あるわね。これも中学生の時だったかしらね~。好きな人にラブレターを渡そうとして、直接渡せばいいのにあなたどうしようもないチキンだから、直接渡す勇気もなくて、机の中に入れたのだけど――」

「うわ~。本気でそれは止めてくれ! 何でもする、何でもするからそれだけは止めてくれ」


 その話だけはトラウマなんだ。一生思い出したくない。


「そうね~、私ケーキ食べたいかも」

「奢れという事なのか?」

「嫌なの? ラブレターを机の中に――」

「はい。奢ります。いや奢らせて下さい」

「あら? そこまで言うなら仕方ないわ。ケーキを奢らせてあげようじゃない。やさしい私に感謝しなさい」


 仕方ない。あの秘密を守って貰うためならケーキの1つや2つどうって事ない。


「なんて言うか、お前苦労しているんだな」


 水無瀬が同情する目で僕に声をかけてきた。


 うわ。初めてかもしれない。


 こういう扱いを受けて同情してきてくれる人に出会えたのは。


 水無瀬良い奴なんだな。


「苦労だなんて、馬鹿ね。この人にとって暴言は空気みたいな物ものよね」

「そんな事あるか!?」


 逆に月影、お前が暴言吐かないと死ぬぐらいの暴言の多さだけどな。


「『同情するなら暴言くれ!』と私に言った事あるのよ」

「どんなどMだ!?」


 そもそもこいつが同情する事等絶対にない。断言できる。


「まぁー。お前等の関係だ。私が口出す事じゃないな」

「いや、もっと止めてくれよ。もっと同情してくれよ」

「あなたにとって同情と書いて「いじめ」と読むのよね」

「月影は黙っていろ!」

「嫌よ!」


 力強く否定された。


「仲が良いな」


 水無瀬がそう言った。


 目がおかしいのか? 

 

 僕達の事仲が良いなんてどこを見て思ったんだ?


「さて、もうそろそろゲームが始まりそうだな。去年は簡単に優勝してしまったからな。今年は楽しめそうだ」

「負けるのが好きなら楽しめるんじゃない」


 水無瀬の挑発に、月影がさらに挑発を加えた。こいつも負けず嫌いだな。


「ふん。性格は強気か。自分に自信がありまくるのもどうかと思うぞ」

「自信? 不変の事実よ。あなたが私に勝てる確率は0よ」

「ふふっ。それは楽しみだ。では失礼するぞ」


 そう言い、ポニーテールをなびかせながら舞台の方に歩いて行った。それとすれ違いに姉ちゃんが戻ってきた。


「紙とペン貰って来たよ~」

「結構時間掛かったな」

「うん。荒川ちゃんと話してた~」


 なんでこれからゲームが始まるのにこんなにマイペースなのだろう。


「さて、みなさん準備はいいですか? そうそうゲームには関係ないですが、一応私の自己紹介。名前は先程言いましたが、歳は秘密です。でも20代です。若いです。ピチピチです」


 数分間、先生が自分はいかに若いかを説明している。正直どうでもいい。


「それでですね。これもゲームに関係ないのですが、私、実は先生ではなく看護師になりたかったんです」

『…………』


 僕も含めて生徒みんなが無言で呆れているにもかかわらず、次に自分は看護師になって患者の心を救いたかったみたいな話を数分間。


 いや、確かにいい話だけど僕達はこれからゲームをする。しかも僕は学校を辞めるか辞めないかの瀬戸際だ。こんな話を聞いている場合じゃない。


「そうそう、私実は親が離婚していまして、でも最初の母親は酷い人でしたから2番目の新しい母親は本当にいい人で……だから私は最初の母より2番目の母の方が好きで大切です」

『…………』


 いかに最初の母親が酷く、2番目の母親の方が大切な話を数分間。正直心が折れそうなぐらい話が重い。


「てなわけで2番目の母が大切です。そうそうまたゲームには関係ないのですけど、あんまりこの学園給料が高くないんです。知り合いの先生なんか結構な額貰っているらしいのですが私なんか……私なんか」


