70年で終わりを告げる災いの予言
「じゃあ、トムは君と同じ年なんだね」
「そうなんですよ。ただ教育のレベルが違ったので、同じ場で学ぶことはなかったのですが」
「そうだったんだ。じゃあ、王政が滅びた時、君達2人はまだ生まれていなかったんだね」
――教育のレベルが違うって、同じ公立の中学だろうが――。
美桜は自分の顎を覆うように唇に触った。
「私達が生まれた頃には、共和制になっていたんですからね」
「そうだね。富が一部に集中する素晴らしい制度を持つ世界になったんだから」
「どのくらいの期間か、ということは予言に入っているんですか?」
美桜はコミュニケーション能力が高いのか、10日もここにいるはずの凌弥ですら聞けなかったことを、聞き出している。15年前に王政が滅びていただなんて知らなかった。美桜は今すぐ探偵になるべきだ。と、いうか今の質問の答えは気になる。
ドキドキしながら、ビルに注目した。美桜もビルに注目している。視線がビームだったら今頃ビルの顔は無惨なことになるだろうな、ってくらい。
***
ビルは目を泳がせ、背を向けた。口元を手で覆っていた。
災いの予言だった。「もしも、イコエィンの道に背き、ディアフォールを慕うようになれば__」そんな予言だった。予言の実現は王家、ひいては貴族達のせいだった。
「ソフィア」は育ちが良さそうだが、貴族ではないだろう。商人の娘?「トム」はどうみても庶民だ、紛うことなき庶民だ。
どのみち、貴族の末裔であるとなかろうと、14歳と13歳の子に言うことが躊躇われる。だが、予言されている災いの年数くらいなら……。
ビルは見せつけるように指折り数えた。
「あと、55年だよ」
「じゃあ、ビル81歳になるじゃん」
「そうだね。きっと予言された災いが終わるころには、僕はもう生きていない」
だから、災いの後に生まれた「トム」と「ソフィア」をビルは哀れに思った。彼らが生まれる前の大人たちの愚行に巻き込まれてしまった。
「そうだ、ソフィア。君は今夜どこに泊まるの?」
黒髪のソフィアは戸惑ったように、目線を逸した。ほんのり顔が赤い。それはそうか。年頃の女性にこんなことを聞いたのだから。だが、大事な話だ。野宿とは言わせない。
「泊まる場所がないのなら、ここに泊まる?」
そう提案した瞬間、凌弥はギョッとしたように吐きそうな顔になった。美桜はワンテンポ遅れて「よろしくお願いします」とお辞儀した。
*
考えに考え、話し合いに話し合った結果、「ソフィア」の寝場所はドアから1番離れた窓の近くになった。そして何故か、いつの間にかに僕に「トム」がくっついたまま寝ている。暑い。
ふと、窓を見た。当然のように雨戸が閉まっている。
手遅れかもしれないが、せめて2人が「災いから遠ざけられるよう、苦しむことがないよう」にビルは、生まれて始めて主であるイコエィンに祈った。
***
夜中に目覚めた凌弥はビルが隣に引っ付いていたことに気づき、ソソソと離れた。だが離れた先には美桜がいた。仕方がなく、さっきの場所に戻った。
嫌な夢を見た。ここ数日、毎晩だった気がする。朝になれば当然のように忘れていたが、夜中に飛び起きた時は毎晩同じ夢を見ていたことに気づく。
夢の中ではいつも、恐ろしい目に遭っている。そして蛇のような赤い目をした美少年が、昔のMVのように増えてどんどんアップになっていく夢だった。
言ってしまえばしょうもない夢だが、悪夢を見て飛び起きる度に眠れなくなる。当然、昼間にも多少の影響が出る。心の隅にはいつも冷たい何かが出来る。
もう嫌だ、と思いながら凌弥は窓を見た。暖かな月明かりが漏れていた。大切な何かを、誰かを忘れたような気がする。
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