11話


 完璧で究極なドウテイだと思われ、めちゃくちゃリードされている!

 だがそれがいい!むしろそれがいい! 

 軽く足を曲げ、既に濡れまくりの美希の美希にドッキングする寸前__


「はぁはぁ、ごめん、遅くなっちゃった! 凌くんの調子はどう?」


 美希が、ご帰宅された。走ってきてくれたんだろう、息が荒い。


「……タイムアップ。いい、私は体を洗ってあげた。それだけ」


「……はい」


「元気ない感じで戻って」


「……はい」


「そうそう、上手」


 いや、マジでガッカリしているだけです。


 皐月は扉を開けて、顔だけ出した。1Rなので、すぐに目が合ったようだ。


「おかえり! 葛城くん臭すぎるからお風呂入れてた。二週間入ってないって」


「え! 大丈夫? 手伝おっか?」


「あ、じゃあ体拭いて髪乾かしてあげて、なんも自分じゃできないから」


「わかった!」


 そのままスタスタと出ていってしまう。俺の天をついていたバッキーも、意気消沈していった。


「えー! 皐月姉も裸になってたの?」


「だって着替えないからさ」


「皐月姉男前すぎ! 凌くん、お礼はちゃんと言えたー?」


 話しながら俺の元へ、バスタオルをとって美希が来てくれた。


「……うん」


「うわあ、これは重症だ。お風呂入れてえらいねー、はいフキフキしましょうね〜」


 俺の死にそうな顔を見て、3歳児をあやすように体を拭き始めた。


「葛城くん、結構良い体してるよね」


 皐月が丸机の上に放置されていたドライヤーで自分の髪を乾かしながら、美希に話しかけた。服はもう着ていた。


「ちょっと思った。ちん……ここは拭いて良いのかな」


 美希が恥ずかしそうに返事をした。なんだか悪いので自分でゴシゴシした。


「あ! えらーい、自分で出来たね〜、はいお着替えしましょうね」


 パンツとダル着上下を洗濯カゴから出して、履かせてくれた。美希は俺の愚息から意識的に目線をそらしているようだ。

 これはなんかこう……いいな。

 あらたな性癖が芽吹いた瞬間である。いつタネを撒いていたのだろうか。


 そんなことを考えていると、着替えて髪を乾かし終わった皐月が、美希にドライヤーを手渡した。皐月はコンビニの袋をあけて、うどんのつゆやノリと混ぜてくれている。 


 俺は2人の優しさが染み渡り、男泣きしてしまった。


「凌くん? どうしたの、大丈夫?」


「2人とも、ありがとね。迷惑かけた」


「いいよ、気にしないで」


「良い子ー! いつも凌くんに戻ったね、よしよし」


 首に無自覚におっぱいを当てながら髪を乾かして、頭を撫でてくれた。俺もしかして、今この世界で1番幸せ者なんじゃないか?


 自分でもう食べられるのに、美希にうどんを食べさせてもらった。 


「葛城くん、原稿美希にも見せてあげていい?」


「うん。ノートパソコン開いたら見れるよ」


「編集終わってたんだ! すっごい期待してたよ皐月姉。てことはもう読んだんだね。どうだった?」


 ノートパソコンに向かいながら、美希は皐月に話しかけた。


「読めばわかる。私は当分立ち直れないと思う」


「またまた〜! どれどれ」


 読み始めると、美希は無言になり、ひたすら読み続けた。俺は皐月に面白いと言ってもらえたが、それはたまたま皐月に刺さっただけかもしれないと思い、ビビっていた。

 俺は沈黙に耐えられず皐月に近づき、小声で話しかけた。


「やっぱりつまらないのかな?」


「歯磨いてきて。ドブの臭いしてる」


「あ、はい、すみません」


 会話のドッチボールだ。せっかく皐月の体液と、美希が食べさせてくれたうどんの口を洗うのは少々心残りだったが、会話をして貰えないのは悲しいため、歯を磨いた。

 磨き終え戻ると、皐月が手招いていたので、近くに座った。


「はーって、息かけて」


「はーっ」


「くっさ。下水人間じゃん。あと3回磨いて。舌も。うがいも20回」


「はい」


 さっきまで嬉しそうに舌絡めてましたけどね?! 

 まあまあに辛辣な言葉だ。美希が反応しているかと思い目を向ける。しかし、まったく気づかずに原稿データに食いついていた。


 指示に従い歯磨き3回とうがい20回を終え、リビングに戻る。また同じく皐月が手招いていた。

 目の前に座ると、俺の顔に、はーっと息を吐いてきた。俺は鼻呼吸で深くそれを吸い込んだ。甘い香りがした。満足していると、頭をこづかれた。


「いだっ」


「チェックするから私にも息かけてって意味」


「あーね。はーっ」


「うーん、ギリギリ許容の範囲内。で、なんだっけ?」


 会話の許可が降りた。


「黙って読んでるから、つまらないのかなって」


「それはない。あれがつまらないなら、センスないから脚本家やめた方がいい」


「ええ? でも俺は全然完成には程遠いと思ってるよ。頭の中のが面白いんだ」


「それがさらなる伸び代なのか、完成系が間違いなのかで、さっきの続きをするか決める。久々の感覚で、ちょっと舞い上がってた」


「ちょ、聞こえるよ」


「読み終えるまで聞こえないよ。美希も本物だからね」


「そんなに面白いの?」


「なんならまぐれであって欲しいよ。じゃないと私葛城くんのこと……なんでもない」


 俺のことなんだ? 

 串刺しにしたいとか?! 


 バタン! 


 美希が俺のノートパソコンを勢いよく閉じた。なんでそんな強くみんな閉じるの。壊れたら困るんだが。それ買うのに何時間俺がアルバイトすると思ってんだ。


「これは……参考になりません。せっかく一ヶ月待ったけど、今の私じゃ、まだ」


 皐月は、がっくりと肩を落として俯く美希にかけより、何も言わずに肩を抱いた。美希は小さく震えていた。


「なんだよ! だから言っただろ、そんなにわかりやすくガッカリすることないじゃないか!」

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