24話

「「ただいまー」」


「いや俺んちだが」


「むしろ私たちの家みたいなところある」


「その可能性のが高いね」


「いつも自分の家に住まわせて頂いてます」


「わかれば宜しい。着替えちゃお〜」


「あんまジロジロみないでね?」


「ごちそうさまです」


「キモ」


 そのキモも、ごちそうさまです。

 俺の目の前で2人がポイポイ着替え出した。1Rでよかった。わざわざ激狭ユニットバスで2人で着替えるのも面倒になったようだ。

 最初は焦ったが慣れた。慣れてしっかりエロい目で見れるようになった。


 着替え終わってもぴったり体のラインのわかるTシャツに、グレーの、かの有名なホットパンツを履いているので、エロいことには代わりはありません。現場からは以上です。


「ぷはー! 家で飲むビールが1番美味い」


 皐月、良い飲みっぷりだ。


「1番美味いビール、ありすぎ説」


 いいながら俺も缶をあけた。


「わかる」


「私適当につまみ作るね」


「あざす〜」


「美希シェフ〜!」


 美希が冷蔵庫とキッチンに向かった。といっても1Rなので、同じ部屋の中だが。

 その間に皐月はメイクを落としている。


 しょっちゅうくるので、冷蔵庫の中身もほぼ美希が管理しているようなもんだ。

 きゅうりの梅肉和えと、だし巻き卵を作って出してくれた。


「天才!」


「もっと褒めて」


「みてこの卵の光沢」


「さぞかし良い餌を食べて育ったんだろうな。もしや鶏じゃなくてガチョウなのでは」


「いやスーパーの1番安いやつだよ」


「なんと!! シェフの腕か」


「えっへん!」


 いつものようにくだらない会話を続けるが、そろそろ切り出さなくては。

 美希もメイク落としシートを終えたあたりで、切り出した。


「……あのさ。2人に謝らないといけないことがあって」


「え、なに」


「こわいこわい、今まで謝らなきゃいけないはずなのに謝って来ないこと山ほどあるのに」


 そうなの?! 

 どれ? 謝るよ?!


「俺修行してきたじゃん? その時に師匠から、ダンジョンの知識きいちゃった」


「あらら。じゃあ敵の数が倍か」


知ってたか。そりゃそうか、皐月があれだけのヒット作を見てないわけがない。勉強家だからな。


「ごめんな。相当俺も強くなったはずだから、全部倒すつもりではいるけど」


「それならいいよー」


「私たちとりあえず走り回っとくね」


「いざとなれば戦うし」


「怒らないのか?」


「全然。仕方ないじゃん、聞いちゃったもんは」


「それより気絶するような修行ずっと続けられたの凄いよ。どれくらい強くなったの?」


 菩薩のようなおなごたちだ……

 俺なら3時間くらい文句言って、ことあるごとに引き合いに出してエロいことを要求する。


「そういえば、問答無用先生との組み手ばっかだったからな。よくわかってない」


「ちょいまち。今さらっと問答無用先生って言った? クリエイターズダンジョンの作者の?」


「え、うん」


「レジェンド漫画家じゃないの! 一体どうやって知り合っ……山田さんか」


「山田さんもうドラうぇもんだね」


「誰が伸び汰や。あの人武道家だったんよ。素手で10階までクリアしたって」


「それは流石に盛ってるでしょ」


「いや、会えばわかるけど、盛ってないよ。ドラゴンとかもチョップで全然倒せると思う」


「本当にー? じゃあ葛城くんも凄い強くなってるかもね。りんごとか潰してみたら?」


「りんごあるよ、はい」


「お、サンキュー」


 グシャ!


 片手で持ち、軽く力を入れただけで砕けるように潰れてしまった。


「おおー」


 俺は自分の手の中で圧縮されたりんごみてつぶやいた。


「おおーじゃ済まないでしょ?!」


「すごーい!」


「寝返り打ったりしたら私達死んじゃうんじゃ……」


「ボディビルダーと同棲してる女の子とかも死んでないから大丈夫なんじゃない?」


 美希の着眼点、Outstagramer.