 次は愚痴かぁー。周りの生徒からそんな声が漏れている。

 

 おしゃべりが好きな先生なんだな。印象とは違うな。


「って気づいたら、もうこんな時間ですね。もうみなさん、言ってくれればよかったのに。それでは細かいルール説明も兼ねて、一度模擬ゲームをやってみましょう。問題は前のスクリーンに出ますので見てください。では模擬ゲームスタート」


 そう言って問題がスクリーンに表示された。


 問題文は荒川先生が読んでくれるらしい。

 


例題1 日本(にほん)で一番高い山の名前は次のうちどれ?


 1 越前山

 2 手塚山

 3 跡部山 

 4 幸村山

 5 富士山



「さて、この中から正しいと思われる番号を書いて前にある箱に入れてください。時間は10分間です。10分の間に入れてください。前のスクリーンの右下に残り時間が出ていますから時間切れには気をつけてくださいね。正解したクラスは1点獲得。違う答えを書いたクラスはマイナス1点。何も入れなかったり、2個以上書いた場合は0点です。そして1問毎に前のスクリーンでどのクラスが今現在何点か表示します。まあ模擬ゲームなので時間は半分の5分でいいですね。本番のゲームには今回の正解、不正解は全く関係しないので練習のつもりで気楽にやって下さい」

 

 そう言って右下の残り時間が動き始めた。

 

 答えは5番の富士山。常識問題だ。何も工夫すらしていない問題だ。


「おい、月影それでどうする? 普通に5番と書いて紙を出しに行くか?」


 一応聞いてみたが、それしかないよな。月影も頷いた。


 姉ちゃんが貰ってきた紙に5と書いた。因みに紙はすでに6組と大きく書かれているため、本当に番号を書くだけで提出する事ができる。


「じゃあ、私が出してくるね~」


 姉ちゃん走って紙を出しに行った。


「はい終了です。これから結果発表です。正解は5番の富士山ですね。さて、前を見てください。結果がでますよ」


1組 1点

2組 1点

3組 1点

4組 1点

5組 マイナス1点

6組 1点

7組 1点

8組 1点


 スクリーンに全クラスの点数が表示されたが5組だけ点数がマイナス。


 5組は水無瀬がいる所だ。知らなかったとかじゃない。


 点数がマイナスになるのかどうか調べたかったのだ。


 そして他のクラスへの1問目から間違えたらマイナスになると言うプレッシャーを与えた。


「こんな流れでゲームを行います。では、ゲームを始めましょう! いいですか、みなさん。これより第二学年クラス対抗ゲーム、第一回戦――5択クイズゲーム。開始です。早速第一問目です」



問題1 太陽系で一番高い山はどこの惑星にある?


1 地球

2 火星

3 木星

4 金星

5 土星


 問題がスクリーンに出て、先生が読みあげた。

 

 ……何だ? この難しさ。全く分からない。


 月影が言うように僕が馬鹿だから分からないのか。普通の高校生にはこれが分かるのか? 


 そもそも僕は地球以外の山なんて知らないし、ある事でさえ今知った。


 あー。でも地球以外に山はなくて1番の地球って言う答えもありえるのか。


「姉ちゃんはこの問題分かるのか?」

 こう見えて僕の姉は天才。一度聞いた事は忘れない。


「知らないよ~。山に興味ないし。胸になら興味あるけど。もっと大きくならないかな~」

「そんな事まで聞いてねえよ!」

 

 駄目か。正直かなり期待したんだけどな。

 

 なら、全く分からないのならパスでもするか。マイナスになるぐらいならその方がいいだろう。


 他のクラスも分かってないような雰囲気だ。


「月影、第一問目だし分からないのならパスしとくか」

「馬鹿なあなたに一つ教えてあげるわ。パスしたら私達負けるわよ」

 

