少年と少女の対面

 美桜みおはなるべくキョロキョロしないようにしていた。


 意識を取り戻した凌弥りょうやに、Mr.カールズの家に連れ込まれて、およそ30分。よその家での振る舞い方は習った。とは言え、この世界ではどう振る舞えばいいのか、美桜は知らなかった。下手に日本流に振る舞った挙げ句、失敗したくなかった。どうすればいいのか。「失敗から学べ」という言葉に素直に従うことの出来る謙虚さは、美桜にはなかった。

 せめてもの礼節として、美桜は正座で部屋の隅に鎮座していた。

 これであれば下手にスペースを取ることはない。元の世界実家では椅子だったため正座にはなれておらず、美桜はもぞもぞと足の親指を動かして痺れを逃そうともがいていた。


 凌弥は凌弥で、家族以外の女性に慣れておらず、美桜がいる隅とは真向かいの隅に座っていた。

 ビルは「トム」の故郷の人間だと察し、席を外していた。もしこの場にビルがいたのなら、笑いを堪えられなかっただろう。いくら10代前半で同年代の男女とは言え、30分も離れた距離でだんまりは不気味だ。


 口を開こうとしない自分に苛立ち、美桜は自分への言い訳を繰り返し、遂には凌弥の観察を始めた。

 髪はライトブラウン。青銅のような瞳は感情がグラグラ揺れていることは分かるが、何を考えているのかは読み取れない。思春期特有の周囲のへの強い警戒心?顎は細いが、角はしっかりある。

 そこは羨ましい、と丸顎の美桜は思った。

 肌は色黒。日焼けではなく、生まれつきのような色。顔立ちも濃ゆく、ラテン系を彷彿とさせる。鷲鼻でなければ美男子の部類に入るだろうなぁ。

 九州女性を母に持つ美桜だが顔立ちは薄く、父親が雪国出身であるためか色白だ。


 

 *


 凌弥は覚悟を決めた。

 正直不安だ。家族以外の女性で親しかったのは、幼稚園児か小1のカーリーだけだった。妹ですら10歳。

 それでも、男なら……。古臭い考えだが、背中を押してくれる言葉がほしかった。

「名前、何でしたっけ?」

 あ、第一声ミスった。


「美園 美桜です」

 良かった。怒られなかった。

「オレは朝緑 凌弥」そうオレは自分の人差し指を向けた時、美園さんが先輩かもしれない、という可能性に初めて思い至った。「……です」

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