「修行中に泊まりに2人とも来てたけど、怪我すらしてなかったから、多分平気」


「そっか、なら大丈夫か」


 しかし、今試しておいたのは正解だった。

 ハイタッチなぞしたら手首の骨砕くところだった。まさか問答無用修行がこれほどまでとは……


「これなら倒せそうだね。もう明日にでも行く?」


「私たちも修行したほうがいいかな?」


「いや、絶対無理だと思う。女の子がノリでやることじゃない」


 問答無用先生は女性だけど。いや、女性とかそういう次元にいないかあの人は。


「一応作戦は考えた」


「なになに?」


「この前俺だけ先に入れたし、2人とも後から入れたじゃん?」


「うん」


「だから全装備俺がして、先に倒してから2人に入ってもらう」


「なるほどね! 盾もあれば急な攻撃にも対応できるし」


「良い作戦だけど、凌くん1人にして大丈夫かな?」


「それは平気。2人を守りながら戦うほうが難しいから。倍敵がいるし」


「それでいこっか。葛城くん、最近別人のように頼りになる感じするし」


「うんうん、実際りんごも片手でグシャ!だもんね」


「よかった、これで2人を危険な目に会わせなくて済む」


「凌王子ぃ!」


 美希がピタッとくっついてきた。

 それを見て皐月も無言でくっついてきた。


「どうした?」


 なんのサービスだ?


「なんでもなーい」


「なーい」


 んふ、強くなってよかった。きっと筋肉だ。筋肉は全てを解決する。


「じゃあ明日のダンジョンに備えて寝るか」


「明日は私打ち合わせがあるの、ごめん」


「お、そうなんか。じゃあ明後日だね」


「じゃあ葛城くんと遊びにいっちゃおー」


 美希が俺の腕を引っ張り言った。

 どういう風の吹き回しだ?


「えー、いいなあいいなあ! 私とも行ってくれるよね?」


「もち」


「約束だからねー!」


 美希がそういうと、皐月はなぜか満足そうにしていた。2人に引っ張られながら眠りについた。

 マーフィーの法則(おこりうることはおこる)的に寝返りで殺してしまうかもと心配だったが、無事朝を迎えられた。

 順番に風呂に入り、近場の喫茶店でモーニングを3人で食べた。俺と皐月はコーヒー、美希はミルクティーだ。


「コーヒーおいしい?」


「うん、朝はコーヒーに限るよ」


「私も飲んでみようかな。小学2年生の時にパパの飲んで、吹き出してから飲んでないの」


「試してみる? はい」


俺がコーヒーをズイと机の上で押して進めた。


「え、え、間接キスだよ?」


「今更?! いつも居酒屋でしてるじゃん」


「朝と夜は、なんか違うの! 皐月姉の頂戴」


「これは先が思いやられる」


 皐月、なんの先を思いやってるの?


 モーニングを終えると、打ち合わせに向かう美希を駅まで見送った。

 当たり前だが皐月と2人きりになってしまった。


 緊張する。


 そういえば長時間2人きりになるの、もしかしてお風呂ぶりか?

 美希が先に家に来たり、飲みに行くことはあっても、皐月とはあれ以来なぜかなかった。


「2人きりなの、久しぶりだね!」


「な、お風呂ぶり」


「言わなくて良いから」


 目を伏せて皐月が笑った。

 あれ?! 

 なんかいつもより表情が柔らかいぞ?


「何する? 映画でも見る?」


「お、いいアイデア。私ちょうど見たいのあったんだ。はい、手」


「??」


俺は犬のようにお手をした。


「違くて、こう」


 !? 指と指が一本一本挟まり、絡み合った。恋人繋ぎってやつだ。


「エロ」


「どこがよ!」


 尻を蹴られた。もう少し強くお願いしたいところだ。こうして、皐月とのデート(?)が始まった。

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