22話
「ゆくぞ! 一撃バラバラ殺人拳!」
「ぐぅぅううう、ぐあー!!!」
俺はまた吹き飛ばされ、意識が遠のいていく。
「ぷはぁ!」
水をかけられ、生還したようだ。問答無用先生が眉を顰めて覗き込んでいる。何度もみた景色だ。
「ぬぅ、惜しいのう」
「すみません、なかなか習得できず。この調子じゃ3階層のクリアは夢のまた夢だ」
おれは悔しさで膝を叩いた。美希と皐月を待たせてるというのに。いうて週2〜3で飲みに行ったり泊まりに来て遊んでいるが。
「ん? 3階層なら今のお主でも余裕じゃろうて」
「……今なんと?」
「3階層なら余裕じゃ」
「ええええええええええええええ!! 言ってくださいよ!!」
「3階層目標ってワシ聞いとらんし」
「誇張抜きに30回は言ってます!!」
「がはは、では修行はもうよいじゃろう。葛城坊はあくまでも小説家。武道家ではないからのう」
道場に爽やかな風が吹いた。虹色の帯が手渡される。卒業証書を授与されるように、丁寧に受け取った。これで俺も地球を愛する者の仲間入りってなんでやねん。
「問答無用先生……ありがとうございました!」
「うむ! まあ、ダンジョンの武器は知っての通り特攻じゃからの。適当に振っても敵を切り裂く。盾も筋力がなくても持てる。今のお主が使えば、1対1で負けることはない。がはは!」
「そうなんですね、初耳です。どおりで女性でも扱えるわけだ」
「え? 初耳じゃと?」
「はい」
「それは、まずいのう」
「……あ。ああああ!?!?!」
ダンジョンルール
アニメ以外でダンジョンの知識をつけてはいけない。に抵触してしまった!!
「あにめでも言ってるから知ってるかと思ったわい」
「すみません、まだ半分くらいしか見れてなくて。3階層まで見ておけば攻略には関係ないかと……知ってしまうとどうなるんです?」
「まあ、大丈夫じゃろ。一つ破るたびに次の攻略時、全ふろあの敵が倍になるだけじゃ」
倍?!
二階層の一階部分では、一階層のボスであるゴブリンが2体いた。
「じゃあ、もともと炎トカゲが2体でるダンジョンだとしたら……4体でるってことです?」
「うむ。頑張れ」
頑張ってなんとかなる話なのか?!
俺は炎を回避出来るとしても、皐月と美希が守り切れるかわからない。危険すぎる。とはいえこの修行を2人にさせるわけにも……
「修行を続けさせてください。もっと強くならなくちゃ」
「うーむ。でもそろそろワシも新連載を練りたくてな」
「そんな……」
先生が余計なことを言うから……いや、アニメを見ていない俺が悪い。攻略云々はおいといて、教えを乞うのなら、せめて代表作は原作とアニメを全話見ておくべきだった。
「あと一週間! 一週間だけお願いします!」
「うーぬ。仕方ないの、一週間だけじゃぞ。山田に連絡しておくわい」
「ありがとうございます!!」
俺はより一層修行に励んだ。問答無用先生との修行が終わった後も、自主練習したり筋トレしたりした。
しかし、とうとう最終日まで、試験をクリアできずにいた。
「今日で最後じゃ。よいな!」
「……はい! 全力で行きます」
「こい!!」
俺は飛びかかり、前蹴りを放つ。
それを片手で掴み、ぶん投げられた。
受け身をとり、すぐに正拳突きの連打をする。
すべての攻撃がヒットする、というかわざとくらってくれているが、まったくダメージにはならない。
焦りからか、美希と皐月が、目の前で死んでしまう映像が脳裏に浮かんだ。
「俺は強くならなくちゃいけないんだ!!」
渾身の全体重を乗せた右フックを、人差し指一本で受けとめられた。本当に人間なのか?
「ゆくぞ! 一撃バラバラ殺人拳!」
く、くる!!
先生の全身、とくに足元から揺らぎがうまれ、それが拳に集約するかと思うと、凄まじい勢いの拳圧が飛んできた。
俺はそれを間一髪受け流したが、ダメージは体にだいぶ残っている。
あと2発も受ければ、気絶してしまうだろう。
まてよ、以前の俺は、先生の力の流れが見えていなかった。それが、気づくと感じ取れるようになっている。あれを俺も打つことが出来れば……!
