束の間の日常

23話

「修行達成を祝して」


「「「「かんぱーい!」」」」


 皐月、美希、山田さんと、いつもの居酒屋で久しぶりに集まった。山田さんも参加してくれるのは、前回ぶりだ。


 今回は俺の隣に皐月、山田さんの隣に美希が座っている。前回の反省を活かし、泥酔しすぎないように飲むとのことだ。


「あの過酷な修行を一部終えるなんて、見直しましたよ葛城先生」


「いやあ、大変でした」


 顔が美少女じゃなければ無理だった。


「そんなにキツい修行をする方なんですか?」


 美希が唐揚げにレモンを絞りながら言った。


「ええ。気絶するまで追い込みますからね。正直1日でバックれると思ってました」


「皐月と美希をこれ以上危険な目に合わせたくないんで」


「かっこいいこというねー! てゆうか、なんか最近本当にかっこよくなってない?」


「わかる、私も思ってた」


「体つきががっちりして、肌が綺麗になりましたよね。若返ってます」


「先生と生活して汗を流していたので、それのおかげかもです」


「髪も伸びて、逆に前髪分けられるようになってるもんね」


「そういえばそうだな、前は目にかかるくらいで切りに行ってたから」


「そっちのがいいよ! セクシーな感じでてる」


「私も今の髪型好き!」


「モテ期か〜? そうしちゃうぞ〜」


「葛城先生、ずっとモテてますけど」


「え?」


 何言ってんだ、モテてるのは山田さんだろ。


「気づいてないんですね」


「アホなんです。なのによく暁最前戦ではあんなに鋭い人間描写ができるなあと思いますよ」


「なに、俺モテてるの? 誰に?」


「家の裏の猪と熊にだよ」


「なんだ、人じゃないのか」


 がっかりだ。というか裏に猪と熊が出るんだ、気をつけよう。東京とはいえここは田舎だからな。


「そういえば、飲んだ薬の効果なんだったの?」


「あー、あれね。なんとなーく思いつく話あるじゃん? それを自動でプロットにしてくれるやつだった。使えないよ」


「どこが?! 超使えるじゃん、逆になんで使えないと思ってるの?」


「俺いつも頭からお尻までほぼ一気に書き上げるのと、書きながら続き思い浮かべるからさ。最初に思いついたプロットの通りに全く進まないの」


「はあ? 素人みたいなこと言うのやめなよ。プロットが完成しないと担当編集に見せられないじゃん」


「皐月先生、葛城先生はまだ一次落ちの素人ですよ」


「そうだった……忘れてた」


「私も、もうとっくにデビューしてるような気がしてた」


 え? 

 ワナビーですよ?


「ちなみに、プロットは見せてもらったことありません。突然完成品がきます。編集指示は曲解されます」


「葛城くん、山田さんにいつ刺されても文句言えないよ」


「そんな女の敵みたいに言うなよ」


「……ぶっとばすぞ?」


 突然皐月が殺意の波動に目覚めた。女の子守るために修行してるのに、敵な訳ないのに何故?!


「そうだそうだー!」


 美希まで賛同して俺の口にしぼったレモンをいれてきた。美味しい。


「葛城先生、暁最前戦の前に別作品で小さいコンテストを取りに行きませんか? 前回編集頂いた過去の三作品でも、テーマが合えば大賞を受賞できると思います。佳作はまず入るでしょう」


「え、あの三つも面白いんですか? ボツ扱いなのと」


「とんでもないです、下手したら過去200作、全て受賞してもおかしくありません。当然第三者メガネで編集すれば、ですが」


「マジですか? そしたら賞金でバイトしなくて済むかもなあ」


「プロになると出せなくなる賞も多くありますし。よければこちらで合うものを調べて、出しておきますよ。暁最前戦の爆弾力を高めたいので、大手の新人賞には出せませんが」


「んー、悩みますね」


「一体何を悩むの? デメリットないじゃん」


「いや、あれもまだまだ完成してなくて。一押しじゃないからこだわりもそこまでないんだけどね」


「はぁ〜、山田さんをマネージャーのようによく扱えるねあんた」


「いいじゃん、やってくれるって言うんだから」


「これも仕事ですから」


「ほら」


「山田さんが仕事してくれるってところに意味があるの! もういい」


 拗ねてしまった。つかいっぱしりしてる時間があれば、自分の担当になってくれということだろうか。

 能力が足りないから皐月の担当を断っているわけじゃないのはわかってるはずなんだけどな。


「皐月先生に俺は必要ないと思うんですけどねえ」


「そんなことないです! 3階層クリアしたら、約束ですからね」


「ええ、約束は守ります」


 そういえば山田さん、罪悪感とかないのだろうか。女の子を死ぬかもしれないダンジョンに向かわせるなんて。いや、クリエイターという生き物は、命よりも作品を優先してしまうことを、職業柄わかってしまっているだけか。

 仮に俺が危ないからもうダンジョンに行くのはやめようといっても、2人とも聞いてくれないだろう。


「あ! タイミング最高!」


 美希がスマホにきたメールをみて1人ごちた。


「どうしたの?」


「へへーん。みんな注目!」


「お、もしかしてアレ?」


「うん!」


「どぅるるるるるるる」


 皐月が口でドラムロールを始めた。


「でん!」


「私、映画脚本デビューします!」


「え、マジで?! おめでとう!」


「おめでとうございます!」


「ありがと〜! 皐月姉に振ってもらった仕事だったんだけど、とんとん拍子でね。今情報解禁されたよー。完成は先だと思うけど、試写会招待するから来てね!」 


「おめでとう美希。あ、私も原画展やることになったから、みんなよければ来て」


「え、絶対いくー!!」


 すげーオマケみたいに原画展の話するじゃん。漫画家の人生の目標レベルのことなのに。美希も知らない間にどんどん成長しているし、俺置いてかれてるのかも。いや、そもそもステージが違うのか。


「凄いな、2人とも。……どんどん差が開かれていく」


「むしろアマチュアでこの環境にいれる葛城くんのラッキーさのが凄いよ」


 俺運がいいんだ、知らなかった。ラッキー。


「賞、だしていいですよね?」


 山田さんが釘を刺すように言った。これはもう逃げ場がないな。みんなと一緒にいるためにも、何者かにならないといけない気がした。


「わかりました、お願いします」


「承りました。皐月先生、美希先生、ありがとうございます。お二人のお祝いも兼ねて、今日は奢ります、好きなだけ飲んでください」


「やったー!」


「メガハイボール、4つくださーい!」


 宴は二次会まで続き、久々の楽しい夜となった。なんと二次会に山田さんもついてきてくれた。少しずつだけど、俺も前に進めているのかもしれない。 

 三次会として、いつもの流れで3人で俺の家で飲むことになった。そういえば俺酒強くなってるな。筋肉が代謝してるのだろうか。まさか……毒キノコ修行?


 いやいや、そんなことより、あのことを2人に伝えなくては……

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