 もうなんだか、月影に馬鹿と言われるのに馴れてしまった。

 

そんな事より、月影の話だと、まずこの第一問目からこの難しさ。そして間違えたらマイナス1点。


 こんなルールで10点いくクラスなんてそうそうない。


 つまり月影が最初に言った事、答えが誰にでも分かるようになっているはずと言うのがほぼ確実になってきた。


 つまり答えを全部知ることが出来る何かがあるというのがほぼ確実だ。


 これについて僕も同感だ。この難しさでは一生掛かっても終わる気がしない。

 

 そしてすでにその答えが分かる何かしらのヒントに気づいた人がいたとしたらの話だが、そのクラスは当然正解する。そして1点獲得。他のクラスが0点だとすると、その時点で勝ちが決まってしまう。


 何故なら、その後から出る問題の答えを全クラスに教えればいいだけと言う事。当然他のクラスもそれから正解していく。信じないクラスが存在するかも知れないが、今回のルールは嘘をついてはいけないという事である。


 つまり今回のルールでは全クラスが信じる。そして初めに1点獲得したクラスが他のクラスよりも早く10点獲得する。そして他のクラスがその後一斉に10点になる。ルールでは同時に10点になったら、延長戦、それでも決着がつかなければ、先にゲームを抜けていたクラスだけが勝ち抜ける。


 ルール説明の時に3クラスが勝ち抜けが決まった時の話だったから気づかなかったが、1クラスだけ先に勝ち抜けた場合、その1クラスだけ勝ち抜ける。つまり優勝。

 

 正直ここまで考えてなかった。普通1問でも間違えたりパスしたらその時点で負けるかもしれないなんて考えもしないだろう。


 だが、月影は考える。いや、考えた。そしてこれは想像だが、水無瀬も同じ事を考えているのだろう。


 僕達とは全く違う。それが勝負師なのだろう。


「じゃあ、どうするんだ? 勘で答えるのか?」


 月影の言いたい事は理解した。そしてパスも駄目だが、間違えるのはもっと駄目だ。


 そして答えが分からないのにどうするつもりだ?


「私がいつ、分からないと言ったかしら? こんなの常識よ。答えは2番の火星よ。因みのその山の名前はオリンポス山よ」

「オリンパス?」

「誰もカメラメーカーで有名な会社なんて言ってないわよ」

「オリンピア??」

「それはパチスロの会社の事を言っているの? それともギリシャの都市の事なの? どっちにしてもふざけないでくれる」

「オリンピック???」

「私にこれ以上突っ込みさせると殴るわよ」


 手をグーに握っている。思った以上に突っ込みを入れてくれたので少し調子に乗った。


 僕は紙に2と書き、前に紙を出した。


「さぁー時間です。答え発表。第一問目の答えは2番の火星です」


 疑っていた訳ではないが、本当に知っていたんだな。


「では、クラス毎の今の点数はこちらです」

 

 1組 1点

 2組 マイナス1点

 3組 0点

 4組 マイナス1点

 5組 1点

 6組 1点

 7組 1点

 8組 マイナス1点


 僕達のクラスの6組は正解したので勿論1点獲得。そして水無瀬のクラスの5組もお1点。他にも後2クラスが1点獲得。


「うーん。まだどこが勝つかわからないですね。さて第2問目」




 問題2 我が高等学校の校長先生の血液型は?


1 A型

2 B型

3 O型

4 AB型

5 その他


 校長先生の名前すら知れねえよ! 駄目元で姉ちゃんに聞いてみるか。


「なあ、姉ちゃん。校長先生って何型だ?」

「知らない~。これも興味もない~」

「だよな。月影は知っているのか?」

「知らないわ」

 

 転校生の月影が知っている訳ないか。


 てか自分の高校の校長先生の血液型を知っている生徒なんてこの日本に存在するのかさえ疑問だ。


 だが、これはかなりやばい展開だな。誰も答えをしらない。どうすればいい?


