不運続きの異世界転生

マナ

第1話 異世界転生って本当にあったんだなぁ


 起き抜けに美少女から「貴女は死んでしまいました」と言われたときの心情を述べよ。私は夢だと思ってもう1回寝ようとした。

 美少女に叩き起こされましたけどね。この子、泣きべそかいてるくせに強いぞ。


「創造神たる兄の所業に巻き込まれて、貴女は死んでしまったんですぅ」

「生きてますけど」

「貴女がいま見えている体は精神体。肉体はもうないんですよ」


 そんな馬鹿な。試しに自分の体を動かしてみる。手を合わせようとしたら、手のひら同士がすり抜けた。びっくり。


「足があるのにお化けってことか」

「その認識で間違いありません。ですが、ご安心を。お詫びに私が異世界へ転生させて差し上げましょう! うまくいけば、ご友人と再会できるかもしれませんよ」

「元の世界に帰してもらえないの?」

「私にその力はないんです」


 またべそべそと泣き出した。私が虐めているみたいなので泣くの止めてほしいわ。謝り倒す美少女を宥めて転生について聞きだす。


 そもそも、私が死んだ原因は友人が勇者として創造神に選ばれたことにあった。


 いつもどおりの学校からの帰り道。友人 アカリの足元に突然、魔法陣が現れた。美少女いわく、その魔法陣が勇者召喚の陣。当時、なんかヤバいって思った私は、アカリを魔法陣から突き出そうとした。

 私の両手がアカリに触れた瞬間に魔法陣が発動。中途半端に上半身だけ魔法陣の中にあった私は、上半身と下半身が分かれてしまった。そのせいで即死。元の世界には私の下半身だけ取り残されている、とのこと。

 下半身だけ元の世界に取り残すの止めてほしい。回収しておいてくれよ。


 あと転生とはいっても、姿は元のまま。スキルや称号等が付与されてランダムな場所に転生ってことらしい。それって転移と違うのか? 1回死んでるから転生って扱いらしい。なるほどなぁ。

 元の世界に帰れないなら、せめて勇者として召喚された友人のアカリと近い所に転生させてほしい。そうお願いするも、これもダメ。転生場所はランダムって決まっていることもあるけど、勇者召喚場所は兄のお膝元。何があるか分かったものではないそうだ。

 ランダムで転生してお膝元に行ったらどうなるんでしょうか。その時は逃げてほしいらしい。

 美少女の兄って創造神なんでしょ? そんなヤバいことってある?


「兄は本当に酷い神なんです。負の感情が大好物。定期的に複数の種族間で戦争を起こしています。戦争で負の感情を煮詰めて摂取するヤバいヤツなんですよ。現在は人間至上主義の思想を流行らせ、亜人を虐げています。まだ始まったばかりなので、負の感情は全然集まっていないんですけれども」

「それでいいのか、創造神」

「最近では、モンスター大発生スタンピードを連続で発生させようとしているようです」

「大丈夫か、創造神」

「大丈夫じゃないんですよぉ」


 大丈夫じゃないらしい。美少女は何度も兄を止めようとしているが、毎回失敗している。数千年前からこの空間に幽閉されいて、ロクな妨害ができないそうな。

 天啓として地上の人々にコンタクトをとるが、邪神に目を付けられたと教会に駆け込まれてしまう始末。地上の人達に美少女の呼びかけは邪悪なものからの呼びかけに聞こえているようだ。


 実は邪神なんじゃないの? と聞いてみたら違うと泣かれる。


 元々は昼を創造神が司り、夜を美少女が司っていた。安らぎを与える女神として仕事をしていたらしい。それが、兄の娯楽を止めようとしたせいで、兄から邪魔者扱いを受けるようになった。人にとっては夜の暗がりは怖いもの。創造神の意識操作もあいまって、夜の女神=邪神として扱われるようになったとか。


 この美少女、可哀そうすぎる。


「できれば、本当に可能であればで結構です。兄の目論見を止めて頂ければな、と」

「……それが目的で私を助けたりしてない?」

「ギクッ」


 わっかりやっすいな。嘘が付けない性格のようだ。

 仕方がないから、死なない範囲で手伝うことを約束してあげた。あのまま死ぬ運命を変えてもらうんだしね、ある程度は手伝ってあげるのもやぶさかではない。友人の事もあるしね。アイツがヤバいことに巻き込まれてるところを放っておくのは幼馴染として看過できない。

