三階層と嘘

27話 皐月視点

 私は、珍しく二日酔いで目を覚ました。

 ああ、昨日葛城くんと4回もしたからか。水分不足で飲みすぎちゃった。

 壊れちゃう、なんて本心で言ったの初めてだったな。……いや、今は昨日のことを思い出すのはやめよう。

 私は葛城くんを騙している。きっと真実がわかれば、私のことを許してくれないだろう。


 好きだって、認めたくなかったな。


 あくまでも作家として、強いて言うなら暁最前戦の作者として、気を引かれてるだけ。

 そんな予防線を張り続けてた。


 美希はきっと、葛城くんが初恋だ。幼い恋愛ならあるかもしれないけど、大人の恋は間違いなく、ない。

 だって何度も私が2人きりにしても、何も進展しないんだもん。


 私は美希が可愛くて仕方ない。あんなに良い子、世界中どこ探したっていないよ。

 なのに私は、美希のためといいながら、美希を裏切る理由を美希に押し付けて、自分のしたいようにしてるんだ。


 姉さんごっこしてたって、美希の優しさには敵わない。甘えてるのは、私の方だ。

 だから、ちょっと刺激するだけのつもりだった。美希に、早く私の前から葛城くんを取り上げて欲しかった。自分じゃもう、離れられなかったから。

 なのに。


「皐月が死なないと書けない小説なんて、俺は書きたくない」


 か。

 よくあんな恥ずかしいこと、目を見てはっきり言えるよね。

 いや、葛城くんにとっては当たり前なのかもしれない。彼は、人生経験も浅く、あらゆる面に甘えている。環境にも、山田さんにも、私たちにも、自分の才能にも。

 それでいて、自覚がない。


 私が山田さんに担当編集になってもらう条件は、三階層クリアではない。


「関係を築いた頃合いを見て、ダンジョンの中で、葛城さんの目の前で死んでください」


 私はすぐに了承した。葛城くんと出会う前だったし、なんなら楽しみだな、とすら思っていた。


 私は、作品が完成さえ出来ればそれでいい。

 あとは山田さんに任せてしまえば、必ず代理で完成させてくれる。


 葛城くんは、俺のエゴで死んでほしくないんだと言った。暁最前戦が完成しなくてもいいと。


 そんなものは、エゴとは言わない。

 私は、自分のエゴで作品のために葛城くんを裏切る。そして、その上で、暁最前戦の完成を望んでいる。それが例え、葛城くんをどれだけ悲しませたとしても。


 最低だ。でも、どれだけ自己嫌悪しても、葛城くんのことも、美希のことも、作品のことも、選びきれない。


 結局私は、いつだって自分が可愛いんだ。


 ……はあ、水飲んでこよ。酒鬱も相まって、ウジウジが酷い。


 キッチンに向かおうと体を起こした。

 2人を起こさないようにゆっくりと。すると、掛け布団の中で、巨大なテントが貼られていた。


「……っぷ…くくっ」


 手で口をおさえた。笑いが込み上げてくる。

 なにこれ?朝勃ち?

 たまにしてるの見たことあるけど、今日の大きさは異常すぎる。昨日4回もしたのに、なんでもっと大きくなってるの?


「皐月姉……? どしたの〜」


 可愛い妹が私の笑い声で目覚めて体を起こし、目を擦った。


「こ、これ……みて」


 私は指をさした。巨大なバベルの塔を。


「え、なにこれ。2リットルペットボトル挟んでる?」


「ちょ、やめて、もう、っくくく」


 私は自分の口を両手でおさえた。今日はきっと三階層に向かう。葛城くんが寝不足になるのはよくない。彼が先に死んだら、シナリオが台無しだ。4階以降に行くのを彼は拒むだろう。なら、私は今日死なないといけない。


「えー! これ、もしかして、ちんちん?」


 美希が小声で笑いながら言った。ちょんちょんと指で押している。美希は私が山田さんから受けている指令をしらない。


「そう。やばすぎない? こんなのエロ同人でも書かないよ」


「すっご。こんなにおっきかったっけ?」


「いや、さすがにこれは葛城自己ベスト超えてるはず」


 私も一緒に指でつんつんした。ビクンビクン動いていて、まるで別の生き物みたいだ。


「皐月姉、笑わせないでよ」


 美希も片手で口を塞いだ。


「だって、これ」


 つんつんつんつんつんつん。2人でずっとつついては笑ってしまう。


「え、まってみて! なんかやばそ……あ!」


 ビクンビクン!!

 ビクンビクン!! 


「っひーーーーーー」


「うわあ、初めてみた!! 皐月姉がつんつんしすぎるからぁ」


「美希もツンツンしてたじゃん」


 美希もおかしすぎて涙目になっていた。

 テントの先端が色濃く染みていく。そのまましなしなと力を失うかと思いきや、なんとテントは張り続けたままだった。


「あーーっはっはっはっ!! もー、無理!! なんでおっきいままなのよ!!」


「っぶーーー!!」


 堪えきれず声を出して大笑いした。美希も吹き出して笑い出した。


「んん? どーしたぁ、2人とも笑って……なんか冷たいな。まさか、俺お漏らしした?!」


 ガバっと起き上がると、自分の股間に頭をぶつけて「痛っ」と言った。

 もう私と美希は腹がちぎれるくらい笑った。

 原因に気づいて恥ずかしがる葛城くんのパンツを無理やりぬがして洗ってあげた。惨めだろうからね、夢精パンツを女の子の前で洗うなんて。

 美希が私も一緒に入って洗ってあげよーかー?と朝風呂に向かった葛城くんに声をかけ、からかった。

 あんなに気に病んでたのに、気づけば朝からちんちんをみて爆笑している。もっと2人と一緒に過ごしたかったな。でも、やっと踏ん切りがついた。

 美希と葛城くんが付き合って、私は作品を完成させる。それがベスト。


 うん、死ぬには良い日だ。

 2人に出会えて、本当によかった。

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