「でもさぁー。なんとなくA型っぽくない?」

「姉ちゃん、なんでそう思うんだ?」

「えー。だって校長先生って変態じゃない」

「うん。まず、変態だからA型だと思った事に関して全国のA型のみんなに謝ろう」


 失礼すぎるだろ。


「間違いないよ。全国の校長先生は変態だよ」

「次に校長先生=変態って思っている事に関して謝ろう」

「だってさぁー。校長先生って生徒に授業してはいけないんだよ~」


 そうなのか。確かに言われてみれば、たまに教頭先生とかには臨時で授業して貰った事とかはあるけど、校長先生にはないかもしれない。


「でもそれがどうした?」

「えー。先生だよ。先生になる人のほとんどは生徒に授業したくて、人に教えるのが好きだから先生目指すものじゃない。なのにさぁー。頑張って出世したら、自分の好きな事が出来なくなるんだよ。それなのに出世するなんて変態じゃん。それかドM。頑張って、頑張って自分の好きな事を出来なくするなんてドMだよね~」

「いや、え、そ、そうなのか? いやいや一瞬そうかもと思ってしまったけど、それはないだろ!」

「でもドMって事は変わらないよね~。だって、あんな面白くない話を堂々と長時間話すなんてドMだよね~。それともわざとつまらない話をして生徒が困っているのを見て楽しむドSなのかな~」

「何? 姉ちゃんは校長先生に恨みでもあるの? なんでそんな変態扱いするんだよ!」

「校長先生に恨み? そんなのないよ。だってそもそも興味すらないもん」

「それはそれで酷いな」


 でも普通はそんな感じだよな。校長のイメージなんて話が長いぐらいしか思いつかない。


 でも、真面目な話。さて、どうするか。


 流石にこれは推理しようがないよな。知らないのは知らない。どうする? 月影もじっと考えているようだ。


「あー。そっか。分かった~」


 姉ちゃんが不意に声を発した。


「うん? 何が分かった?」

「えっ!? ああ。ごめん。気になった事があってそれが分かっただけだから。全然関係ないのだけど、さっきの模擬ゲームの例題1の問題の選択肢。全部あの有名なテニスマンガの名前だってわかったの」

「うん。全く関係ないな」


 本当に姉ちゃんはマイペースだな。


「関係ない? ……そういえばあの時……。あの話……」


 なんか月影がぶつぶつ言っているがよくは聞こえない。


「だからあの時だけ言わなかったのね。という事は例題からの問題の答えの規則性にも一致するわね」

「おい、月影何ぶつぶつ言っているんだ?」

「この問題の答えは1番のA型よ」

「急になんで答えが分かった?」

「あなたに説明するなんて時間の無駄よ。てかあなたにそんな無駄な説明して無駄に二酸化炭素排出して地球を壊す事なんてできないわ。私は地球にやさしい女なのよ」

「僕にはやさしさゼロだよな!」

「あなたにやさしくして地球が救われるともしても私はあなたを虐めるわよ」

「そこは地球を救えよ」 


 僕を虐めて地球を救えないってどんな話だ。そもそも僕にやさしくして地球を救える訳もないけどな。


「1億円貰うかあなたを虐めるかなら1億円貰うけどね」

「地球よりも1億円の方が大事なのか!」

「勘違いしなでよね。あなたよりお金の方が大事なんだからね」

「何一つ勘違いしてない」


 これ以上話すと時間切れになりそうだな。雑談していて時間切れで負けるなんてオチ最悪だ。


 なんで1番のA型かは教えて貰えなかったが答えが1番だと言うならそれを信じる。


 少なくても月影は自信を持っている。僕はそれを信じる。こんな扱いだが、僕は月影を信じる。

 