「先生、俺の一撃受けてください!」
「ぬ、よいだろう!」
問答無用先生はドンと構えた。巨大な仏像を前にしているような圧を感じる。覚悟を決めろ、これを外せばまた次の奥義が俺に炸裂するだろう。
「こぉほぉおおおおお」
先生が自身の修行を見せてくれていた時の呼吸法を、見様見真似で自主練していた。足の先からエネルギーの揺らぎを捉え、拳に集約していく。
「ああああああ!!」
「その気の流れ、まさか葛城坊!」
目をカっと開き、問答無用先生は笑った。
「問答無用流極意・六の型 一撃バラバラ殺人拳!!」
弾けてしまいそうな力の塊が暴発する寸前に、発声と共に正拳突きを解き放つ。
先生の腹部に直撃すると、自分の中で暴れていた何かが、先生に流れていくのがわかった。
「ぐぅううう!! だぁああ!!」
バチン!
という音と共に、先生の髪をとめていたゴムがちぎれた。俺の打ち込んだエネルギーを流したんだろう。ポニーテールがほどけ、手入れされたサラサラの白髪が揺れる。可愛い。
はっ、見惚れている場合ではない!
次の一撃がくる!
俺は急いで構えようとしたが、体の力が抜けてゆき、倒れてしまった。
「そ、そんな……」
気絶こそしないが、立ち上がることができない。とんでもない反動だ。こんな技を先生は連発していたのか。ゆっくりと先生が近づいてくる。とどめをさされてしまう。
動け、動けよ!!
大声を出す力もなく、心の中でむなしく叫んだ。しかし、先生は倒れる俺を掴み、持ち上げた。
終わった、俺の負けだ。この体では奥義どころか、投げ飛ばされるだけで気絶するだろう。
「合格じゃぁああああ!!!!」
「……へ?」
投げ飛ばされることはなく、ただ赤子をあやすように持ち上げられただけだった。
「よぉくやった! まさかワシの極意の片鱗を掴むとは、驚きじゃ! ういやつめ〜!!」
先生は俺に頬を寄せて喜んだ。
顔は美少女、肌質も10代なので、普通に照れてしまう。
「気絶するまで追い込む訓練は、この極意に耐えられるようになるためのぷろせす! よくサボらずに頑張ったのう、偉いぞ偉いぞぅ」
抱きしめられ、おっぱ、いや大胸筋にうもれながら、半泣きになってしまう。思い返せば小説以外で人に本気で褒められたのは初めてだった。
小説は、素人であれば書けるだけで褒められる。普通の人には10万文字以上の物語の執筆がそもそも出来ない。だが、プロを目指す以上そこでは喜べなかった。
単純に努力を認められ、褒められるのってこんなに嬉しいんだな。
「先生ェ……ありがとうございました」
「葛城坊はワシの愛弟子じゃあ。今日はご馳走じゃて!」
ひたすらに絶賛は続き、食事も本当に毒キノコではなく、国産牛ステーキが出てきた。この家、毒キノコ以外の食料あったんだ。
食事を終え、出されたお茶を飲む。毒は入っていなかった。辛い修行の日々も、今日で終わりだと思うと少し寂しい。
「その技は奥義として取っておくのじゃ。ワシのように連発はまだできん。が、威力はなかなかのもの。低層階のモンスターは一撃じゃろう」
「はい! 全て先生のおかげです、ありがとうございます!」
「よし、今夜は抱いてやろう」
「いや、大丈夫です!」
「なあに、遠慮するな遠慮するな!」
「攻略前に死んでしまいます!」
「ぬぅ、それは可哀想じゃのう。もっと強くなったらじゃな」
「はい、その時はぜひ」
「では口でしてやろう! 性を喰らうのも若さの秘訣じゃ!」
なんだって?!
それは、ぶっちゃけ魅力的だ。顔は本当に可愛い。美希と皐月が無防備に遊びに来ることでのムラムラも溜まっている。
「え、あ、じゃあ、お願いします」
「がはは! 気絶するまでするぞい!!」
先生と夜の体育を行える人類がいるんだろうか。まあいるのか、世界は広い。地下にダンジョンがあるくらいだからな。
ちなみに断っておくべきだった。超絶テクだったが、本当に気絶するまでされた。
なんなら1番キツい修行だったかもしれない。
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