第4話 カフェでの作戦会議

 クラス対抗ゲームが明後日と迫った4月25日水曜日。

 

 そのクラス対抗ゲームで優勝するための作戦会議と言う事で僕達は学校帰りにファミレスに寄る事になった。

 

 僕のクラス代表の3名は僕と月影と後一人……。


「ほら~。早く行くよ~。ようちゃんに月影ちゃん」


 僕の姉である。


 元々あんまり出たがる人が少ない行事である。他のクラスは出る人を3人も選ぶのにとても苦労したあげく、クラス委員長などが渋々出るぐらいだ。


 その理由の一つはクラス替えが無い事。そして去年も全く同じ行事をした。

 

 その時、あるクラスの代表が強すぎた事である。

 

 他を圧倒する形で優勝したのだ。


 今回もそのクラスが優勝する可能性は極めて高い。てかほぼ間違いないとみんな思っている。

 

 そんな必ず負ける勝負をしたい人は少ないだろ。

 

 理由の二つ目。これが大部分を占めているのだが。


 負けたら罰ゲームがあるのだ。負けると言っても優勝しなければって意味じゃない。

 

 まず、僕達の学校は1学年8クラスある。

 

 そのうち下位4クラスの代表が罰ゲームを受けることになる。つまり半分が罰を受けるのだが。

 

 その罰ゲームの内容は学校の掃除をすると言う事である。


 しかし、どの学年も同じ行事をするので、1学年につき4クラス。3学年で12クラスの代表者――つまり12×3=36人。


 このほぼ1クラスの人数で学校全体を掃除するのだからかなりきついものがある。

 

 しかもやる日がGW。僕の学校はGWは休みだ。間の平日も何かと理由をつけて休みである。


 つまり10連休ぐらい毎年あるのだが、その半分とは言わないがそれに近い日が掃除で潰れる。


 ただ、学校行事で負けただけなのに。


 まぁー勝ったらか何かしらの景品はあるのだが、それにしても負けた時のリスクが高すぎる。だから出る人がいない。


 本当にゲームが好きな人か、本気で将来勝負師を目指している人ぐらいしかよろこんで参加しない行事である。


 だが、ゲームを観戦するのはとても面白く、応援などはとても盛り上がる。この行事がなくなる事はないだろう。

 

 こういう理由があり、僕のクラスも出てくれる人がいなく、仕方なく姉ちゃんになってしまった。


 姉ちゃんは最初からやる気満々だったのだが、僕としてはもっと他の頼りになる人が良かった。


「いらっしゃいませ~。何名様ですか?」

 

 カフェに到着して同じ年ぐらいの女子店員が笑顔で接客をしてきた。そして月影が前に出て僕達の人数を告げる。


「2名と1匹です」

「おい、月影。誰が1匹だ?」


 いきなり酷すぎる。


「はい。かしこまりました。2名様と1匹様ですね。禁煙席と喫煙席どちらになさいますか?」

「店員さん、おかしくないですか? 1匹様って何ですか?」


 この店員も酷すぎる。


「間違えたわ。2名と1個よ」

「動物でもなくなった!」

「はい。2名様と1個様ですね。禁煙席と――」

「あんたも店員なんだから少しは客を敬え!」

「もう我侭ね。わかったわ。店員さん。2名です」

「ついに僕消滅したよ!」

「はい。2名様ですね。禁煙席――」

「店員が客の事無視は絶対にやってはならない事ですよね」


 何? この月影と店員のコンビ? こいつら初対面じゃないの? 


