15話

「美希から離れなさい!!」


「ギャッ!」


 いち早くもう一体のゴブリンの動きに気づいていた皐月が、美希の元に全力ダッシュしてくれていたようだ。

 盾ごとゴブリンに体当たりした。

 小柄なゴブリンは勢いに負け、吹っ飛ばされていく。


「皐月王子〜!!」


 瞳に星をつけ、美希が皐月を王子と呼び自分の手と手を恋人繋ぎしている。ウインクで皐月が応えた。

 俺はゴブリンにとどめを刺すべく、そのまま走った。


「おらあ!!」


 皐月が倒したゴブリンに剣を突き立てた。塵になって消えていく。 

 振り返ると、皐月が俺に向かって片手をあげていた。せっかくなので俺はその手をパチンと弾きにいった。


「きもちぃぃい! 共闘が終わった後のハイタッチ、一度やってみたかったんだ」


「皐月王子ぃ、一生ついていきます」


「キスしてもいいんだぞ」


「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっー!」


「こらこら続きは夜だぞ」


 盾置いて、すげー2人でイチャイチャしてる。俺も結構頑張ったんだけどな……


「姫、あそこの童貞にもキスしてあげたらどうだい?」


 棒立ちで羨む俺をみて、皐月王子が美希姫にいった。


「童貞王子もキスが欲しい〜?」


「どどどど童貞ちゃうわ!!」


「王子もちゃうでしょ」


「あはは、確かに〜!」


「ッウ……」


 この日のために肉体労働のバイト増やしてたのに!

 でもわざわざそれを今更言うのもダサいからいえない!! 

 俺はカッコつけようとしたことを悔やんだ。

 でも、二体倒したんだけどなあ、少しは褒められたい。。


「嘘嘘、拗ねないで凌くん」


 あからさまにガッカリしていたようだ。美希にまた気を使わせてしまった。


「2対1なのに、ゴブリンに切りかかったのカッコよかったよ」


「美希ぃぃいいい」


 美希は、上目遣いで少し恥ずかしそうに褒めてくれた。この子のためなら死ねる。次は俺が突進したい。今なら抱きしめてもいいだろうか。両手を広げて、抱きつこうとした刹那__


「お、宝箱」


「え! みたいみたいー!」


 皐月がゴブリン討伐の報酬として現れた宝箱に気づくと、美希も一目散にそちらに向かってしまった。

 広げた両腕が空を掴んだ。 


「……ッウ」


 ちいかわになりそう。おおきくてキモい生き物だから、俺の場合は"おおきも"か。


「何してるの、凌くんもおいで」


「あい」


 呼ばれたら喜んで行ってしまう。都合のいい男なの、あたし。


「開けてもいい?」


「なんで俺に聞くの?」


「だって葛城くんのじゃん」


 ……もっと感謝しないといけないのは、俺の方だ。そういえば全部俺のためだった。


「ありがとな、皐月のおかげで美希も無事だった」


「いいってこと〜」


 皐月が肩で俺の体を小突いてきた。やめて、そういうのは本当に好きになっちゃうから。


「開けていいよ」


「では、お言葉に甘えて、オープン!」


「おー!! ん、なんだろこれ。薬? はい、凌くん」


 美希が薬を取り出し、俺に差し出した。


「まって、謎の薬飲むのこわい」


「でも飲まなきゃ効果わからないし、凌くんにしか効かないよ? アニメと同じなら、悪い効果のものとかないし」


「複数あれば私が飲んで安全か確認出来るんだけど。あ、でも悪い効果だとしても所有者にしか反応しないのかな?」


 だめだ、完全に皐月に男前力で負けてる。それに美希の言うとおりだ。飲むと腹が下る程度のハズレアイテムですら存在しなかったはず。


「怖がらないで〜。はい、あーん」


 おまけに、あーん付きだ。

 いいながら口を開ける美希の表情が、なんかエッチだ。これを断ったら男が廃る。甘んじて受けよう。


「あーん」


「上手に飲めました〜」


「んぐ……んんっ、がはっ、ぐあああ」


「え、何凌くんどうしたの?! やっぱり吐き出して!」


 美希が俺の背中をさすりだした。


「ぐおおおおああ!」


「嫌! どうしよ、皐月姉!」


「何もおきない」


 ガクンと美希がその場でコケた。昭和なリアクションだ。


「そうだと思った。美希優しすぎ」


「もう! 心配返してよ」


「ジョークジョーク、葛城ジョーク、さあ次の扉にいこう」


 美希が割とマジでムクれていたので、俺はふざけながら逃げるように扉に向かった。

 しかし、次は2階層ダンジョンの2階層目。どう考えても、判断が甘かった。1階目でゴブリンが二体でた時点で、あらゆる対策と覚悟をしなおさなきゃいけなかったのに。


 2階層目に入ると、巨大なワニのようなトカゲが待ち受けており、入ったと同時に俺に向かって火を吐いたのだ。


「ぐあああ!!」


 その翼のないドラゴンのようなモンスターの攻撃は、俺の行動力を初手で大幅に奪っていった。後から追いかけるように入ってきた2人は、倒れている俺に気付くと、守るために前に出て盾を構えてくれた。


「大丈夫?!」


「や、やばいかも。足が火傷で動かない」


 まずい。


 まずいまずいまずい。


 美希と皐月を守ることばかり考えて、唯一の攻撃武器を持つ俺がやられる展開を、まったく想定できていなかったのだ。

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