 僕は紙に1番と書き、舞台近くの箱に入れた。


「はい。2問目も終了です。2問目の答えは1番のA型です。A型って事は変態ですね」


 なんで僕の姉ちゃんと同じ感性なのだろう。この先生個人的に校長先生に怨みでもあるのではないか。給料が低いと愚痴も言っていたぐらいだし。


「では、点数は現在、こんな感じです」


1組 1点

2組 マイナス1点

3組 0点

4組 マイナス1点

5組 2点

6組 2点

7組 2点

8組 マイナス2点


「1位のクラスは2点。最下位のクラスの8組は頑張って下さい。では第3問目です」


問題3 大人気ライトノベル、涼宮ハルヒの憂鬱でのハルヒの自己紹介。「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人……」と言うのは有名ですが、未来人に続くのは次のうち何?


1 超能力者

2 異世界人

3 地底人

4 執事

5 メイド


「なんで急にこんな問題なんだ!」


 この先生、見た目はキャリアウーマンみたいな感じなのに、実はこういうマンガとか好きなのか。


「これなら、わかる~」


 姉ちゃんがテンション高く飛び跳ねている。


 僕も一応この小説は読んでいる。よくは覚えてないが、この中からなら1番の超能力者じゃないのか。


「これは2番の異世界人だよね~」

「え? そうなのか?」


 あの小説で異世界人なんていたか? だが、姉ちゃんが記憶間違いなんて絶対ないから僕が間違っていたんだな。


「そうだよ~、何? まさかだけどようちゃん知らなかったの?」

「ああ。間違っていたみたいだ」


 有名なセリフではあるけど、詳細までは覚えてなかった。


「えっ!? 嘘……。間違えたの……?」

「なんでそんな意外そうな顔しているんだよ。知らないと駄目か?」

「駄目!」


 断言された。姉ちゃんが断言するなんて珍しい。


「いい。ようちゃん。もしもだよ。昔話の冒頭でむかしむかしと言った後続くのは何?」

「えー。あるところにおじいさんとおばあさんが……じゃないか」

「そうだよ! それがわかるのになんでこの問題はわからないのよ!」

「な、なんでそんなに怒られないといけないんだよ? それと昔話と同レベルなの?」

「昔話と同じ訳ないじゃない。何を言っているの?」

「そ、そうだよな。流石に同レベルとは言わない……」

「むしろ全然昔話よりも有名度高いよね」

「…………………………」

「どうしたの? ようちゃん、頭なんか抱えて、具合悪い?」

「な、なんでもない」

 

 昔話に失礼すぎる。


 だが、結局姉ちゃんの記憶は当てになる。と言う事は2番の異世界人で正解だろうが、月影はそれでいいのかな?


「月影はどう思っているんだ?」

「私も昔話よりも有名だと思うわよ」

「そんな事聞いてない!」

「じゃあ何を聞いたのよ? もしかして私があなたの事どう思っているか聞いたの?」

「それでもない! この問題の答えが2番でいいのか聞いているんだ」

 

 僕の事どう思っているのかも気になる。かなり気になるけど、どうせ罵倒されるだけだろうな。


「ああ。その事なら2番の異世界人で間違いないわ。因みにあなたの事は奴隷だと思っているわ」

「最後の一言はいらないよな!」


 でも2番で正解なのは間違いないようだ。僕は紙に2番と書き箱に入れた。


「はい。第3問目終了です。この問題は簡単でしたよね」


 いや、簡単なのだろうか?


「では、現在のクラス毎の点数はこうです」


1組 2点

2組 0点

3組 1点

4組 0点

5組 3点

6組 3点

7組 3点

8組 マイナス1点


 おいおい。全クラス正解しているぞ。どんな高校なんだよ。


「さて、では第4問目です」


問題4 私――荒川の一番好きな果物は次のうちどれ?