 アイツ自体を放っておくとヤバいから、ということもあるんだけどさ。


「私ができる、せめてもの力添え。貴女に召喚士のジョブを授けましょう!」

「召喚士? 魔法系のジョブってこと?」

「そうです! そして、転生得点として鑑定スキルを。さらに、スキルガチャを3回分差し上げます!」

「ソシャゲかな?」


 どこからともなくガチャポンがでてきた。あの、100円玉を入れてまわすガチャポン。中身は見えない仕様になっている。

 100円玉のかわりなのか、よくわからないコインを3枚もらった。最近のガチャポンって価格高騰のせいか、200円や300円必要なことが多い。コイン1枚で1回はお得な気がする。


 コインを1枚いれては回す。銀色のカプセル2つと、虹色のカプセル1つゲットした。銀色のカプセルからは「見切り」と「受け流し」。虹色のカプセルからは「豪運」と書かれた紙がでてきた。紙は手に取った瞬間、空間に溶けるように消えていく。

 ところで、「見切り」と「受け流し」なんですけどね。召喚士が持ってるスキルじゃなくない? 格闘家とか、近接戦闘系のスキルじゃないの?


「……召喚士じゃなくて格闘家みたいなジョブにできない?」

「無理です」

「マジか。リセマラはできない?」

「ソシャゲじゃないのでできません」

「女神、ソシャゲ知ってるんだ……」

「ステータスの確認はステータスオープンと言えば確認できます」

「ステータスオープン? ……わ、なんか出てきた」


 薄く青みがかったアクリルパネルみたいなものが目の前に現れた。なんか、ここまでの流れは異世界転生小説のテンプレみたいな気がする。まぁ、これから異世界転生するからしょうがないのか。

 私のステータスはどんな感じなんだろう。


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名前:ウラナ

種族:不死人アンデッド

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 ちょっと待て。


「私の種族がおかしいんだけど」

「大丈夫です。ぱっと見、人間としか思いません!」

「種族も人間でありたいんですけど」

「1回死んでいるとどうしても不死人アンデッドになっちゃうんですよね」

「マジでか」

不死人アンデッドは亜人に分類されています」

「亜人なんだ」


 色々と腑に落ちないが、まぁ仕方ない。ステータスを盗み見るスキルは滅多にないらしいから、種族を開示しない限りは大丈夫と言われた。ここは彼女のいうことを信じよう。

 そのうちステータスの偽装できるスキルを念のため取得したいところ。


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名前:ウラナ

種族:不死人アンデッド

称号:巻き込まれた転生者

ジョブ:召喚士

スキル:見切り、受け流し、豪運、鑑定、召喚

召喚獣:猫?(名前未定)

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 スキルの「召喚」はジョブに必要なスキルだよね。それはそれとして、猫?


「召喚獣のところの猫?って」

「おまけでつけておきました!」

「猫でどう戦うんだ……」


 うーん、この美少女はよくわからない。猫の名前をつけられるようだ。召喚してみると、白黒茶色でおなじみの三毛猫(♂)が出てきた。可愛いね。名前を「ミケ・ランジェロ」とする。

 どこからともなく、イマジナリーアカリが「ウラナちゃんのネーミングセンスがよくわからない」とつっこんできた。

 余計なお世話である。可愛いだろ、ミケ。ランジェロは家名ということでここはひとつ。


 名前を付けたことにより、ステータスの表示が変わった。また、ミケのステータスも確認できるようになった。


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名前:ウラナ

種族:不死人アンデッド

称号:巻き込まれた転生者

ジョブ:召喚士

スキル:見切り、受け流し、豪運

召喚獣:ミケ・ランジェロ(猫?)

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 なんで表示が「猫?」のままなんだ。?の意味はあるのか。


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名前:ミケ・ランジェロ

種族:猫?