「では、ご注文がお決まりになりましたら、そちらのブザーを――」


 やっと席に案内してもらった。この店員も見た目は普通と言うか少し可愛いぐらいなのにすごく残念だ。


「私まで持ってきてください」

「嫌だよ!」


 もう2度このカフェには来ない。そう誓った。


 さて、ここで作戦会議をするのだから、何か注文しないと駄目だな。


 そう思いメニューに目を通す。姉ちゃんもメニューを見ながら目を輝かせている。


「すごいよ~。おいしそうなデザートがいっぱいだよ~」


 確かにパフェとかケーキとか他の店に比べてかなり種類が豊富のようだ。

「う~ん。種類いっぱいで迷うよ~」


 姉ちゃんはメニューにかじり付いている。


「それにしても、月影よくついて来たな?」


 僕はメニューに目を通しながら素直に思った事を言った。正直こういう場所で作戦

会議とか言っても「めんどうよ」とか言って断るイメージがある。


「確かにめんどうだけど、去年のゲームについても聞きたいことが無い訳じゃないし、それに……」


 一旦言葉が止まった。そして目を僕から逸らす。

 

 まさか、僕と放課後一緒に居たかったとか。


「それに……なんだよ?」

「カフェで奢ってもらうのもいいかなと思ったのよ」

「誰が奢ると言った!?」


 僕から目を逸らしたのではなく、メニューに目をやったのか。


「え~。ようちゃん、ごちそうしてくれないの?」

「姉ちゃんまで何言っている?」


 何? 


 この姉は僕に奢らせる気だったの? 


 弟だよ僕。


「お姉ちゃん、今お金20円しか持ってないよ~」

「私なんて財布を持ってないわ」

「なんでお前達カフェに来た!?」


 高校生なのだから、財布ぐらいは持ち歩けよ。


「あっ! 少し間違えたわ。あなたの財布なら今持っているわ」


 月影の手に確かに僕の財布らしき物が握られている。


 あわてて、制服のポケットを探すが見当たらない。いつ取られたの? 


「わ~い。これで好きな物頼めるね」

「そうね」


 もういいや。まぁー。そもそも多少、女の子とこういう店に来たら男が払った方がいいかなとか考えたりもした。


 したけど、まさか強制的に払う事になるとは思わなかった。


「私このいちごがいっぱい乗っているケーキとメロンクリームソーダにする~」

「私はこのマロンケーキと紅茶でいいわ。ほらあなたも何か頼みなさいよ。私がこの財布で会計してあげるから」

「僕の財布だけどね」


 でも、別にこれと言って食べたい物はなかったのでコーヒーだけ頼んだ。(多少お金がない事もあったが)


 ブザーを押したらさっきの店員が注文を取りに来たので僕がみんなの分を注文した。


「ご注文繰り返します。いちごのケーキとマロンケーキとメロンクリームソーダと紅茶とコーヒーとデラックスパフェですね」

「いや、デラックスパフェは注文していないですけど」

「デラックスパフェは私が食べます」

「なんで店員さんの分が入っているんだ!」

「えっ!? 私にはごちそうしてくれないのですか?」

「なんでそんな意外そうな顔なんだよ!」

「失礼ながらお客様は変態さんかと。女の子に虐められてよろこぶタイプかと思いまして少しでもお客様もとい変態さんに楽しんで貰おうと思いました。店員の鏡ですね」

「客を変態扱いするな!」

 

 こんな店員クビにしろよ。


「とにかくパフェはいらないです」

「はいはい! 分かりました!」

「なんで切れているんだよ!」


 はぁー。泣きそう。


 暫くすると、ケーキと飲み物が運ばれてきた。


「――以上でご注文の品おそろいですね」


 何もしなければ普通の店員なのにこの人。


「では電灯の方こちらに置いときます」

「それは迷惑だ! 伝票を置いてくれ」


 てか「でん」しか合ってないし!