1 なし

2 りんご

3 すいか

4 いちご

5 バナナ 


 知らね~。


 そう思っていたのに、月影は1番と紙に書き、僕に渡して来た。


 自分で出しに行けよと心で思ったけど、言わなかった。いや、言えなかった。


「なー。なんでそんな簡単に答えが分かるんだよ?」


 一応また月影に聞いた。本当に不思議なのだ。


「バナナはおやつに入りますか? ってセリフあるけどあれはおかしいわよね」

「僕の質問、聞いていましたか?」

「そもそも、この問題もおかしいわよ。バナナは果物じゃなくて野菜なのよ」

「えっ!? そうなのか?」

「ええ。スイカが野菜ってのは有名だけどバナナも野菜なのよ。だからバナナはおやつに入るのかと訊くよりも、まず、バナナは果物に入りますかと聞くべきなのよ」


 それを聞くと、バナナはおやつじゃないよな。野菜がおやつって嫌だ。


「……ってそんな事聞きたいのではなく、なんで答えが分かるのか聞きたいんだよ」


 うっかり本当に聞きたい事を忘れる所だった。


「あら? てっきりうまく誤魔化せると思ったのに」

「どんだけ僕の事馬鹿にしているんだ」

 さっきの文は内緒だ。


「私も聞きたいな。お前は何故答えがわかるんだ?」

 この声、この男みたいな話し方、水無瀬だ。


「お前は急にしゃべりかけて来るな。びっくりするだろう」

「君に話している訳じゃない。月影に話しているのだ」


 この女、さっき少し良い人と思った自分を訂正したい。


「てか月影は教えてくれないぞ」


 仲間の僕にも教えてくれないんだ。敵の水無瀬なんかに教える訳ないよな。


「ただ私は問題文を見ただけよ」

「教えるんだ!?」


 なんか本当に泣きそうだな。教えるのが面倒なんかじゃなく、僕に教えるのが嫌なだけなのか。


 もういいや、教えてくれるならそれでいい。そうでも思わないとやってられない。


「問題文を見たってどういう意味だ?」

「そのままの意味よ。ただ、問題文の2番目の母音を気にしていただけよ」


 2番目の母音?


「2番目の母音って何だ?」


 僕は月影に聞いた。


「…………」

「僕の質問は無視か!」

「2番目の母音って何だ?」


 水無瀬が一言一句同じ言葉を言った。


「だからそのままの意味よ。問題文の2番目の文字を見ればいいのよ。例えるなら、問題1は『太陽系で一番高い山はどこの惑星にある?』だったでしょ。その問題文をローマ字に直したらTAIYOになるでしょ。その時に2回目に出てくる母音を気にすればいいのよ。今回の場合はIだから2番が答えよ」


 ねぇー。なんで仲間の僕を無視して水無瀬と話しているの? 


 僕の事どれだけ嫌いなの。心が折れる。でも気にしたら負けなのか。いや、何に負けるのか分からないが、少なくても勝ってはいないだろうな。


 それにしても解き方ややこしいな。じゃあ、問題2の『我が高等学校の校長先生の血液型は?』の場合はローマ字だとWAGAKOUTOUだから2番目の母音はAだから1番が答えなのか。確かに今までの問題(例題も含めて)はそれで合っている。だが、偶然かも知れない。何故月影はそんなに自信持っている?


「そんなの簡単よ。先生が最初に言っていたじゃない。2番目の母が大事だって」


 あ~。確かに最初の母より2番目の母が良かったみたいな重い話をしていたな。真面目に聞いてなかった。


「でもゲームと関係ないと言ってなかったか?」

「それはその前の看護師になりたかったとか、給料が低いとかの時には言っていたけどその、2番目の母親が大事の話の時は言わなかった。つまり言わなかったって事は関係あるのよ」


 そうだったか。そう言われるとその時だけ言ってなかったような。


「そんな無理する必要ないのよ。あなたのお粗末な記憶力じゃ覚えている訳ないじゃない」


 うん。実際覚えてないです。そんな細かい事まで覚えている訳ない。


 誰も覚えてないよと言いたいが、この月影は覚えていた。そんな些細な事まで。


 そしておそらくこの水無瀬も覚えているのだろう。だから頷いている。


「ふむ。なるほど。あの言葉にそんな意味が含まれていたのか」


 水無瀬は関心したように言葉を発した。


 でも少し疑問に思う事がある。この解き方の事ではなくこの水無瀬の態度にだ。


 何故関心しているんだ? 