称号:女神に授けられし召喚獣

スキル:影魔法、猫の魂九つ、柔軟

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 だから、なんで種族が「猫?」なんだ。美少女に聞いても良くわからないらしい。


 そんなんで大丈夫か、女神。


「これで準備は整いましたね」

「どこが?」

「それでは、貴女を異世界へ転生させます!」

「ねぇ、どこが準備は整ったと言えるの? どこも整ってないんですけど」

「お願いします。貴女の友人を救い、兄の暴挙を止めてください」

「聞いて?」

「この幽閉された地で、貴女のご無事を祈っております」

「女神がNPCみたいな挙動をしないでくれ?」


 美少女が祈りをささげるポーズをする。私の足元に光る魔法陣が現れた。ミケが私の肩に飛び乗る。

 足元の魔法陣は、どこか見覚えがあった。


「召喚士 ウラナ。どうか、貴女の旅路が幸多からんことを」


 その言葉を最後に視界にノイズが走る。ああ、どおりで見覚えがあるはずだ。この魔法陣は学校の帰り道、アカリの足元に現れたものの色違い。アカリの足元に現れたのは赤い魔法陣だったけど、この魔法陣は青色なんだなぁ。



 気が付いたら、目の前には木。横を見ても木。後ろを見ても木。上を見ると青空。下を見ると雑草の生えた地面。遠くの方にも木々が広がっている。

 おめでとうございます。森の中と思われます。


「普通、村の近くに転生しない?」

「にゃん」


 ランダムだからしょうがないけども。食料も何もない中で、森の中に転生させられるだけありがたいのかしら。下手に洞窟に転生するよりは、果物とか食べ物を見つけやすそうだもんね。鑑定スキルがあるから、食用かどうかはわかるみたいだ。足元の雑草を鑑定したら「ただの雑草。食べれるがクソまずい」って結果が出たもの。


 いざとなったら、このクソまずい雑草を食べよう。


「グルルルッ」


 ……何かの呻き声が聞こえた気がする。気のせいにしたい。

 そろっと、呻き声のした方向を見る。なんかでっかい熊がいるんですけど。見間違いじゃないかな。幻覚ってことになりませんかね。


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名前:レッド

種族:血濡れの大熊ブラッディー・グリズリー

称号:名持の魔物ネームドモンスター、戦士 ジョルジュを食らった魔物、人食い

備考:腹ペコなう。めっちゃ強いから逃げた方がいいよ

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 いや、備考。備考がめっちゃ投げやりなんですけど。めっちゃ強いとか勘弁してくれよ。ってか、戦士 ジョルジュって誰?

 よだれをダラダラと垂らしながら、こっちににじり寄ってくる。うん、私達を標的にしていますね。腹ペコなんだもんね。人食いなら丁度いい餌が現れたようなもんだよね。


 じりじりと後ろに下がる。あっちもじりじりと近づいてくる。逃げ足は速いと評判な私だが、このめっちゃ強いらしいレッドくんはどの程度速いのか。


 命がけの追いかけっこなんかしたことはないぞ。


 ミケと私、どちらを先に食べるか選んでいるらしいところをダッシュで逃げる。後ろから重い足音が聞こえてきた。図体がめちゃくちゃでかいから、ある程度は足が遅いらしい。ここがある程度傾斜がついていてよかった。四つ足で走る熊は前足が短い。下り坂を走るのが苦手なのだ。どっかの漫画で見た記憶がある。


 まぁ、それでもレッドくんの方が早いっぽいんですけどね!


 肩にしがみつくミケが影魔法でなんとかレッドくんを足止めしてくれている様子。その隙に木に登ろうとか考えちゃいけない。熊は木登りが得意だからな! なんとか逃げ切るために思考を回転させるが、どこを見ても森が続いていて打開策がみつからない。

 何か使えるものがないかと鑑定しまくってるけど、ぱっと見で毒性がありそうなもの、罠に使えそうなものがない。


 これは、さっそく詰みではないか。なにが「豪運」スキルだ。気のせいか遠くの方で人の叫び声が聞こえる。こんな森の中だ。私以外の人間がいるとは考えにくい。


 ああ、本当に。


「召喚の巻き込まれといい、森の中への転生といい、初対面ファーストコンタクトが強いモンスターといい。この世はクソだな!」

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