21話
「ぷはぁ!!」
俺は顔に水をかけられて目覚めた。
「よし! 気絶するまで打ち込めたな! 葛城坊、おぬしなかなか気絶が上手じゃな!」
「ありがとう……ございます?」
俺は起き上がり正座をした。気絶が上手ってなんだ。
「そこまで追い込める時点で才能じゃ。多くのものは、自分を気絶するまで追い込めぬ」
「そうなんですね」
もうだめだーと思った頃に掴んで投げ飛ばされて気絶してるだけなんだけどね。
「では飯にしようぞ!! 胃腸から鍛えるために、まずは毒キノコを気絶するまで__」
「先生、それは気絶ではなく死んでしまいます」
「問答無用!! くえー!!」
「ぎゃー!!」
こんな修行が一ヶ月続いた。
後から教えて貰ったが、致死性の毒キノコは流石にどけて、問答無用先生が食べているらしい。なぜ死ないのか聞いた所「よく噛んでるからじゃ」と言っていた。意味がわからん、逆に死ぬだろ。
気絶するまで問答無用先生を攻撃し続ける。食事を摂る。たまに対話による哲学的な(?)問答。修行自体は3〜4時間で終わる。これを繰り返す。
最初は本当に意味があるのか? と思っていたが、修行の後にたまに行く倉庫整理のアルバイトで、その効果を実感した。
明確に筋力が底上げされている。全身の体幹や、筋肉の連動、そして何より、並大抵のことではメンタルがブレなくなっていた。
朝忘れ物をしたくらいで半日へこんでいた軟弱メンタルが、嘘みたいに強くなっている。
以前は両手で持ち上げていた荷物も、片手で持てるようになっていた。
最初は全身痺れたり、吐いていた毒キノコも、次第に食べられるようになっていた。
3ヶ月がたった。
修行を終え、食事(毒キノコ)をしながら、談笑している。慣れると問答無用先生との会話は苦ではなくなった。誘導尋問のようにする必要がたまにあるが。
「問答無用先生、一つ伺っても宜しいでしょうか?」
「美肌の秘訣か?」
「違います」
「朝晩と30分かけて、保湿することじゃ。あとは修行で汗をかき、毒キノコから栄養をとることじゃな」
無視してすすめよう。これも先生と会話をするコツだ。
「いつも伺っていますが、俺は3階層をクリアするのに、あとどれくらい鍛えればいいでしょうか?」
「山田との関係か。いいじゃろ、答えてやろう」
「いや、別に聞いてないです」
「あいつはワシの編集であり、戦友じゃ」
「だから聞いて……え?!」
「クリエイターズダンジョンは山田なしでは完成し得なかった」
初めて問答無用先生の問答無用会話が役に立った。まさか山田さんがこんなビッグネームの編集も担当していたなんて。
考えてみればそうか、紹介するだけで無償で修行をつけてくれるなんて、関係性あってのことに決まっている。
「そうだったんですね」
「ああ。あとセフレじゃ」
俺はキノコを吹き出した。関係性ありすぎる。
「冗談じゃて。なんじゃ、不服か? 相当可愛いぞ、ワシ」
「確かにお顔はとても美しいかと」
「お顔は?」
やばい、次の発言を間違えたら殺されるかもしれない。
「体は鍛え上げられてますからね。性的に見るのも失礼かと」
「体の方がエロいじゃろ。みよ、この上腕二頭筋を」
腕を曲げると、筋肉がより盛り上がった。問答無用先生の顔よりも力こぶのが大きい。
「その界隈では、そうかもしれません」
「うむ、仕方ないのう、そんなに欲しいか。葛城坊、今夜抱いてやろう。気絶するまで」
「せっかくですが、遠慮しておきます」
せっかくなのは本心だ。顔は本当に可愛い。柔軟を補佐してくれる時に、顔が真横に来るとドキドキしてしまうほどだ。
ただ、気絶するまで抱かれれば、二度と目覚めることはないだろう。普通に死ぬ。それに体がムキムキすぎて興奮できる気がしない。
「ぶはは、据え膳食わぬは男の恥じゃぞ」
「先生は据え膳なんかじゃありません。フルコースですから」
「よく言った!! 今日はキノコを気絶した後も食っていいぞ!」
「嬉しくないです」
「ぶはははは!」
最初はすぐ毒に負けて気絶していたが、最近では数分手が震えるだけになっていた。毒で気絶できないなら、腹一杯で気絶しなくてはいけないのかと思いバクバク食べていたら、貴重な毒キノコを無駄にするなと怒られた。先生の朝採りらしい。
食べていた理由を伝えると「そんなことして何になる?」と言われた。
いや、こっちが聞きたい。まあでも、とりあえず言われたことを素直に実践しよう。
なにより、クリエイターズダンジョンの作者であることが大きい。同じクリエイターとしても、尊敬できる大先輩だ。
「よし、そろそろ頃合いじゃろう。ワシも新連載の準備があるしな。てすとを行う! くりあ出来れば、この虹の帯を授けよう」
「おおおついに! それに、気になってましたその帯! 問答無用流の帯なんですね」
「いやSDGsじゃ。最近始めた」
「そ、そうですか」
つっこんだらどつかれそうだ。
「あと、可愛いじゃろ。ワシが塗った」
「はい、可愛いです」
我慢、我慢だ!
「では。今まではワシが攻撃することはなかったが、今回からは行う」
この攻撃というのは打撃のことで、掴んで投げ飛ばされたり、拳圧で吹っ飛ばされることは毎日のことだった。最初は攻撃するじゃねーか!と思っていた。
「ワシの攻撃ではなく、体力の限界で気絶できたら、合格じゃ! ではいくぞ、極意!」
「初手極意は俺死ぬのでは?!」
耐えきれず突っ込んでしまった。流石に命に関わる。
「問答無用! バラバラ殺人拳!」
「ぐああああ!!」
突然俺の上半身に打ち込まれた拳で俺は吹き飛んだ。回転して受け身をとり、衝撃を流した。
「殺す気か!!」
「ほら、死んでないじゃろ。直撃にも関わらず」
「え……あ、本当だ」
むしろ、ピンピンしていた。問答無用先生の攻撃は派手だが、なぜかダメージが元々少ない。プロレスのように洗礼されている技は、相手を傷つけないことも可能なのだろう。
「勿論加減はしておるが、初日の葛城坊であれば死んでいたじゃろう」
「おおお……! ありがとうございます!」
強くなっている。強くなりすぎたかもしれない。俺は希望と自信が体の底から溢れてくるのを感じた。
「では、ゆくぞ!!」
「はい!」
1ヶ月後。
俺はまだ合格できずにいた。
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