 この水無瀬のクラスだって今まで間違ってなかった。全問正解だ。


 あの問題の難易度で。つまり少なくても水無瀬だって問題の答えが全部分かっていたはず。


 しかし、この関心した態度は演技ではなさそうだ。


 と言う事は別の方法で解いていたという事になるが他にどうやって解くんだ?


「何関心しているのかしら? あなただって今まで正解しているのだから、私と同じ方法で問題を解いていたのでしょ?」


 月影も僕と同じ考えを浮かべていたらしい。その言葉に水無瀬は馬鹿にした感じに笑った。


「いいや。違う」


 そしてこう続けた。


「私はそんな事必要ない。私は未来が見える。一種の超能力だ」


 未来が見える? そう言ったのか、この水無瀬。


 いやいや、ありないだろう。この世界に超能力なんてあるはずがない。


 それも未来予知なんか絶対にできない。


 理事長とか月影と話していると、僕の心が読まれている感じになる時はある。


 だがそれは超能力なんかでは決して無い。手品だって何も知らない人から見たら、超能力みたいな感じだろうが、実際にタネがある。それと同じみたいな物だ。


「あなた中二病なのね」


 流石、月影。言いにくい事をズバッと言うな。


「あんなものと一緒にするな!」

「いや、だけど正直未来が見えるってありないだろう」

「信じられないのは無理はないが、本当の事だ」


「無理だろ」と僕。


「無理よ」と月影。


「無理だよ~」と姉ちゃん。


 3人声が合わさった訳ではないが、思っている事は一緒だ、


「なら証拠を見せよう」

「証拠?」

「ああ。月影が言っていたのだと、問題が出ないと答えが分からない。だが、私の未来予知なら全部の答えが分かる。今回の問題の答えは1番だろ。次の第5問目は3番だ。続いて2番、4番、2番、1番、そして第10問目は1番だ」


 このゲームが終わる頃には分かるだろう。私が未来を見えるって事がな。と言いながら去って行った。


 悪役みたいな人だ。悪の女王様が似合う。

 

 でも確かにもし水無瀬の言う通りの答えだったなら、勘がするどいと言うレベルじゃない。


 確率的に絶対にありえないぐらいの確率だ。無理だ。


 だがもし、もしもだが、水無瀬の言った通りになったなら信じるしかないのか。未来予知と言う超能力を。


「おい。月影。どう思う?」

「はったりよ。……ありないわよ」


 少し元気ないと言うか自信がない感じだ。はったりじゃない事を少なからず感じているのだろう。


 その予想は悪い事に当たってしまう。





「問題10の答えは1番の一億五千六百八十万四千円でした。これ、私よく思うのですけど、借金が1億5千万って言っていますけど、六百万も結構な額ですよね。どうでもいいですけど。じゃあ結果は次の通りですね」


1組 9点

2組 7点

3組 8点

4組 7点

5組 10点

6組 10点

7組 10点

8組 6点


「これで5組、6組、7組の勝ち抜けが決まりました。さて、では残り1枠を賭けて第11問目です」


 無事、僕達のクラスの勝ち抜けは決まった。他のクラスも僕や水無瀬の話を聞いていたのだろう。第4問目から間違える事はなかった。


 いや、無事じゃないのか。水無瀬が言っていた通りの答えだった。


 第5問目の答えから連続6問正解。


 確率的には何万分の一の確率。


 勘では不可能だろ。


 そう……未来が見えてでもいない限り。

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