「では電卓の方をこちらに置いときます」

「何を計算すればいいんだ?」

「では電話の方をこちらに置いときます」

「誰に電話すればいいの?」

「何かありましたら、この電話で私に連絡して下さい」

「しねえよ!」

「では――」

「もう普通に伝票置いてくれ」

「では伝票をここに……」

「どうした?」

「この円筒を斜めに切った伝票いれるやつの名前は何と言うのかなと思いました」

「しらねえよ! なんで今気にした? さっさと伝票置いて行け!」

 

 てか、そう言われるとかなり気になる。家に帰ってから調べるか。


「はい。では伝票はここに。ごゆっくりします」

「お前はするな!」


 姉ちゃんと月影がケーキも食べ終わり、一息ついて今日の本題に入った。


「さてそれで、一応去年のゲームについてだけど」


 僕は去年のゲームについて覚えている限り話し始めた。


「去年の感じだと、まず第1回戦で8クラス同時にゲームをして4クラス勝ち抜けだったぞ。そして準決勝からは1クラス対1クラスで戦うはずだ。そして勝った2クラスが決勝戦だ」


 つまり、第1ゲームで勝てば罰ゲーム(学校の掃除)は免れる。


「それで、どんなゲームで勝負したのかしら?」


 月影が素直に僕に聞いてきた。


「第1ゲームは『宝探し』全クラスに暗号文を配って、その暗号文を解いて宝を探す。第2ゲームと言うか準決勝は戦うクラス同士で自由に決めたゲーム。そして決勝戦は3人の内誰が嘘吐きか見抜くゲームだった」

 

 そして僕はもう少しその時のゲームについて月影に話した。

 

 僕が話せると言うか覚えている限り、詳細に話した後、ふと隣に座っていた姉ちゃんを見た。


「すぴー」


 寝てるし! 僕の姉ちゃんは何しに来たんだよ? 


 まぁー気にせず姉ちゃんは無視しておこう。


「まぁーあなたのお粗末な記憶だからあんまり信用できないけど、その話だと代表3人と言っても結局1人強い人がいれば勝てる感じなのね」


 お粗末な記憶は反論したいが、こいつに比べてらお粗末の可能性が高いから何も言わない。


 そして強い奴が一人いれば勝てるのはその通りである。


 去年優勝したクラスも一人、ただ一人かなりすごい奴がいた。それだけだ。

 


 そいつは5組の水無瀬美保。(因みに僕達は6組だ)


 ポニーテールが似合うかなり美人。だが僕の姉と違い、男女に人気がある訳じゃない。なんと言うかあまり友人が居る訳ではなさそう。


 空気が違う。簡単に近づける雰囲気ではない。


 でも一人だけその水無瀬に懐いている子がいたような気もする。

 

 そして水無瀬のすごい所は相手の嘘を見抜くのがずば抜けてすごい。理事長も出来る事だが、この水無瀬も負けていない。


 目線、汗の量、声のトーン、匂い、口臭、体勢、その他色々とあるのだろうが、それらを全部合わせて相手の心――嘘を見抜く。

 

 だが、理事長は言っていた。


「あの水無瀬ちゃん。あの歳であれだけ人の心を見抜く事が出来るなんて……どれだけ不幸な人生だったのかしら、可哀想ね」


 よく分からなかった。何故人の嘘を見破る事が出来る事が不幸なのか、理事長はそれ以上語らなかった。


「で? 月影。多分優勝するためには水無瀬に勝たなくてはならないが、どうだ勝てるのか?」

「愚問ね。私は絶対に負けないわ」


 愚問と言う言葉を僕はリアルで初めて聞いた。


「…………負ける訳にはいかないのよ」


 何かものすごい小さい声で呟いた気がした。


「うん? 何か言ったか?」

「あなたはみたいな馬鹿は愚問と言う言葉を知らないでしょと言ったのよ」

「知っているよ!」

「あなたは愚問の事を「グットモーニング」の略だと思っている馬鹿でしょ」

「そんな愉快な勘違いはしていない!」


 朝の挨拶にみんなが愚問、愚問と言っている国とか嫌だ!

「まあいい。なら質問あるか?」

「あなたにする質問なんて……一つあるわ」


 おっ! 言ってみたけど、どうせ質問なんてある訳ないと思っていたのだが。


「紅茶お代わりしてもいいかしら?」


 そう言ったと同時に店員を呼び、紅茶をお代わりした。

 今月のおこづかいピンチだな

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